先生と別れ、暗殺を遂行した私達は、国から無事三百億円を受け取った。とはいえ、大半は国に返還し、それぞれ受け取ったのは学費と一人暮らしの頭金程度。……だったのだが、私はそれにプラス、家が抱えていた夫妻を精算させてもらったという負い目があった。
 これはかつてそのことについて悩みを打ち明けていた先生が私の卒業アルバムに付録として残してくれた精算ノートを基に、烏間先生が親と話を済ませ速やかに行ってくれた。クラスの皆には申し訳無くて、初めは辞退するつもりだった。あまり家のことは話してこなかったし、なにより、経済的な、デリケートな話題だったから。けれど仲間達は気にするな、と私の背を押してくれた。
「国の金なんだから全部精算すればいい」
 そう言ったのは負債を抱え家族がバラバラになってしまった過去があるイトナだった。迷う私に、重ねて彼は言った。
「お前の家はお人好し過ぎる。今までの厚意が帰ってきたんだと思え」と。その言葉に乗っかるように、他の皆もそうだと言ってくれて、そうして私は、家の中に渦巻いていた経済的な負担から解放されたのだ。
一生かかってもどうなるかと、地獄に片足どころか半身浸かった状態からの脱出で一番効果があったのはお母さんだった。家計簿を担当してたお母さんは、心から笑顔で笑えるようになって、些か若返った。老け込んでた父も同様にだ。兄は肩の荷が降りたのか学業に専念して、借り受けてる奨学金を如何に巧く還すかを考えている。
そして私と言えば、進学するつもりが気付けば秘書になり、世界中を飛び回る日々を送ったいた。
こんな未来があるなんて、先生も想像してなかったかもしれない。
今は社宅として先輩から与えられた一軒家に、縁あって同居している大学生の美術家な女の子と楽しく暮らしている。


 


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