知らない

 家に着くともう裕大もほのかちゃんも居て、食卓には私の好きなものばかりが並んでいた。こんなに食べれないと思っていたけど、どれもおいしくてしばらく食事制限を厳しくしないといけないなってほどお腹いっぱいに食べた。デザートにとほのかちゃんが買って来てくれたシュークリームまで食べて、お酒まで飲んで至福の時だった。いつしかふわふわして目はだんだん重たくなってきた。

「みずちゃん寝るならお部屋で寝なさい。」

「…う〜ん」

 ちゃんとお布団で寝ないといけないのはわかってるけど動くのがすごく億劫でうつらうつらな返事をした。ここで寝たいななんてお酒で火照った顔を冷たいテーブルに乗せた。隣にはマリちゃんが裕大と楽しそうに話しながらお酒を酌み交わしていた。結構飲む方かなって想像しながら目蓋は閉じていく。

「みずちゃんもうお部屋に行きなさい。」

「う…ん。」

「全然聞いてないよお姉さん。麻璃央悪いけど部屋連れて行ってくれね?てかよろしく。」

 楽しそうに話す裕大に一人で戻れると言いたいのにもう体は睡眠モードらしく仕事の時だったら動く出来たカラダを少し恨む。立てる?と聞くマリちゃんの声に、首が勝手に横に振った。マリちゃんは少し困った顔をして、そして少し悩んだ末に横抱きにして部屋のある2階まで来た。

「部屋、どこ?」

「一番、奥。」

 マリちゃんは奥を目指し廊下を歩く。横抱き、所謂お姫様抱っこは今までに何度も経験してきたけどこんなにもドキドキしているのは初めてな気がする。このドキドキは恋だって知ってる。私がまだ高校生の頃からずっと片思い。でももっと前から好きだったのかもしれないけど、幼い頃は会うたびに結婚しようなんて可愛いことを言ってくれていたのにいつの間にかそれは無くなって寂しく思ったのが初めだった。意識すればすれほど胸は高鳴り、体は熱くなっていく。

「いっちゃん着いたよ。」

「うん。ありがとう。」

 あれほど酔っていたのにもうすっかり覚めていた。そっと下ろされてじゃあと言ってマリちゃんは階段に向かって行く。それが一生の別れかのように何かが押し寄せてきた。

「ま、まって」

 行かないで、私をここへ置いて何処にも行かないで。

「もう少し、あと少しだけでいいから。一緒に、居て。」

「…なら、少しだけ。」

 廊下にずっと居る訳にもいかないから部屋に招き入れた。と言ってもベッドに2人座れるほどのソファーとセンターテーブル、収納棚しかなくソファーに腰を下ろした。

「すごい数の台本とトロフィー…」

 マリちゃんがぼそりと呟いたけどこの部屋静かだし、距離近いしでその言葉はっきりと聞こえた。マリちゃんには今まで私の仕事のことは話したことが無かった。なんとなく普通に接してほしかったし、特別な眼差しは向けられたくなかった。でも今となってはいつか知る日が来るんだとはわかってたし絶対隠したい訳でもなかったから話すなら今なのかもしれない。

「マリちゃんにずっと話してなかったことがあるの。聞いてくれる?」

「…イヤって言ったら?」

「嫌って言うなら話さない。心の中でずっと思ってたことまで話しそうだしで今すごく怖いから助かる。けどね聞いて欲しいってのも本音。」

「うそ、うそ。聞くよ。」

 怖いと口にしたら緊張している手の上にマリちゃんの大きくて暖かい手が握ってくれてポツリ、ポツリと言葉を紡いだ。生まれてすぐに芸能界に入って、アイドルになって、今も役者とアイドルを続けてて今日は久しぶりの休日ってこと。それと。

「ずっと、何年も前から。……麻璃央が好きだよ。…好きって気持ちは伝える気は無かったけど最近メンバーが家庭持つようになって羨ましくなって、久しぶりに顔を見たら、なんだかね、気持ちが抑えきれなかったからだから。だからね返事とか必要ないの。ただ今まで通りで居たいの。」

 話している間マリちゃんは口を挟むことなく驚いたりする表情だけだったけど、好きは別だった。手は離れ頭を抱え込んでしまった。

「マリちゃん?ご、ごめん。」

「いっ、瑞希さ、ん。反則すぎ。」

「えっ、えっ!?」

「俺から、好きって言いたかった。瑞希さん天然だから気付いてないてかもしれないけど、たまに俺への思いが伝わって来るときあってだんだん俺まで好きになって、でも何年も会えなかったからその気持ちも忘れてたけど今日会ってやっぱり好きだって」

「待って!えっ?好き?」

「そうですよ。好きですよ、瑞希さんのこと。」

 もう一つ知らないかもしれませんが俺今すっごく緊張してるんですと言って抱き寄せられた。横だったから耳が丁度胸の一に落ち心臓の、早い鼓動が聞こえた。

「同じだっ」

 一瞬、瞬きするより速くキスが唇へと降った。ごめんなさいと言われて離れてしまった。そろそろ帰ると言って部屋を出てしまった。驚きの放心状態から解放されリビングに戻った頃にはもう帰った後だった。
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