スマホ注意



お互いにスマホを見ていたのが悪かった、そう気づいた時にはもう遅くて、ぶつかった拍子にそれぞれのスマホが手からすべり落ちた。

咄嗟に、すいません!と謝りふたつのスマホを拾い上げる。ぶつかった彼は特に転んだりしていないから怪我はしていないだろうと思い、割れてしまったスマホを返す。それでも微動だにしない彼に疑問に思って声をかけた。

「あの、すいませんでした。大丈夫ですか…?」

幸いというには相手方に失礼ではあるが、私の、つい先ほど閉店ギリギリに滑り込みで購入したばかりのスマホには、少し傷がついたくらいで操作に異常はなかった。

すると彼はスマホの操作確認をした途端に、昨日バックアップ取ったばかりだし大丈夫、大丈夫なはず…と何やらブツブツと呟き始めた。少し怪しげに視線を送ると、

「あの、申し訳ないんですけどこの辺りで、今の時間スマホの修理ができるお店を検索してもらってもよろしいですか?」

と急に爽やかな印象になり、私にそう依頼してきた。検索しようとスマホを開くが、先ほど購入したばかりのお店で、もうこの辺りでスマホの修理とかしてくれるところは全部閉まってるからわからなかったら明日持ってこいと言われていたことを思い出す。

その店員のセリフをそのまま彼に伝えると、まじか死んだ と呟いた。あまり聞こえなかった振りをしつつ、彼の行動を待つ。

「あの、今そのスマホ購入したばかりと言っていましたが、データとかってもう入れていますか?もし入れてなかったら俺の命を助けると思って協力していただきたいんですが…」

彼のすごく必死な様子と雰囲気に、データをまだ入れていなかった私は首を縦に振る。すると本当に助かった…とでも言いたそうな表情で、とりあえず俺の部屋に来てもらってもいいですかと、ふざけるなと一発殴っても良さそうなことを言われた。


ふざけるなとは思いつつも、命に関わると言われると殴って帰るわけにも行かず、彼の車に乗り込み彼の部屋へと向かう。

見慣れた景色の中車が止まったところは劇団寮であり、まさかここに住んでいるってことは彼も俳優さんか何か…と思いながら付いていく。

「散らかってるけど、寛いでて」

「すごい男性の一人暮らしの部屋っていう感じですね」

彼のひとり部屋にお邪魔してそう声をかけるが、それっきりパソコンに引っ付いてしまって返答がないため、部屋の中をぐるっと見渡す。

スマホもなくしばらく暇な時間が続いたが、終わったーよし、限定クエできる、という彼の言葉に終わりましたか?と声をかける。

「あぁ、本当にありがと。今度何かお礼させてよ、皇天馬のサインとかならすぐに用意できるけど。なんならツーショットでも」

その発言に、自分でもチョロいなと思いながらも

「皇天馬!!!!!」

と叫んでしまう。もう、年下の男の子ではあるがファンであるのだから仕方がない。
そのあと、夜遅くにあの皇天馬に目の前でサインをもらい茅ヶ崎さんのものへと変わってしまった私の携帯でツーショットを撮ってもらった。

結局彼のスマホは動かないままになってしまったため、また明日スマホを買い返すという彼と時間と場所の約束をしてから家まで車で送ってもらった。

「名字さん、良かったらまた今度うちに来てよ」

そう言った彼の意図はよくわからなかったが、皇天馬のいるあの寮になら何度だって行かせてもらいたい。
茅ヶ崎至と名乗った彼も、少し変わっているところはあるがとてもいい人だし、もっと仲良くなりたいなぁと思っていたし、明日スマホが返ってきたら連絡先を聞いてみようと心に決め、送ってくれたお礼とおやすみなさいを伝えた。





落ちがない