01



ごくり、
喉に張り付いた唾を飲み込むと、俺は意を決して右手を伸ばした。指先がばかみたいに震えているのが自分でもわかる。空を辿るこの手が、ついに目的に届きそうになればなるほど、その震えは大きく細かくなっていく。

心臓は破裂しそうなほど大きく律動していて、どくどくという音が聞こえるんじゃないかと不安になる。ひたすら身体へ血液を送っているからなのか、身体はマラソンをした時と同じくらい熱くなっていて、さっき唾を飲み込んだ喉がひりひりと痛むほどに熱い。

俺は今、人生で一番緊張している。
そしてその緊張している原因は何かと言うと、詳しく語るには30分ほど前に遡る。



俺は共同スペースでいつものように切島と爆豪と瀬呂と集まってくだらない馬鹿話をしていた。その中央の机の上にあるのは今週発売のジャンプ。もう俺は見終わっていたから次はかっちゃんの番な、なんて読みまわしはいつものことで、ただ順番来たぞと伝えて渡すだけはつまらないので、分かるか分からないか程度のネタバレを言うのもいつもの事だった。

「…今週のワンピえぐいことになってんゼ」
「おい言うな殺すぞ」
「カイドウが…」
「上鳴テメェ!!!」

いつもネタバレをしようとすると、物凄い顔で俺の胸ぐらを掴みながらキレ散らかすかっちゃんをみんなでケラケラと笑い飛ばしていると、後ろのキッチンの方で物音がして振り向く。

「カイドウがどうしたの?」
「名前ちゃん!」

あどけない顔で笑いながらそう言ったのは同じクラスの名前ちゃん…俺の好きな人だ。眠れなくて暖かいもの飲もうと思ってとマグカップにお湯とココアの粉を入れてスプーンでかき混ぜながら、俺らの輪の中にすんなり入ってきた名前ちゃんにドキッと心臓が高鳴る。…部屋着、かわいいなぁ。

「苗字って漫画好きだっけ?」
「まぁそれなりに!ワンピくらいは知ってるよ」
「じゃあ全部見たん?」
「…アラバスタ編まで!」
「結構最初の方やん!」

名前ちゃんがそう言うと瀬呂も切島もハハッと笑う。確かにワンピは長いから挫折する気持ち分かるわぁ、でもそんな最初に挫折したのによくカイドウがわかったなぁ、でもワンピって有名だから見てなくてもキャラの名前知ってる人いるよなぁ、名前ちゃんもそうなんだなぁ。そんなことを思いながらクスクス笑ってホットココアを飲む名前ちゃんに見惚れていると、名前ちゃんが「全部読みたいんだけど長すぎて漫画集められない」と言っていて、その言葉におれはある事に気が付く。

「俺、全巻持ってるよ?」
「えっ、うそ!」
「読むなら貸そっか?」

そうだ、俺は小さい頃からの漫画好きが功を奏して100巻を超えるあの本を全て所持している。寮生活になってしばらく経った今、漫画を貸してくれと言うやつはいない。いま名前ちゃんに全巻貸せる状態だ。そう言うと、名前ちゃんはその大きな瞳をキラキラとさせながら俺を見た。うわ、かわいい…好きだ。

「いいの!?借りたい!」
「いいよん、あとで部屋まで取り来て」

嬉しそうにそう言う名前ちゃんにドキドキしながらあくまで表面はいつも通りを演じた。でも多分冷静じゃなかったし、だからこそ女の子に対して「部屋に来て」なんて言っちゃったし、そんなことを言っちゃったから”あんなこと”になったんだと思う。



「うわ…重そうだね…」
「まぁ100巻だからね……」

あの後すぐに解散して名前ちゃんは俺と一緒に俺の部屋に来た。幸いすぐ取り出せるところに仕舞っておいたから準備と言う準備はなかったけれど、とにかく漫画100巻と言うのは信じられないほどの重さだ。男なら持てなくもないけど、女の子なら絶対無理。

「俺、部屋まで運ぼうか?」
「うーん、借りる身でそれは悪いし…返す時も大変そう」
「じゃあ何巻かに分けて運ぶ?」
「往復はちょっとめんどくさいかも…」

確かに過ぎる。さすがに既刊100巻という大きな壁は中々超えられないようだ。どうしたもんかな…漫画の貸し借りでもう少し距離縮まってもっと仲良くなれないかなとか画策したけど、どうやらここまでか…しゅん、と二人して俯いていると、名前ちゃんが「あ、そうだ」と明るい声を上げた。


