サプライズカード
16時のチャイムが店内に響く。
私はいつものごとく、倉庫からドライモップを出してフロアの清掃をしていた。
日曜日だし、子供から大人まで楽しめるうちのゲームセンターは客数が多い。
「従業員一同にお知らせです。4階の男子トイレにカードファイルの落し物がありました。黒い表紙にオールマイトのシールがたくさん貼ってあって、中身は…うおっすごっ」
イヤモニから聞こえる先輩の言葉に、思わず反応してしまう。
その声と一緒に、筐体のボタンを叩く音やヒロバトの音声が聞こえてくる。
「えーと、中身全部オールマイトのカードです。外も中もオールマイトのファイルです。オール・オールマイトです」
オール・オールマイトってなんやねん…と心の中でツッコミを入れながら「了解です」と言うと、他のクルーもそれぞれ返事をするのが聞こえた。
さすが平和の象徴、人気No.1ヒーローのオールマイト…。オールマイト専用のファイルを作る子もいるよな…。
「あ、じゃあ私いま1階なんで拾得物ノートに記帳しときますね」
モップがけを終えてカウンターへ向かい、その奥の引き出しから拾得物管理ノートを取り出す。
そこに”16時、4F男子トイレ、カードファイル”と記入したところで”オール・オールマイト”と書きそうになって慌てて修正。
記入後ノートを戻して、店先の掃除をするべく箒と塵取りを手に店頭へ出た。
「あ、あのっ、すみません…!」
ゴミを片付け始めてすぐ、中学生くらいの男の子に声をかけられた。
何かを訴えるような上目遣いで、リュックの紐を握りしめていた。
「僕、ここで『激突!ヒーローズバトル』のカードファイルを失くしちゃって…」
先ほどの落し物のことだろうか…でも違ってたら大変だしちゃんと聞こう。
「どんなファイルか、言ってみてくれる?」
「えっと、これくらいの大きさで、オールマイトカレーとヒーローズチョコのオマケについてくる、オールマイトのシールが貼ってあって…」
ああ…もうこれは絶対そうだ、と私は確信した。
事務所からファイルを持ってきて手渡すと、ありがとうございます!って目を輝かせていた。
もう失くさないようにね、と返すと大袈裟にお辞儀をして店内へ戻っていった。
「じゃー、お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
17時過ぎ、早番の終礼が終わって、退勤ボタンを押す。
そして私服に着替え終えた私は、100円玉を財布から取り出した。
「お〜、苗字ちゃん、今日も一発やってくの?」
「はい…!これはもう習慣なので…やらなきゃ収まらないんです…!」
そう、私は退勤後に一回プレイすると決めているのだ。
やりだすと夢中になって止まらなくなるので一回だけ、と自分の中でルールを決めて。
もちろん、大人気アーケードゲーム、ヒーローズバトルの話だ。
足早にカードゲームフロアへ歩を運ぶが、ヒロバトは埋まっていた。
まぁこういう日もあるさ…日曜日だし大人気だし。
そう思いつつ筐体の順番待ちをしていると、見覚えのあるリュックがそこにあった。
さっきのオールマイトファンの少年だ。
彼はプレイを終え、取り出し口からカードを取った。
それがたまたま視界に入って、私は目を見開いた。口も半開きだ。たぶん今ものすごくブサイクな顔をしているだろうけど、そんなことはどうでもいい。
あれは…!!いつも全然出なくて涙を飲んでいた、私の推し…いや、私の中のNo.1ヒーロー!!
「イレイザーヘッド…!」
「えっ。あ、さっきの店員さん…」
うっかり呟いてしまったせいで、男の子が振り向いた。
そして気づかれてしまった。なんか恥ずかしい。
「あ…ごめんね、邪魔しちゃって」
「お姉さんも、好きなんですか?」
「うん…!イレイザーヘッド、かっこいいよね!クールだし強いし…!!」
仕事が終わって制服も着てないのに、丁寧に話しかけてくれる少年。
…好きなんですか?ってのはもしかして、ヒロバトのことを聞いていたのだろうか…。
だとしたら私、超恥ずかしい返事をしてしまったんじゃ!?
「あの、もし良かったら…もらってください。ファイルを見つけてくれたお礼に!」
その言葉にハッとして彼を見ると、両手でイレイザーヘッドのカードを差し出している。
なんて心優しい子なのだろう…。んーでも、あのファイル見つけたのは先輩だし…貰っちゃうのも気が引ける。
本当は自分で出したいって気持ちもあるんだけれど、このチャンスを逃したくないという思いもある。
頭の中で天使と悪魔が言い合っているのをよそに、少年は笑顔をこちらに向けている。
「じゃあ、交換にしよう!」
迷った末、そう提案した。彼の好みはもうわかっている…。
私はイレイザーヘッドのカードを受け取り、自分のファイルからオールマイトのカードを取り出して見せた。
えっ!いいんですか!?と言う少年に、それはこっちのセリフだ…と思いながらも、もちろん!と返すと彼は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!!」
「こちらこそ」
「あの、また…また来ます!」
「はい。是非またお越しくださいませ。なんちゃって…」
そんなやり取りをして二人で小さく笑い合った。
後にうちの常連客になった彼が、どんなコネを使ったのか、イレイザーヘッドのサイン色紙を持ってきてくれた。