「珍しいな、お前が起きねェとは」
「ん、んー………」
「何だ、そんなに疲れたのかァ?」
「………んー……」
聞いたことのある声だけど、だれの声だっけ。微睡みに手が届きそうで届かない中、脳がぐるぐると考えようとする。
「………名前」
あまい、あまい声が自分の名を呼ぶ。一瞬左迅や右舷達、それとも騰かと思ったが、それらの名前が口から出ることはなかった。音もなく、ただ唇に何かが掠めるように触れてそっと離れてゆく。
ほんの一瞬だったが、触れた部分から確かな熱を感じた名前は「ん、ゅ……?」ともにゃもにゃとした声を発しながらうっすらと目を開ける。けれどまだはっきりとは見えず、ぼやけた視界では誰なのか分からない。そんな自分の様子が可笑しかったのか、また静かな笑い声が鼓膜をくすぐる。
「名前」
大切そうに、それこそ真綿で包んだかのように、大事に大事に自分の名を呼ぶ声に応えたくて。あまり上手く働かない思考をぽいと放り投げて、緩慢に彼の腰に腕を回した。
「かんきさま………」
「!」
恐らく無意識にだろう。だが確かに自分の名を呼んだ女に、桓騎はゆるりと目尻を下げて腰に抱きついてくる彼女の頭を起こさないように優しく撫でる。そうされれば名前は、もう考えることすらやめて手招きする睡魔に身を委ねた。
「………戻ってこい、名前」
それは桓騎が強く望むことだった。もう一度この愛しい女を自分の側へ。共に戦場へ。そう思ったのだって一度や二度ではない。
けれど、今伝えたところで彼女は戻ってこないだろう。今いる場所を大切に思っている名前のことだ。困った顔をして、だが決して肯きはしないことはもう予測できる。
それでも、彼女の意識がない今だけは、音として伝えたかった。声に出して言わなければ、凶暴なこの想いを抱えて彼女を待つことなんてとても出来やしなかった。
「おたち、おた……おたちら! みて!」
「あ?」
「おあな!」
「おいおい名前! お頭が花で喜ぶとでも思ってんのかァ!? 宝持ってこい!」
「らいど
「……こっちの方が花も喜ぶだろ」
「う? あたま?」
「あぁ」
「えへへ、あいがと、おた…ちら!」
「お頭な、お、か、し、ら」
「らいどうるたい」
――なんて、懐かしい夢だろうか。
いや、これは夢なんかじゃない。かつてあった出来事だ。
「名前」
とろとろに蕩かすように、砂糖をくたくたに煮込んだように、たっぷりの甘さを含んだ声で名前を呼ばれたような気がした。
それがとても心地良くて、懐かしくて。わたしはもう一度その人の名前を呼んで、甘えるように腰に回した腕の力を強めた。