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六十年に一度、冬木の土地に現れるあらゆる願いを叶えると言われている願望器『聖杯』。その聖杯を求めて七人の“マスター”と、彼らと契約した七騎の英霊“サーヴァント”が争う戦いは、『聖杯戦争』と呼ばれていた。
四回目の第四次聖杯戦争。マスターとサーヴァントは7人が通例通りなのだが、この聖杯戦争だけ違っていた。史上初となる“八人目”のマスターが選ばれたのだ。その事実に誰もが驚き、最後に選ばれた八人目のマスターの顔を拝んでやろうと躍起になり、サーヴァントはどのクラスかと使い魔を使ってまで探りを入れるほど。しかし、誰も分からなかった。それも当然。八人目のマスターはサーヴァントを召喚せず、沈黙を貫いていたのだから。
「………よし。誰もまだ分かってない、と」
暗い部屋にモニターの明かりが煌々と照らされる。カタカタカタ…と微かに聴こえる音の他には、女の声しか聞こえない。
女の名はみょうじなまえ。史上初となる八人目のマスターに選ばれた、聖杯戦争の参加者である。すでにそれぞれのマスターが動き始めているのに対し、彼女は表立って何かをしたことも無ければ、サーヴァントだって召喚していない。故に他の七人のマスターは八人目のマスターが誰なのか知ることすら出来ていなかった。
なまえはデスクの上のモニターに目を滑らせる。その数は六台。五台は監視カメラの映像が映し出されており、残る一台には文字と数字の羅列で埋め尽くされていた。キーボードには一切目を落とさず、モニターを注視する。すると突然部屋の明かりがパッと点いた。ビクッと大袈裟なくらい肩を揺らすと、ガタンッと膝をデスクで打つ。走る痛みに悶えていると、呆れたような声が降ってきた。
「何をしている」
「っ〜〜〜〜! く、来るなら来るって言って下さいよ、ギルガメッシュ!」
「何故我がわざわざ言わなければならんのだ。戯言を言うな、雑種」
「突然現れるのは寿命が縮むって言ってんですよ! もう!」
部屋の電気を点けたのは、今回の聖杯戦争で御三家の一人・遠坂時臣に召喚されたサーヴァントだった。その正体は古代メソポタミアの都市国家“ウルク”を治めていた、人類最古の王“ギルガメッシュ”。今回のクラスはアーチャーとして限界した彼だけが、八人目のマスターの正体を知っていた。
「で、今日は何しに来たんです?」
「暇だったのでな。遊びに来てやった」
「結構です、帰れ」
「貴様、王である我に向かってその態度は万死に値するぞ」
「ここには貴方様をおもてなしする物が何一つ御座いませんので、どうぞお帰り下さい」
「構わん。雑種のその顔が見れただけで良しとしてやろう」
ギルガメッシュとのやり取りに、なまえはげんなりとしてキーボードから手を離した。電気を点けたせいで目が疲れているのがありありとわかる。ぐりぐりと目元を揉みほぐし、ぐんと伸びをした。彼が言う『その顔』とはなまえが嫌がる表情の事だ。
ギルガメッシュがなまえの正体に気がついたのは、全マスターとサーヴァントが冬木の地に集った数週間後だった。度々己のマスターである遠坂時臣の元から離れ、教会に住まう時臣の僕・言峰綺礼に愉悦とはなんたるかという話をする為に酒を持って行く途中、奇妙な使い魔を見つけたのだ。他の使い魔と見目は同じなのだが、“何か”が違う。その違いは普通の人間には分からないものだが、ギルガメッシュだけはそれを感じ取った。その見目麗しい顔をニヤリと愉しげに歪め、使い魔が帰るところをついて行く。そうしてたどり着いた先が、なまえの家だったと言うわけだ。
「まだサーヴァントを喚んでいないのか」
