掟破りの地元走り
放課後、切島がいたのは、なんとなく寄った家の近所のゲームセンター。
2階への階段を上ると、レースゲームコーナーに少し人だかりができていた。
その中心部でキィィィィと派手な音、そしてトランスの曲が聞こえる。
こんなブレーキ音鳴らしまくってたら嫌でも目につくだろう…。
そう思いつつも横から座席を覗くと、プリーツスカートが見えた。
「…女の子…?」
スカートから覗く細い足がペダルを踏む様子が目に留まる。
どうやらプレイヤーは学生の女の子らしい。
なるほど、みんな素人の彼女が心配で見ているのだろう。
ちらりと画面を見た直後、予想を超える状況に、彼は思わず二度見した。
彼女の挑戦中のコースは、ストレートと急カーブの連続する下り道。
つまり、ドリフトを繰り返さないと、曲がれない。
彼女はブレーキ音を鳴らさなきゃ進めないのだ。
画面左下のマップには、直線とUターンのような道が構成されている。
切島も理解した。その名の通りヘアピンカーブと呼ばれている道が一番多いコースだ。
考えているうちに、車は中盤へ差し掛かる。
直線もほとんどなく、ひたすらに右へ左へ車体を揺さぶられる難関ポイント。
つまりこれから大きく左右にカーブするってことだ。
彼女はブレーキを踏み込むと思いっきりハンドルを切った。
ヘアピンカーブのガードレールが切れているところへ車体がつっこんでいく。
彼女が通っているのはもう道路ではない、段差を飛ぶように降りている。
「掟破り…インベタのインだ…」
そう、誰かが呟くのが切島の耳にも届いた。
意味はわからなかったが、とにかく凄い技ということは、どよめく周りを見れば理解できた。
そうやってカーブ地帯を突破し、橋を三つ渡ってゴールラインを越える。
FINISH!の文字と、記録更新のマークが出て、周囲から拍手が上がる。
それに驚いた彼女は、周りを見回し慌ててペコペコと頭を下げた。
やっと見ることができた彼女の顔は、中学のときの同級生に似ている…というか。
「苗字じゃねぇか!」
「きっ、切島くん…!?」
「でけえ声で呼んじまってゴメンな」
「ううん…!大丈夫だよ」
切島は店の端のベンチに座る名前に、自動販売機で買ったジュースを渡す。
ありがとう、と返す彼女の制服を改めてまじまじと見た。
綺麗に整ったブラウスに、赤いリボン。チェックのスカートと紺のソックス、学校指定であろうローファー。
そのブラウスの胸ポケットと、ソックスの外側に刻まれたマークには見覚えがあった。
「その制服、有名な女子校のじゃね?」
「切島くんに学校が有名って言われるとは思わなかったよ…」
雄英高校に入った切島がそんなことを言うなんて、と名前は苦笑いする。
ああ、そっか…と彼も照れた様子で頬を掻いた。
「でもまぁ…うん、そうだよ」
「けど意外だなー、苗字がそういうの好きだったなんて。いつもこのゲーセンに来てんのか?」
「うん。うちの学校って、ホント、お嬢様〜って感じの子もいるの」
賑やかな店内、名前の声が次第に弱々しくなって、切島は彼女の隣に座った。
私立の名門女子高に行った彼女は、学校帰りにこのゲームセンターに来ているそうだ。
「だから、こういうとこあんまり学校の子に見られたくなくて、家の近所の店に来てるんだ」
女子校の制服でレースゲームというギャップ。
それにそそられる男もいるだろう。切島は危なっかしいな、と思った。
聞けば、あんな風に囲まれることはよくあるらしい。
「切島くんは、レースゲームとかやらないの?」
「レースゲームはあんなんしかやんねえなー」
彼が指差す先には赤い座席の筐体。
配管工が主人公の、ポピュラーなレースゲームシリーズがあった。
「あぁ…私あれいつも負けちゃうんだよね。アイテム使うタイミングとかわかんないし…それにあれ、空飛んだりするでしょ?もうついていけなくて…」
さっきまで急カーブでドリフト決めまくって周囲を沸かせていたとは思えない。
どうやら彼女はリアル寄りのレースゲームの方が得意みたいだ。
「そーだ、苗字!俺が教えてやるよ!」
「い、いいの…?」
「おう!でもその代わり、俺にもさっきのゲーム教えてくんね?」
名前はその言葉に目を見開いた。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなくて。
「苗字すげえかっこよかったし、俺もあれやりてえ!カーブをショートカットするやつ!」
それに、自分と一緒なら何かあっても守ってやれる。一石二鳥だと彼は考えた。
子供のように目をキラキラ輝かせて言う切島に、楽しそうに笑って相槌をうつ名前。
二人がお互いを意識するのはもう少し先のお話。