俺の幼馴染みの名前ちゃんは、とても綺麗で優しい女の子だった。
俺は小さな頃から変だとか怖いとか言われることが多かったけれども、名前ちゃんは、名前ちゃんだけはそんなことは微塵も言ったりせず、一人で居ることが多かった俺と一緒に居てくれた。

俺は中学でも高校でもずっとバレーボールを続けていたけれども、名前ちゃんはその間もずっと俺の側に居てくれた。
特に高校に入ってからは俺の活躍する場面が一気に増えて、名前ちゃんはとても喜んでくれていた。
俺は名前ちゃんが居たからバレーボールを続けられたと言ってもいいかも知れない。

でも俺達が白鳥沢に入ってから、名前ちゃんはちょっとずつ変わっていった。
俺と一緒に居る時も若利くんのことを話すことが多くなって、その視線は俺じゃなく若利くんの方に注がれることが増えて行った。
それは傍目から見ても名前ちゃんが若利くんのことを好きだと言うことが分かり過ぎる程分かるものだった。

俺は名前ちゃんに自分の気持ちは告げないままだった。
それは若利くんに遠慮していたとか告白するのが怖かったからとか言う訳じゃない。
ただ俺にとっては名前ちゃんが居てくれればそれで本当に良かったからだ。

名前ちゃんは綺麗な上に優しい人だった。
そんな女の子が若利くんの心を射止めるのはある意味必然で、名前ちゃんが若利くんに告白してから二人は付き合うようになった。
興奮して「OKしてもらえた」と俺に報告してくる名前ちゃんに俺はただ「おめでとう、良かったね」と笑って言った。

名前ちゃんと一緒に居る時の若利くんは、いつも表情が変わらないのに目に見えて柔らかかった。
若利くんも名前ちゃんのことが本当に好きなんだと言うことが分かって俺はその光景をただ黙って見ていた。
俺の気持ちはひた隠しにしてきていたから、誰にもそれがバレることは無かった。
それが俺にとっての唯一の救いだったかも知れない。

俺達が高校を卒業する頃になって、名前ちゃんは日本で活躍する若利くんについて行くと言った。
名前ちゃんと若利くんはそのまま一緒になって、俺の側から名前ちゃんは居なくなった。
小さな頃から俺の隣に居てくれていた温かい存在はその残滓を漂わせたままぽっかりとその形を無くしてしまった。

今も時々名前ちゃんのことを思い出すが、あの時自分の気持ちを伝えていたら何か俺達の関係は変わったのだろうか、そんな風に思う時が未だに俺にはあって、でも俺の心の中にはいつも笑っている名前ちゃんが居てそれだけでもいいような気がした。


まだ君と僕がふたりきりだった頃の話



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