あれから数日。両親も帰国して元の生活に戻った、と言ってもあの一件以来仕事を頼まれることなく平和な日々だった。
 研究課題をするべく部屋で広げてみるものの周りには好きな物だらけで集中が出来ずわりと静かなコーヒーショップのチェーン店でコンセントを拝借してスマホを充電しながら紙にひたすら文字を綴った。冷たい飲み物はすっかり汗だけ掻かされあまり減っておらず、外もお昼から夕焼けが綺麗な時間帯に変わっていた。課題もほとんど終わるほどの集中力が家でも生かされたらどれほど嬉しいものか。チョコレートが入ったスコーンを追加で買い足して残りのモカを飲んでしまい家へと急いだ。

「ねえそこのお姉さん。俺とどう?」

 最悪だ。いかにもヤンキーというか不良ぽい面じゃないか。

「美味しいお酒飲めるところあるんだけど?」

「すみません。私未成年なんで。それに待ち合わせしているので。」

「女?それなら一緒に行こうよ!」

 やっぱりかと思うけど、嘘付いても意味ないのか。面倒だな。辺りを見回してもお一人様なんて見当たらないし、やけにこの男は積極的なこと。そこに前から運よく男性らしき人を発見。今のところお一人様だし数秒、1分くらいなら拝借しても問題ないだろうか、と言うより私の為だ仕方がない。祈ることはあの男性がこの手のものではないことくらい。

「あっ、勝平くん!」

 すっと横を通った彼の腕を思いっきり引いた。

「ね、言ったでしょ。だからお兄さん違う人探していただいても?」

 男は舌打ちをして去って行った。見えなくなったところで男性を解放し顔を覗うと大層嫌な顔をしていた。

「急に申し訳ございません。貴方様に不快な思いをさせてしまい。」

「いえ。急でびっくりしましたけど。以前稽古場で見かけた方だったので。」

「稽古場?」

「えっ、あっ、人違い「あぁ。はい。○○ですね。お顔が見えなかったものですから。」」

 と言っても話しこともなければ、あの稽古場には大勢の人がいらしたから誰かはわからない。けど居たようなみたいな状況。

「本当にありがとうございました。何かお詫び致します。」

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

「そうですか。ではお詫びに何か思いついた時にはこれに連絡下さい。」

 取り敢えず何かあった時ようにと持ち歩いていた会社の名刺を渡した。そこには仕事用の連絡先が記載されているから私用をよく知らない人に教えずに済んだ。

「失礼なければ名前を教えていただけますか?」

「…荒牧です。えっとゆうま?さん」

「あっ、ゆうまって書いてあすまと読みます。松井遊馬です。あの、舞台楽しみにしています。先日少しではありますが見学させていただいて原作で描けなかった細かな描写もしっかり詰まっていて一段と楽しみになりました。お恥ずかしながら貴方様の役どころはわからないのですが。」

 一礼をし彼が来た方向へと足を進めた。


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