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 もう何度目だろうか。こうして彼の姿を見つけるのは。

 体育館裏で、密かに抱きしめあっている男女。その男の名は黄瀬涼太。今や大人気のモデルにして、帝光中男子バスケットボール一軍レギュラーだ。そんな大層な肩書きを持った彼は、私の彼氏。
 それなのに、彼は私じゃない――別の女の人をその腕の中に閉じ込める。

「…もう、無理なのかな…」

 ポツリと零れた言葉は、誰の耳にも入る事なく消えてしまった。



***



「なー」
「なぁにー」
「いいのかよ」
「…いいんじゃない?」
「……そーかよ」
「そーだよ」

 脈絡のない会話をしてきた青峰君。それでも、何のことを話しているのかなんて分かり切っている。
 一年生の時から同じクラスの青峰君は、こうして私の事をよく心配してくれるのだ。最初は目つきが悪くて、口も悪かったから、絶対仲良くなんてなれないと思ってたのに…。今では学校一番の友達だ。

「私ね、あんな風に涼太君に笑ってもらったことも、見つめてもらったこともないの」

 教室の窓から見えるのは、二人で笑いあってる涼太君と、例の女の子の姿。あの女の子はバスケ部の二軍のマネージャーさんだそうだ。
 ここからでも分かる。あの女の子の目は恋する目。だって自分もそうなのだから、わからない方が変だ。

「…青峰君、」
「…なんだよ」
「私ね、涼太君に……『好き』って、言ってもらった事ないの」
「…そうか」
「…うん、そう」

 青峰君はただ一言そう言って、私の頭をぐしゃぐしゃっと乱した。不覚にも、その暖かさに泣きそうになったのは秘密。
 だけど、彼はそれさえも分かってるんだろう。だって、私が泣きそうになっているのを知っていて、その手を動かす事をやめないのだから。

「……ありがとう」
「おー」

 もう、終わらせてくるよ。この不毛な恋に。

 ――放課後、私はバスケ部が終わるのを待っていた。待つ時間は凄く暇だったけど、これからの事を考えていたら案外すぐだった。体育館の扉が開けられ、ガヤガヤとざわつく声が聞こえてきた。やはり、特段と声がでかいのは青峰君だ。
 青峰君は、涼太君や他のバスケ部の人達と話しながら出てきたけど、私の姿を一番に見つけてくれて、驚いたようにその青い目を見開かせた。その様子が可笑しくて、ちょっと笑ってしまった。

「おま、こんな時間に何やってんだよ!」
「えへへ。…終わらせようと思って」

 笑いながら紡がれた私の言葉に、青峰君は分かりやすいぐらい肩を揺らした。こんな青峰君の態度は珍しいのか、カラフルな頭の人達はわらわらと私達に群がる。勿論、涼太君も例外ではなかった。

「青峰っちー? 誰と話して……なまえ?」

 話し相手が私だと分かり、涼太君は目を丸くする。そりゃそうか、だって涼太君には青峰君と仲がいいとか言ったことなかったもんね。
 私は「お騒がせしてすみません」と周りの人に言ってから、涼太君と向き合う。

「ごめんね、何も言わずに待ってて」
「え、あ…いや――」
「涼太君も時間ないだろうし、すぐ終わるから」

 グッと拳を握りしめて、息を吸う。こんなに緊張したのは、涼太君に告白した時以来だ。懐かしい。何を言われるのか見当もつかない涼太君は、チラチラと何処かを見ながら私の言葉を待っていた。
 周りには、バスケ部の皆さんがいるのに。そうやって気にしながらも、私はもう彼と二人きりになるのはもう耐えれなかったのだ。

「別れよう」

 言ってしまえば、何故か呼吸が楽になった。言われた本人は目をきょとんとさせて、言葉の意味をよく理解出来ていない。けれどすぐに慌てて、何言ってるんスか!と声を荒げた。

「じゃあ、私はいつまで見て見ぬ振りをしていればよかった?」
「は………?」
「あの子と、人目につかないようにこっそりと二人きりで会ったり、キスしたり。それを私はいつまで知らないふりをすればよかった?」

 何で知っている、と言わんばかりの顔に思わず苦笑してしまった。

「もう、無理だった。何度も何度も自分を誤魔化してきたよ。涼太君の好きな人は私なんだからとか、彼女は私なんだから、とか。でもね、そうやって誤魔化す度に思ったの。──私、涼太君に『好き』って言ってもらったことなかったなって」

 いつの間にか頬を伝う涙。ああもう、泣かないって決めたのに。最後くらい笑顔で終わりたかったのに、最悪だ。
 そんな私に、涼太君はそっと手を伸ばしてきたけど、私はそれを避けた。途端に驚く涼太君。

「…ごめんね、触らないで。もう私、疲れたの。ずっとずっと、涼太君に似合う女の子でいようって頑張ったけど、頑張った分だけ泣いた」
「けど…別れるなんて、冗談っスよね……。なまえ…」
「私は冗談でこんな事言わないよ」

 グイッと涙を拭い、ここで今日初めて涼太君の目を見る。

 キラキラ光る姿が好きだった。
 憧れを持った強い瞳が好きだった。
 人を魅了するような笑顔が好きだった。
 自信満々なところが好きだった。
 輝く髪が好きだった。

「大好きだったよ、黄瀬くん」

すきでした



目を細めて笑う貴方の事が、大好きでした。