日焼けした小麦肌の方が魅力的だとされるこの国で、女は燦々と降り注ぐ太陽光からその身を守るように全身を黒の衣服で覆い隠していた。一切の隙も与えないと言わんばかりの黒は通行人の視線を奪う。そう、例えるならそれは。
「ありゃ魔女か?」
隣を歩いていたミスタがやや困惑混じりの声で呟く。ジョルノは数メートル先からこちらに向かって歩いてくる姿をその瞳に映した。
ネアポリスの乾燥した風が真っ黒なロング丈のワンピースの裾をはためかせる。黒の日傘を持つ手は同じ色の手袋に隠されていて、大きなキャペリンでいまいち表情は読み取れないが、口元まで引き上げられたストールから僅かに覗く頬は血が通っていないのでは無いかと錯覚してしまうほど白い。まるで蝋人形のようだ。
女はそのままジョルノたちの真横を通り過ぎるかと思われたが、突然二人の隣で足を止めた。僅かに身構えるジョルノに「ねえ」と呼びかけてくる。それは幼い頃によく聞いた日本語だった。
「あなた、シオバナハルノくん?」
「!」
「ああ、でもハルノは日本での名前よね…ここではどういう音になるのかしら?」
そう言って女が大きなサングラスを少し下にズラすと、まるで血のような鮮血の瞳が現れた。ジョルノが謎の既視感に襲われていると、足を止めて二人のやり取りを傍観していたミスタが不思議そうに首を傾げた。
「ジョルノの知り合いか?何て言ってんだ?」
「そう――ジョルノ」
「ッ!」
そう呟くと女はジョルノの頬にそっと手を置いた。予期していなかった行動に驚いて咄嗟にゴールドエクスペリエンスで女の手首を掴む。しかし女は全く気に留めず、長い間離れていた恋人と再会したかのようにうっとりと呟いた。
「会いたかったわ、ジョルノ」
「おい!」
二人のやりとりはわからずとも、スタンドを出したジョルノに違和感を覚えたミスタが咄嗟にピストルに手を掛ける。その様子を一瞥した女はあっさりジョルノから離れた。
「(…今の、なんだ?)」
見た目は華奢な女だと言うのに、振り解けないほどの強力な力。そして氷のように冷えきった手。細められた瞳にぞわりと背筋が粟立つ。
「あなた、一体何者なんですか」
「それも含めて少し貴方とお話したいわ。いいかしら?」
じっと見つめてくる鮮血に何も答えないでいると、女はジョルノの後ろに控えるミスタに声を掛けた。
「
「あ?なんだ、イタリア語喋れるのかよ」
「ええ。半分はイタリアの血が入っているわ」
「へえ…ま、半分同じ人種だろうがアンタが怪しい人間ってのは依然変わらねぇな」
「ごもっともね。それを今から説明したいのだけれど、まずはその銃を下ろしてくれないかしら?」
「素直に従うとでも?」
「…そ?それなら結構よ。私の目的は達成されたから」
女はやれやれといった様子で肩を竦めると二人に背を向けて歩き出した。あまりにもあっさりとした態度に拍子抜けする。
「あいつ、今”目的は達成された”って言ったよな?ジョルノのこと知ってるみたいな感じだったし、敵じゃあなけりゃ一体何だったん…あ、おいジョルノ!?」
ぶつぶつと呟くミスタを置いて足を進める。
「待ってください」
遠ざかる背中を呼び止めれば、女はゆっくりと振り向いた。
「貴方のこと、聞かせてください」
女は無言のままサングラスをずらしてジョルノを見つめると、微笑むように目を細めた。