「そうですねぇ……。召喚する聖遺物も無いですし、聖杯戦争に参加するつもりも無いですから」
「だが、貴様とて聖杯に選ばれて令呪を与えられた者。心の奥底には願いがあるのではないか?」
それは、皮肉にも言峰綺礼に送った言葉と似たものだった。王は試しているのだ。この女が果たして自分の眼鏡に叶う答えを返してくるか。そんな想いなど露知らず、なまえは椅子をくるりと回転させてギルガメッシュと今日初めて向き合った。赤い眼差しが自分を貫いているのに、彼女は動揺すらしていない。むしろあまり見せない笑顔すら浮かべていた。
「願いならありますよ。……それこそ、ずっと」
「ほう……? 我に話すことを許そう。何だ、お前の願いとは」
「う、上から目線ですね本当に………。…ギルガメッシュにとったら、取るに足らない下らない願いですよ?」
「構わん。我にとってはどの願いも下らんわ」
そう言われてしまえば、なまえとて断る理由はない。誰にも話したことがない、己の願いを彼女はそっと口にした。
「………………」
「……あの、ギル? 何か言って下さい」
「フッ……ハハハハハッ! 何だ、貴様の願いはそれか!」
「ちょっと、笑うってひどくないですか!?」
「そんな願いを『ずっと』とは……いいぞ、ますます気に入った」
「そんな願いとか気に入ったとか……好き放題言ってくれますね…」
「ならば、尚更聖杯を獲らねばなるまい? こうも引きこもっていては勝てる戦いも勝てんぞ」
「だから、話聞いてます? 参加するつもりはないんですってば」
「しかも貴様の願いとやらは、こんな狭い箱に居ては確率も下がる一方ではないか」
八畳のワンルーム。それがなまえの隠れ家だった。魔術師であるなまえだが魔術を使うことはせず、ひたすらパソコンを使って情報を収集、又は操作していた。魔術を使ってすることは、使い魔を使うことくらい。しかもその使い魔の映像を五台のモニターに繋いでいるのだから、これにはギルガメッシュも初めは驚いていた。
「……聖杯戦争の果てをご存知ですか?」
「果てだと?」
「はい。ギルガメッシュなら既にご存知かもしれませんね。……今回の聖杯戦争の本当の終わりとは、サーヴァントを六騎倒すことではありません」
「ああ、その話なら綺礼に聞いたぞ。時臣が最後、令呪を使って我を自害させようとしているとな」
「……ほんと、ややこしいことになってますね、そこも。言峰綺礼が主たる遠坂時臣を裏切るだなんて……。どうせギルが唆したんでしょう?」
「我は選択肢を与えたに過ぎん。それを唆したなどと言うな、雑種」
「分かりましたよ、もう! だから宝具ぶっ放そうとするのやめてください!」
フン、とギルガメッシュは宝具を消してグラスに注いだ酒を飲む。命の危機が去った事にホッとしたなまえは、またパソコンと向き直りキーボードに手を滑らせる。その後ろ姿を眺める王は、彼にしては珍しく柔らかい表情をしていた。
「貴様のような雑種の願いなど、あんな薄汚れた聖杯にくれてやるまでもない。我が叶えてみせようぞ」
「………? ギルガメッシュ?」
「何か言いました?」と首だけ後ろを振り返る。するとよそうより遥か近くにいた彼に、わたわたと慌てて「ギル!?」と略称で呼ぶ。それが心地よく感じ始めたのはいつだったかと、ギルガメッシュはふと思う。その間もなまえの髪を弄ぶように触っているのだから、彼女としては堪ったものではない。あまり他人に触れられる経験が無かったなまえは、顔を赤くしてきゅうと縮こまった。
「何故、サーヴァントを喚ばなかった?」
「そ、れは、だから……聖杯戦争に参加するつもりがなくて……」
「違うな。我がいつまでもそんな虚言に付き合うと思うなよ。良いか、もう一度だけ尋ねてやる。次にまた同じような事を言ってみろ。この首が即座に飛ぶと思え」