「ワンピ読む間、お部屋お邪魔しちゃダメ?」


そうすれば重い漫画運んだりしなくて済むし!そんなことを言いながら名案を思い付いたような顔でポン、と片手のグーで反対のパーに押し付けた。え、つまり…名前ちゃんがワンピに夢中な間、俺は名前ちゃんと自分の部屋に二人っきりでいられるってこと…?邪な気持ちしか浮かばなかったけれど、名前ちゃんの「上鳴君がいいならだけど…」とねだるような顔をしたことと、もっと仲良くなってどうにかなりたいという気持ちが勝ってしまい、俺は「いいよ」と二つ返事をしてしまったのだった。

それからは地獄のような時間だった。きわどい部屋着を着た名前ちゃんが俺のベッドに寝転がりながら、足をパタパタとさせて漫画に熱中している。ちなみに漫画は「もう内容忘れちゃった」とかで1巻から、消灯時間も過ぎている夜中なのにも関わらず気にすることなく寛いでいた。身体を揺らすたびに名前ちゃんの匂いが部屋に香ってきていて、俺は手元の漫画に集中できない。

どうにかなりたいというのは付き合いたいとかそういう意味だったのに、いまや違う意味でどうにかなりたくなってしまっている。困った、今日のところは早く帰って貰わないと。悶々とした気持ちを押さえながら「名前ちゃん、また明日にして今日は帰ろう」と声を開けようとベッドを振り向くと。

「…………ガチか、」

そこにいたのは俺のベッドの上ですやすやと気持ちよさそうに眠っている名前ちゃんがいた。さっきから「お」とか「ふふっ」とか聞こえねぇなと思ったら…マジで寝ちゃったのかよ…天使のような寝顔を見つめながら一応何度か「名前ちゃん、起きて」と声を掛けるが、実は彼女が「一度寝たら起きない」というのはA組の中でも有名な話だった。当然俺の声にも反応せず、ゆっくりと穏やかに呼吸をしている。

なんちゅう無防備さだよ…襲われるとか考えてないんかな…可愛いけど厄介この上ないなと逡巡する。こんな無防備な姿を見せられると「俺の事信頼して安心してくれてるんだな」と考える派と「俺だって男なんだから少しは警戒しろ」と怒る派がいる。俺はいま後者の方だ。何度もわかりやすいアピールと態度を出しているのにも関わらず、なかなか気づいてくれない歯がゆさを最近感じていたのだ。更には今日、こんなに際どい格好でふらふらと男の部屋に入ってくるだけでなく、こんな遅くまでその部屋に居座っている。こんな時まで男として意識されていないんだな、と段々いら立ってくる。

…これ、襲われても文句言える立場じゃないよな?

そんなことが頭に浮かんだ瞬間、俺の身体は止まってはくれなかった。つばを飲み込み、震える右手で空を辿る。燃えているかのような熱い身体は自分の身体じゃないようだった。何度も喉ぼとけを鳴らしながら、震える指先は目標のものを捉えた。

ふに、
触れたのはショートパンツの部屋着から伸びる白い太もも。むちっとしていて、ずっと触ってみたいと思っていた。人差し指がそれに触れた瞬間、五感で感じる感触に身体の熱が一気に一か所に集まる。ぐっと指を押し付けると跳ね返そうとする弾力。男のものとは違うすべすべでもちもちな肌に、俺は夢中になって触っていた。

初めは指先から、何本かで触れて滑らせて、今度は手のひら全体で触って揉んだり擦ったり。夢中になってそんなことをしていると、下半身が爆発寸前までガチガチに固くなっているのを感じる。特に躊躇いもなくスウェットを下ろしてそいつを取り出すと、いつもの倍以上のカウパー液が先っぽを湿らせていた。初めて触れた女の子の身体、しかも好きな子で、更に寝込みを襲っているという背徳感。ありえないほど興奮しているのが自分でも分かってしまった。

気が付いたらうつ伏せで眠っている名前ちゃんを跨ぐようにして膝で立ち彼女の後ろ姿を眺めながら、右手でカチカチになった自身をしごき、左手では彼女の肌に吸い付くような柔らかい内ももをひたすらに揉みしだいていた。部屋着の短パンからはチラリと白い下着が見えていて、その先を見たい気持ちで胸が締め付けられる。彼女の内ももを触っていた手を上に滑らせてその下着を指先で触ると、そこにあった内ももより更に柔らかいお尻に触れる。


「うっ…、やばい出る…」


その柔らかい感触だけで限界を迎え、おれは彼女の白い太ももに欲を全て吐き出した。白濁とした液が曲線に沿ってたらりと垂れていく。襲ってくる疲労感を抱えながらティッシュでそれを綺麗にふき取ると、彼女の顔を確認する。
…よかった、ちゃんと寝てた…さっきのようにすやすやと穏やかに眠っている様子を確認し、ほっと胸をなでおろした。苛立ちと興奮のままにやってしまったけれど、こんなことが名前ちゃん本人にバレたら嫌われるどころの話じゃなくなる。絶対にバレないようにしなくては。そんなことを考えながら、名前ちゃんが目を覚ますまでおれは床で眠りにつくのだった。