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エレベーターに乗ってついたのは七階にあるラウンジだった。バーボンは「ここで食べる許可はもらっています」と言って中に入っていく。普段はあまり行かないテラスのそばに行くと、スコッチが座っていた。
「お疲れさま」
「スコッチが一緒に食べるの?」
「そうだよ。バーボンに誘われて、任務を早く片付けてきたんだ」
サンドイッチを食べるために任務を片付けるって、それっていいのか。そう思ったけれど、真面目なバーボンが何も言わないしいいのかもしれない。
席に座ると、バーボンは「食育です」と言った。
「食育?」
「普段一緒に食べない人とも食事を共にしないといけませんし、二人きりより三人で食べる経験も必要です」
「ふーん」
私は食べられたらなんでもいいや。
二人の前と自分の前にコップを置いて、オレンジジュースを注いだ。これで準備完了だ。
「いただきまーす」と手を合わせてから、一番手でサンドイッチを掴んだ。一口食べると粒マスタードとコショウがいいアクセントになっていて美味しい。
バーボンとスコッチが私を見ていることに気づいた。
「なに?」
「美味しいですか?」
「そりゃあ美味しいよ。二人も早く食べなよ!」
そう促して、やっと二人はサンドイッチに手を伸ばした。
バーボンは「美味しいですよ」と私を見て言う。バーボンも一緒に作ったのに、なんだか私が一人で作ったみたいで気恥ずかしい。
「スコッチ、このサンドイッチは愛子が作ったんですよ」
「へえ、上手だな」
「たいしたものじゃないし、バーボンも一緒に作ったの!」
「でもレタスの入れるコツを教えてもらいました」
余計なことをスコッチに教えないでよ。
おかげでスコッチは完全に、初めてのお使いを達成した子供を見る目をしている。そして同じ目をバーボンもしている。
悪い気はしないけど、こんなに単純なことで手放しで褒められたら大人に戻れなくなりそうだ。
二人の視線から逃げるようにサンドイッチを口に詰め込んだ。
「マスタード辛くないか?」
褒めたと思ったら今度は心配してくるスコッチ。平気だと答えたけど、スコッチは私のコップにオレンジジュースを注いだ。
こういう心配はバーボンはしないから新鮮だ。バーボンとは何度も一緒に食事をしているから、私の嗜好が子供っぽくないことを熟知している。そうじゃなければ、私がサンドイッチに粒マスタードを塗ったときに止められている。
「辛くないよ。大丈夫」
「そうですよ、スコッチ。愛子はこれくらいなら平気です」
「そう?」
私とバーボンが言っても、スコッチはちらちら私を見る。そして「しっかりしているとは思っていたけど、マスタードも平気なんだな」と笑った。
ちょっとドキッとして、咄嗟に「食べ物があるだけで幸せだもん!」と食いしん坊キャラを演じてみたが、選択を間違えた。二人から表情が消えてしまった。
そりゃそうだ。私が監禁暴行から救出されてまだ一年も経っていない。彼らの目には、お茶目な食いしん坊ではなく、生きるために必死な子供として映るだろう。
スコッチは私の方に腕を伸ばし、ゆっくりと頭を撫でた。
「ゆっくり食べてもいいからな」
むず痒い。
二人に見つめられながら、また一口サンドイッチをかじる。その間も二人は「もう少し栄養の多いものを食べさせた方が」「やっぱりお菓子は食べさせない方がいいんでしょうか」なんて相談をする。せめて私のいないところでやってほしい。
食べ物まで決められたら楽しみがなくなってしまう。慌てて「サンドイッチだって、野菜も肉も入ってて健康的じゃない」とパンをめくって見せた。
「サンドイッチ、好きなんだ?」
スコッチが聞いてきた。それに頷く。
ボンゴレで軽食や夜食に出てくるサンドイッチが美味しかった。みんなでテーブルを囲んであーだこーだ喋りながら食べた記憶は味覚だけのものじゃない。
ここでも、自由に動き回っていいなら作りたい。ああでも、おなかがすいたときにさっと出てきた方が嬉しいかな。バーボンが組織お抱えのシェフだったらなあ。
なんて思考が脱線する。
「スコッチ、愛子はなんでも好きだから真に受けないでください」
「失礼ね」
「じゃあサンドイッチが一番好きなんですか?」
「……一番ではない」
悔しいけれどバーボンに見透かされていた。
スコッチは笑いながら、また私の頭を撫でた。
「あんまり甘やかさないでください」
「でも、こんな小さいときくらい甘やかしてあげないと。な、愛子?」
「へへ」
同意を求められたから笑っておいた。まるで教育方針で喧嘩する夫婦のよう。私のパパンとママンはバーボンとベルモットだけど。
子供を甘やかすか厳しく躾をするかで話し合うなんて、この組織はなんとも平和だ。
ライは、バーボンのそばから離れてやるなだなんて言わったけど、今のところそんな心配はする必要なさそう。
私は冷めてきたサンドイッチをオレンジジュースで流し込んだ。