「分かりました! 分かったから! く、首を触らないで下さい!」
首が飛ぶと言われながら彼の綺麗な手に触れられるのは心臓に悪い。なまえは彼の手が緩んだ隙に椅子から降りて、先程までギルガメッシュが横になっていたソファーに逃げる。その様子を彼はニヤニヤと意地の悪い笑みで見ていた。
逃げられないと観念したなまえは、手持ち無沙汰になった指を弄びながら口を開いた。
「その、さっき言った願いにも関係ある……少しだけ! 少しだけ関係あるんですけど……」
「そのようにつまらん言い回しを続けるなら――」
「わーわー! 分かってますってば! ………この聖杯で契約するサーヴァントって、最後には居なくなっちゃうじゃないですか」
今度は止める気がないのか、ギルガメッシュは黙って自分の宝物庫から出した黄金に輝く椅子に座り、膝に肘をついてなまえをジッと見つめる。大抵の人間はこの赤い瞳に見られれば恐れるか媚びるかなのに、彼女はそうしない。恐るでもなく、愛を請うでもなく、普通のように自分を見るそれにいつもなら怒るところなのだが――なぜかなまえにそんな感情は抱かなかった。
「……要は、“願い”と一緒です」
その一言で括られた話に、ギルガメッシュは全てを悟った。(なんだ、少しだとか言いながら結局雑種を突き動かすものは“願い”ではないか)と、目を閉じて思う。
「時臣や綺礼の“願い”とはかけ離れているな」
「まあ、他の人の願いなんて興味ないですけど……。願ってしまったものはしょうがないですよね」
「なればこそ、この居場所が特定されればサーヴァントと契約していない雑種など、一瞬で豚の餌になるぞ?」
「死ぬのは心底嫌ですね」
「それでも、喚ぶ気は無いと」
「何回言わせるんです……」
同じ会話を何十回とやったぞと、なまえはソファーから立ち上がりながら思う。が、口には出さない。そんなことを言ってしまえば、自分が一瞬でそれこそ豚の餌どころか塵すら残らない光景がありありと目に浮かぶ。エナジードリンクを飲んでまたデスク前にある椅子に座ると、最初と同じようにモニターを注視する。これが始まればなかなか終わらない事を知っているギルガメッシュは、グラスと椅子を消してなまえが座る椅子をくるりと無理やり回転させた。
「ウワッ! ちょっとギル! いきなりはやめろとあれほど――」
「なまえ」
普段から『雑種』やら『貴様』やらと呼ぶことが多い彼に、名前で呼ばれた。その事実を飲み込むのに数秒かかったなまえは、次いで驚愕の眼差しでギルガメッシュの赤い瞳を覗き込む。その奥底にある感情など、読み取れた事がない。
「我は不本意な事に、あのつまらん男と契約している」
「遠坂家をつまらん………」
「次に契約する事になるのは、恐らく綺礼だ」
「もう次の相手が居るって凄いですね…」
「だが、我はこれでも貴様を気に入っている」
「え、あ、はい。自覚しております……」
そんな改まって言われなくとも、なまえは分かっていた。自分がギルガメッシュに気に入られていると。それが玩具感覚のそれと同じようなものだと分かっていても、彼に遠慮なしの会話が出来るのはそういう事だとずっと前から自覚していた。
「貴様のその願い、我に望めば叶えてやろう」
耳に残るのは、甘い吐息。彼のこんな声、知らない。なまえは目を極限まで開いて残り数センチの距離にいるギルガメッシュから目を離せなかった。
「いきなり、何を言ってんですか………」
「いきなりではない。なに、言っただろう。我は貴様を気に入っていると」
「でも、ギルガメッシュは……遠坂時臣のサーヴァントで、その後は言峰綺礼の………」
「それも、なまえさえ望めば破棄してやると言っているのだ」
