俺の彼女は常ににこにこと笑っているし丸い顔にえくぼが生まれるのがとても愛らしい。この女はこういう可愛い女なんだなって思ってしまう癖があり、その分名前を覚えるのが苦手だった。カナちゃんもナオちゃんも似たようなもんだし、そう言えば俺は何人と付き合っていることになっていたっけと一瞬疑ってしまうが大体が下半身で成り立つ関係性だから名前なんて知らなくてもなんとかはなった。みんな俺の中身には死ぬほどどうでもよくて、元彼の特徴をさらりと真似することができる俺じゃない部分に惹かれている。要はだれでもよくてだれでもよくない。それでも俺はだれでもいい。
ラブロマンスが好きな女どもは俺が他の女とセックスしていたら泣いてしまうのが俺には理解できない。お前らは他の男のスペアとして俺を欲したくせになんで俺に執着心を抱くのか。落ちて来る涙だとか平手打ちとかそんなものは俺が根性なしだからかとてつもなく冷え切っているのだ。俺の中で一人だけ彼女だと思っていたい女はいた。セックスフレンドだとか自称彼女はたくさんいるけれど、そいつは俺と付き合っているのかもあやふやな明確な約束性を持っていない女だった。特段美人なわけではないけれど俺をひどく安心するその女の名前だけはなんとなく覚えている。だけれど俺は呼んだことなんてないけれど。
俺は彼女と一度だけ遊園地でデートをした。俺にしては珍しくセックスは愚かキスもしないで手を繋いでジェットコースターに乗るなり観覧車に乗るなり普通のことをした。繋いだ手は他の女と違って爪も痛くないし真っ白でふんにゃりしていて守りたくなるような手だった。俺の冷たい手よりもあったかくて、俺なんかが繋いでしまうよりはもう少しまともな男がいるんじゃないかと思った。嘘つきな俺はその時に沢山の女に誰かの代わりにされていた。そんなの選ばれたものではなくて踏みにじられているようなものだと誰かに言われたけれど俺の心は嘘をついているから何もかも傷つかない。果たして傷つくのは誰なのか、それでもナイトパレードの電球に照らされてキラキラとしたまつ毛や白い頬を見ると胸のどこかを家庭科のまち針のようなもので沢山の刺され、針山のような心臓になった気がした。彼女は「帰りも楽しい思いをさせてくれてありがとう」って言ってくれたけれど俺には罪悪感しかないまま、帰ってから楽しかった思い出であるはずのつけ耳だとかキャラクターの書いてある入場券をゴミ箱に捨てて翌日収集車に運ばれていった。俺は翌日それをとても後悔することになったのだけれど、あったらあったでもっと気持ちが悪くなっていたのだと思う。

翌日その女は死んでいたらしい。交通事故とかだったらまだよかったのに、早朝から電車に飛び込んで死んだ。あれだけ人に気を使う彼女が朝っぱらから湘南新宿ラインに身投げしたのは突拍子もなく、詐欺師と呼ばれるこの俺が、変な詐欺に引っかかっているみたいだった。お前だけは俺のことを代用品にしてくれなかったのに、他のどうでもいい使い捨ての女どもよりも真っ先に早く死んでしまうのか、その感情は一週間ほど抜けず一応付き合っていたため葬式にまでいった。にっこり笑う遺影と無表情の死に顔を見てこいつはこんな顔をする女だったのかと他人の空似を見ている気分だった。俺の網膜の中でギラギラと光るネオンだとか、彼女の赤らんだ頬だとか、大きな瞳がぐるぐるメリーゴーランドみたいに回ってる。俺のレールっていつ歪んでしまったんだろう。振り落とされてしまった彼女はどうして死んだんだろう。どうか俺は彼女に怨まれていればいいのに。ごめんねなんて泣き出すことなんて出来なかったけれど、他の女の代用品になるんじゃなくて早く彼女の唯一の何かになれればよかったのに。

「うそつき」

彼女の生気がない青白い唇が幻覚なのかわからないけれど、ゆっくりと微笑んだ気がした。


嘘吐きでごめんね



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