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高速道路を下りてから、すぐ近くにある百貨店の地下駐車場に車を停めた。店内に入ってフロアガイドを見ると、子ども用品は九階にあることがわかった。エレベーターに乗り九階まで上がると、まるで別世界にいるような感覚に襲われた。それぞれのショップによって雰囲気は異なるが共通してキラキラ輝いていて、レースやリボンがふんだんに使われたファンシーな商品が壁一面に並べられている。その中でも比較的落ち着いた色合いの店に足を踏み入れたが、ここも眩しいくらいに光っていた。
初めて入る店で右も左もわからずに歩いていると、店員がすぐさま僕に近づき「何かお困りですか?」と笑顔で話しかけてきた。
「五歳の女の子に鞄をプレゼントしようと思っているんですけど、何かおすすめはありますか?」
「五歳の女の子ですと、そうですね……」
若い女性の店員は言葉を一度切ってから、数歩移動してピンク色のエナメル生地のショルダーバッグを手に取った。
「こちらの商品なんかが人気ですね。ピンク色は安定して女の子は喜びますし、エナメル生地なので汚れもつきにくくて親御さんがよくお選びになります。こちらの商品はピンクにウサギ柄のこちらと、色違いで水色にクマ柄があって両方人気ですよ」
ハキハキと店員が商品を説明するのを聞きながら、この可愛らしい鞄を持っている愛子がまったく想像できずにいた。可愛い物が似合わないわけではないが、何か違うような気がする。
遠回しにそう伝えると、「でしたら」と今度は薄紫の花が大きくプリントされたポシェットを見せてきたが、それも愛子のイメージとは異なっていた。次の青いリュックも、赤いハンドバッグも同じだった。
「プレゼントするお子さんはどのような子ですか?」
このままでは埒が明かないと店員が尋ねてきた。
「どちらかと言えば大人しいですけど、引っ込み思案というわけでもないです」
「服はいつもどのようなものをお召しですか?」
「黒い服が多いです」
「でしたら、鞄も黒色にしましょうか」
そう言って持ってきたのは黒いファーで覆われたポシェット。
「こちらでしたら大人っぽいお洒落が好きな女の子が気に入ると思いますよ」
手渡されて持ってみると、予想以上に軽くてふわふわしていた。
たしかにお洒落だ。十代の子が持っていてもおかしくないようなデザインで愛子にもぴったりに思える。他にも黒い鞄がないか尋ねると、店員は嫌な顔一つせず「少々お待ちください」と笑ってその場を離れた。
店員がいない間、近くの棚を見ていると愛子には無縁のような薄ピンクの服や同じような色彩のアクセサリー類が展示されていた。今はこういうのが流行っているのかと感心しながら眺めていると、愛子と同じくらいの女の子二人が僕の足元に駆けてきた。数歩下がって女の子に場所を譲ると、二人は目を輝かせながら棚のアクセサリーや服を手に取った。ラメの入った薄紫のふわふわしたスカートを手に取った一人が、胸いっぱいに息を吸い込んで「ママー!」と店内に響き渡る声で叫んだ。叫び終わるより早く、パタパタと足音をさせて女の子の母親が飛んできた。
「どうしたの?」
「ママ! これほしい!」
「同じようなの前も買ったじゃない」
「あれは違うの。これはお姫様みたいなの! ほしい! ねえ、いいでしょ」
そのやり取りを見ていたもう一人の女の子は「お姉ちゃんばっかりずるい」と唇を尖らせて、少し離れたところにあるビーズのネックレスを手に取って母親に「私もほしい」とおねだりした。しばらく言い合いをした親子だが、結局勢いづいた女の子に根負けした母親がスカートとネックレスをカゴに入れて決着がついた。「その代わり、ちゃんとママのお手伝いするのよ」と二人に言い聞かせながら去っていく親子と入れ替わりに、店員が黒い鞄を三つほど持って戻ってきた。それを見て、さっきの親子のカゴの中身はカラフルだったのに対して愛子の部屋のクローゼットの中は黒色ばかりなことを思い出した。
僕が親子の方を見ていたからか、店員は「さっきの女の子が選んだネックレスも人気なんですよ。ご一緒にいかがですか?」と営業スマイル満点の笑顔で聞いてきたけれど、首を横に振った。おそらく愛子はああいうものに興味がない。だけど普通の女の子はああいうものが好きなんだろう。目の前で笑顔を作る店員も人気商品だと言っていた。
さっきから店員が人気だと言う商品はどれもこれもキラキラと可愛くて、レースやファーがふんだんに使われた少女漫画のヒロインのようなものばかり。あれくらいの女の子はそれが当たり前なのだろう。それに比べて愛子は――。
物思いに沈んでいると、心配したのか店員が躊躇いがちに「お客さま?」と声をかけてきた。
「……ああ、すみません。少し考えごとをしていて」
なんでもないと首を振ると、店員は安心したのか腕にかけた鞄を見せてきた。
ポシェットが二つと、リュックが一つ。最後に見せられたリュックを見たときに「あっ」声が出た。他の大人っぽいものと違い、リュックの上部にウサギの耳がついた可愛い鞄だった。ウサギの耳はついているが、色は黒で生地はフェイクレザーのようでかっこいい。店員の説明を聞き流しながら鞄を見ていたが、「鞄の中の布は青色で可愛いんですよ」という言葉にピクリと肩が動いた。店員もそれに気づいたようでにっこりと笑って鞄を開けて見せてくれた。
「中はロイヤルブルーなんですよ」
青色とも水色とも言えない上品な色だと思いながら、頭の中である日の愛子の声がよみがえった。
――青空はみんなを包んでくれるんだって。
そういえば愛子は空の色が好きだと言っていた。思い出した瞬間、この鞄にしようと決意した。