「おまたせーっ」
その声で上鳴は振り向くと、浴衣姿の名前が下駄をカラコロと鳴らして近づいてくるのが見えた。
「おー、かわいいじゃん」
「えへへ…ありがと」
素直に褒めると彼女は照れたように頬を掻く。
それを優しい眼差しで見つめる彼。
二人は今日、打ち上げ花火を見に祭りへ来ていた。
普段なら屋台のゲームを遊びまわるような二人だが、今回は上鳴が花火を見るのにいい場所を見つけたと言って名前を誘ったのだ。
「じゃ、行くか」
そう言うと彼は花火の打ち上がる方へ歩き出す。
彼女も、晴れて良かったね、なんて言いながら彼の後についていく。
なにしろ人通りが多いので、彼女とはぐれないようにと上鳴は時折振り返って。
屋台が立ち並ぶ大通りを歩いていると、そこらじゅうからいい香りがしてくる。
それに反応したのか、上鳴のお腹がかすかにキュウーっと鳴った。
「腹減った*」
「いい匂いするね」
「折角だしなにか買ってから行こうぜ」
衝動的に出た言葉に、名前は軽く笑い声を立てた。
たこ焼き、フランクフルト、ラムネにカステラ…と、腹が減っているせいでいくらでも食べられるような気がしてくる。
最後に焼きそばを買うと、店主がニヤニヤして二人を眺めていた。
「おう、ニイちゃん!かわいい彼女連れてんな!」
「えっ」
店主にそう言われて、二人して目が合ってしまい、なんだか急に恥ずかしくなってしまって視線を逸らす。
上鳴が困ったように頭を*いて笑っていると、どうもな!と店主から袋を渡されて、二人は逃げるように大通りに出た。
「彼女だと…思われちゃったね」
「ごめん、嫌だったか?」
「んーん!全然そんなことないよ!」
「…全然?」
「あ、えと…うん…ぜんぜん…」
その言葉の意味を深読みしてしまった彼が聞き返すと、彼女は段々と声を小さくして俯いた。
この空気、どうすっかな…と考えていた上鳴は、切り替えるように明るい声をかけた。
「名前、こっちこっち」
「え?でもこっちじゃ花火から離れちゃうよ?」
「大丈夫、いいから付いてこいよ」
言われた通りに後を追うが、どんどん 打ち上げ場所から離れていく。
人もまばらになってきた頃、上鳴が道の端の草木に隠れた細い階段を登り始める。
名前も彼の背中を見つめながらついていくと、少し開けた高台のような所へ出た。
「すごーい!特等席だね?」
「だろ?」
そう言ってかごバッグからレジャーシートを取り出す。
二人で両端を持って広げると、シートはふわりと弧を描いた。
真正面の名前を見て、上鳴は呟くように言う。
「俺たち、他の人からはカップルに見えてたのかな…」
「…どうだろう。見えちゃったり、するのかな」
苦笑して意味深な言い方をする名前。
シートに座って夜空を見上げると、タイミング良く始まりの合図が鳴る。
-ヒュー……ドンッ-…パラパラ…
「わ、始まったー!」
口笛みたいな音と破裂する音、火花が弾けたような音が続けて鳴った。
色鮮やかな花が空の中に広がって、散らばっていく。
隣で、綺麗だね、なんて言う彼女の瞳は、花火を映してキラキラしている。
その横顔があまりに魅力的で、上鳴は胸の高鳴りを抑えきれない。
「名前!」
「ん?どしたの?」
「俺……っ俺、お前のことが…」
好きだ、と言ったと同時に、お腹まで響く炸裂音が鳴り、夜空に大輪が咲く。
「え?な、なに?聞こえないよ…」
「だからっ!好きなんだってば!」
勢いに任せて言ってしまったのが今更ながらに恥ずかしくなって、決まりが悪そうに顔を火照らせる。
「うん、私も好き」
その返事に、上鳴のテンションは急上昇した。
マジ?マジでか!?と目を輝かせ、笑顔が抑えきれないままガッツポーズを決めたその時だった。
「花火」
こちらを向いて微笑んだ彼女の言葉に、そうじゃねえよと心の中で叫びながら、彼はガクッと肩を落とした。
「上鳴くんと一緒に見に来られて良かった!」
彼女の頬は花火に照らされて色とりどりに色彩を変える。
それはどういう意味だ、と口元がほころぶ上鳴だったが、まぁ一歩前進かな、と夜空を見上げて思う。
一方の名前も、上鳴に言われた言葉に自分の鼓動が激しく鳴っているのを感じていた。
…二人の赤い頬は、花火に隠れて。