「ええい! このような不純物は一片たりとも残さずに燃やしてくれる! 回路を回せ!」
「お、王様!?」
「――クラスチェンジだ」
「〜〜〜っ…簡単に言ってくれますねえ! 本当にもう!」
「こんな場所へ喚びだしたのは貴様であろうが!」
「だって死ぬかと思ったんですもん!」
感動の再会シーンはものの数秒で終わり、今や緊張感のないやり取りが戦場に響く。流石に子猫丸も苦言を口にしようかと思ったが、先に黄金を纏う男――ギルガメッシュがクラスチェンジする方が早かった。キラキラと光の粒子が男を包んだかと思えば、次の瞬間には魔杖を手に持って佇んでいた。
「やれば出来るではないか」
「ぜぇ、ぜぇっ……ま、魔力が空っけつなんですけど……!」
「流石は我の小間使いよな。暫しそこで休んでいるが良い。――この程度、我にかかれば造作もないわ」
手に粘土板を持ち、余裕の笑みを浮かべながら彼の赤い瞳が眼前に迫る厄災を射抜く。その瞬きの瞬間に彼の背後には幾つもの金色の波紋が広がり、その数と同じだけの魔仗が顔を出す。ギルガメッシュの合図と共に、魔仗の先端は光を帯びて目の前の胞子嚢を次々と焼き払っていた。
「フハハハハハ!! 打て打て打てぇい!」
「楽しそうで何よりです……」
「何、退屈凌ぎには丁度良い。が…この程度で我を翻弄するなど不敬極まり無いわ」
「まさか……」
「うむ、そのまさかよ。流石我のマスター、察しが良いではないか」
「こんなところで『我のマスター』だなんて科白聞きたくなかったです! もう! ありったけの魔力注ぎますよ!」
「フハハ、すぐに乗せられる所も変わらん。扱い易いやつよ!」
名前の身体に無数に走る回路が回り、光が迸る。するとギルガメッシュはニヤリと笑って粘土板を掲げた。
「矢を構えよ、我が許す! 至高の財を以って
ウルクの守りを見せるがいい! 大地を濡らすは我が決意! ――『
彼の背後に展開されたかつての古代国家ウルクの城塞からの遠距離爆撃が、容赦なく胞子嚢を打ち滅ぼす。神代を生きた、ウルクの民の総力までもが結集された驚異の砲撃は凄まじい威力を誇り、やがて周囲の胞子嚢を全て焼き払った。
あまりにも目を疑う光景に、最早志摩も子猫丸も言葉が出なかった。森も無事では済まなかったが、それでも自分達を脅かしていたあの胞子嚢がカケラも残さずに消滅させられたことは、どれだけ頭で否定しようとも疑いようのない事実だった。
「フン、他愛もない。人類悪に遠く及ばん穢れたものに、この我の手を煩わせよって」
「ほんと、助かりました。ありがとうございます、王様」
「……その情けない顔に免じて、特に赦す」
「な、情けな……っありがとうございます!!」
情けないと言われてショックだったが、もう一度ヤケクソになって礼を口にした名前は、ふと彼の身体が透け始めていることに気づいた。それを指摘すれば、彼はこの世界に降り立ったばかりで身体が順応しきれておらず、実体化を保てないと言い放ち、後は貴様で何とかしろと言わんばかりに消えてしまった。座に帰ったわけではないと分かっているから、そこまで取り乱さずにふと放置していた志摩と子猫丸の存在を思い出した。
「……えーっと」
「…………なんや、今の」
「何って言われても……使い魔? みたいな」
「名字さんは悪魔を召喚できへんのとちゃうかったん?」
「あの人は悪魔じゃない」
濁したような言い方をしていた名前だが、そこだけはきっぱりと否定した。
「わたしや君達なんか足元にも及ばない、貴くて尊い、至高の王だよ」
一点の曇りのない言い方だが、子猫丸は恐怖で潰れそうだった。あれほどの圧倒的な戦力に、他者を見下した物言い。そして比べ物にならない程の神々しさを放った存在に、畏怖するなと言う方が無理だ。
それに、そんな男を喚びだした名前にも同じくらい恐怖を覚えた。今までこれといった特徴がなかった仲間が、ただただ怖い。奥村燐とはまた違う怖さが子猫丸の中に渦巻いた。
ガクガクと見るからに震える子猫丸の隣で、志摩はふとあるものに気がついた。名前が無意識に右手の甲を撫でていたのだ。その場所には、以前まで存在していなかった赤い刺青がくっきりと主張している。見たことない模様に、志摩はいつもの笑顔を忘れてしまっていた。
「…それ、何なん?」
「え? あぁ……召喚に必要なもの、かな」
「そんなん前まであらへんかったよな」
「……よく見てるんだね」
「言うとくけどそれめっちゃ目立ってるからな!? 別にずっと見てたわけとちゃうから!」
若干引いた目で志摩を見る名前。慌てて弁解するが、もう遅いようだ。
それからは詳しい説明はなく、三人は京都出張所の祓魔師と合流した。結界内にいる勝呂や燐を追いかけたシュラの背中を見送り、ただ待っているだけの時間が過ぎる。――すると、山の奥から煌々と燃える青い光が夜空を包み込んだ。
「………あおい、ほのお」
ぶわりと青い炎が迫ってくる。瞬きする暇もない程の刹那、気がつけばキラキラと輝く金色がわたしを守るように立ちはだかった。
その色に見惚れている間に、青い炎は消えて無くなっていた。炎が燃やしたのは森でも人でもなく、不浄王ただそれだけだった。
国を、人を照らす眩い金色も、無くなっていた。