恋なんて
「さよなら、や。名前」
目を合わせることなく侑士は言った。
左手の、薬指にはめていた指輪をゆっくり外して。
1人になった部屋で、ずっとずっと泣いた。
泣いて、泣いて、泣きすぎて酷い顔になった。
仕方なく、友達と明日出かける約束をキャンセルした。
泣き疲れて、早く寝ちゃったらしい。
変な時間に目が覚めてしまった。
4時…何もする気が起きない。
とりあえず、紅茶でも淹れようとリビングへ向かう。
そしたら、飾ってあった写真が目に映った。
侑士と私の笑顔を見て鼻の奥がツンと痛んだ。
「もうやだ…」
侑士から貰った手紙をグシャグシャにしてビニール袋へ詰める。
侑士が買ってくれたお気に入りのワンピースも。
侑士にクレーンゲームで取ってもらったぬいぐるみも。
侑士と一緒に撮った笑顔の写真も。
気づけばビニール袋の中は侑士との思い出でいっぱいになっていた。
あとは…この銀色のリングだけ。
見る度に侑士を思い出して、いつも外さなかった。
小さなキズがいくつもあって、左手を飾ってる。
私の指にぴったり合っていたのに、あっけなくスルリと外れて光を鈍く反射する。
ポトリと袋へ落とすと、左手が物足りないのかくすぐったく感じた。
ベランダへ出ると、澄んだ空気の匂いがした。
もうすぐ朝がやってくる。
また涙が零れそうになって、深く息を吐いた。
侑士が好きだった。大好きだった。
侑士との恋は、幸せだった。
だから、恋なんてもうしない、なんて絶対に言わない。
幸せだったんだと、いつまでも思いたいから。
また、恋をしよう。