プレゼントの話1
単調な会議は時計の長針が一周したころに終わった。各自の報告や情報共有など代わり映えのしない会議であった。ただでさえつまらない内容なのに、会議が始まる前にライが愛子の目の前でターゲットを始末したという話を聞いていたせいで、焦燥感に駆られて話に集中できなかった。気づけばカタカタと片足を揺らしていて、隣の座っていたベルモットは何度も鬱陶しそうな表情で僕を見ていた。
会議中はあれだけ今すぐ愛子の様子を見に行きたいと思っていたのに、いざ会議が終わると椅子に腰かけたまま動けないでいる。会いに行ってなんと言えばいいのか。そもそもライとの任務のことを思い出せていいのか。肉親が生きているのか死んでいるのかもわからないままここに連れてこられた愛子に、死を連想させるような惨いことを僕はできない。
ベルモットや他の人達が次々に席を立ち、退出していくのを上の空で見送りながら、意味もなく目の前の資料を眺め続けた。
ライに対する「どうして」と責めたい気持ちを押し殺して、これからどうすればいいかを考えようとするが、思考にモヤがかかっていてまともなことは考えられない。右手で目頭を押さえて大きく息を吐いて冷静になるようつとめた。
何度か息を吐いて、ようやく僕が考えすぎているだけかもしれないと思えるようになった。ともに任務を受けたライだって、なにも冷徹なわけではない。任務によって愛子の精神状態が悪くなれば心配そうな素振りを見せるだろう。今日のライの態度はどうだったか。普段通りだった。つまり愛子は僕が思っているほど男の死に動揺してはないかもしれない。そう思うと少し気持ちが軽くなった。
このままここにいてもしかたがない。立ち上がり、もう誰もいなくなった会議室から出て、早々に本部を後にした。
白い愛車に乗り込み、シートベルトをしてエンジンをかけてから、結局このあとどうしようかと問題が振りだしに戻った。だけどさっきとは違い、ネガティブな考えは少しだけ消えていて、「そうだ、プレゼントを買いに行こう」と思えることができた。研究所に行くのはスコッチがプレゼントを買ってからでいい。行き先が決まったところで踏み込んだクラッチから足を離しながらサイドブレーキを引いた。
下道をしばらく走った後、中央自動車道に乗った。殺風景な風景を見ながら、いったい何をあげたら愛子が喜ぶかを考えた。今まで女性にプレゼントをあげたことはあっても少女にあげたことはない。まったくの未知数で一向に案が思い浮かばない。
研究所という狭い世界で過ごす愛子にとって娯楽なんて食べることくらいしかない。だから嬉しそうな愛子といって真っ先に思い浮かぶのは、スイーツを食べている姿。だがスイーツなんていつでも食べているからプレゼントには向かないだろう。他に喜んでいたものといえば、イタリアにいたときに日本語の勉強のために愛子にあげた絵本がある。擦り切れるほど読んでいたが、あれも絵本が気に入ったのではなく時間を持て余していたから読んでいただけのような気がする。実際、定期的に外に出られるようになってからはあまり読んでいる姿を見ていない。
中央自動車道から高速道路に変わっても何をあげるか決まらなかった。薄汚れた白い壁に囲われた道を走りながら、そのうち、愛子は物をもらっても嬉しくないのかもしれないとさえ思ったが、一つだけ愛子が大切にしているのもを思い出した。今も愛子の部屋の机の引き出しに仕舞ってあるだろう、ベルモットからもらったヴェネツィアンマスクだ。ヴェネツィアの土産に買った大きな蝶のついたマスクを大事そうにしていたはずだ。愛子には大きすぎてつけることはできないけれど、きっと大人っぽいそれに憧れでもあるのだろう。
そこまで考えてから、プレゼントの方向性が決まった。愛子はライが言うように子どもらしくない。僕は子どもには子どもの楽しさや重要性があると思っているが、どうやら愛子自身も大人に憧れている傾向があるのでそういうものをあげるのもいいかもしれない。