意地維持



「……悪い、」

屋上へ向かう階段で聞こえた声は、静かにそう告げる。
直後、可愛い顔した女の子が泣きながら飛び出してきて、あたしの横を通り過ぎた。
見る限りは1年生の後輩だろう。バレンタインチョコを握り締めていた。
「…泣ーかしたぁ!」
「うるさい」
ぶっきらぼうに顔を背ける日吉に、意地悪く言う。

「チョコだけでも貰ってあげればいいのに。女テニの先輩言ってたよ?相手は勇気出して頑張ってるんだから、って」
「へぇ…そう言うならお前はもう頑張ってきたんだな?」
痛い所を突くなぁ…。
チョコ貰った方がいいぞって言っただけじゃん。
「…あ、あたしは相手がいないし。作ってないし」
本当はいるよ。
ちゃんと渡さなきゃって思ってるよ。
「渡す勇気なんて…ないし」
「そうかよ」
渡そうとすれば、息がグッと詰まって…。
…手も足も唇も動かなくなる。
こんな調子だし今年はもう…

「…諦めんのかよ」
「な、何が?」
「渡して後悔するか、渡さずに後悔するか…そこが問題なんだろ。どうせ後悔するんだ、渡してスッキリする方が楽そうだろ?」
「日吉アンタ…何それ!あたしがフられるの前提なの!?」
鼻で笑ったな…。
相変わらず失礼な奴だ…。
「でもまぁ…頑張ってみるよ。日吉がそこまで言うんなら」
「…俺の所為にはするなよ」

鞄の中からチョコを出して渡す。
ちゃんと持って来てるあたり意地を張ってるよな。
「……ずっと、好きでした」
やっぱり日吉は驚いてる。
今の今まで普通に話してたのに。
あーもう、やっちゃった。
日吉の顔ちゃんと見れなくなるじゃん…。

…はぁ…やってらんない。
本命が板チョコ…ってどうなのよ。