「どっどうしたんです!? なんでほんと、そんなことに……」
「我が居れば、聖杯など手に入れたも同然。むしろあんな穢れたものよりよっぽど高貴なるものぞ」
「そりゃそうですけど、ちょっと待ってください!」
唐突すぎて頭がショートしたらしい。顔を赤くして目をぐるぐると回すその様は、今まで見てきたどの顔より愛らしい。獲物を見つけたような瞳でなまえを見下ろすギルガメッシュは、「我の気はそう長くないぞ」と伝えるとそのまま姿を消した。一人部屋に残されたなまえは、ぽかんと情けなくも呆けた状態から暫く動けなかった。
――それから数日後。事態は急展開を迎える。
「チッ……! どうやってバレたんですかねぇ!」
なまえはキーボードを叩きながら文字の羅列を追いつつ、モニターを見張る。そこにはある男の姿が映し出されていた。名を衛宮切嗣。この聖杯戦争において、言峰綺礼と並んで注意しなければならない男だった。そんな奴が、この部屋にたどり着くまでの迷路に足を踏み入れている。
もともとこのワンルームの所在は、地下にあった。この場所にたどり着くためには、なまえが手ずからプログラミングした妨害センサーや移動する壁、はたまたパソコンと魔術を組み合わせた幻覚作用などなど、挙げだしたらきりが無い『迷路』を突破しなければならない。それを難なくクリアしていく衛宮切嗣に、流石のなまえも舌打ちせざるを得ない。しかし、そこはなまえ。すぐに平常心を取り戻してキーボードを叩き、マウスを操作する。
もともとみょうじなまえは、魔術が大嫌いだった。修得するためにあらゆる手を使う家が大嫌いだった。手足をもがれ、眼球を抉られたことだって何度もあった。それでも再生の魔術に長けていたみょうじ家では、それらを再生することなど息をするように簡単だった。死ねない苦痛。終わらない痛み。――だから、なまえを除いた一家全員が殺された時はせいせいした。一人残されたなまえはすぐに屋敷を飛び出し、莫大な遺産を使って部屋を借り、プログラムの勉強を始めた。魔術を使わない生き方を見つけるために。
彼女の“願い”。それは彼女が自我を芽生えさせた時から変わらない、たった一つの糸だった。それでも聖杯なんてものに叶えてもらいたいとは微塵も思わなかった。奇跡の力なんて必要ないし、もしも本当に奇跡とやらがあるのであればもっと早くあの家族を殺してくれていた筈だ。
「わたしは、ここで死ぬわけにはいかないんですよ……」
キーボードを弾く音に混じって、なまえの頼りない声が響く。その間にもモニターに映る衛宮切嗣は、着々とここまでの道のりをたどって来ていた。
「固有時制御……。『時間操作』は厄介ですね…!」
無理だと分かっていた。無駄な足掻きだと。本物の殺し屋から逃れる術なんて持ち合わせていなかった。ここで彼女が、幼少期に磨き上げた魔術を駆使する事を選んでいたのなら、まだ生きる道はあったのかもしれない。けれどなまえは、それを選ばなかった。一族から得た魔術で助かるくらいなら、死んでやる。そう、覚悟を決めた時だった。――ガチャ…と扉が開く音が、なまえの耳にはやけに大きく聞こえた。
「――ギルガメッシュ?」
「なんだ、綺礼」
「いや、お前がボーッとしているのは珍しい。最近何処かへ行っているみたいだが、それに関係しているのか」
「貴様に話す事など何も無い」
探りを入れてくる言峰綺礼を適当にあしらいつつ、彼が考えるのはやはりなまえの事だった。もうあれから数日経つが、顔を見に行けていない。それが酷くもどかしく、ギルガメッシュを苛つかせていた。それだけではない。せっかく王が誘ったにも関わらず、彼女は未だに自分を求める台詞を言っていない。その事も彼にとっては怒りの要因だった。
「もう我慢ならん」
「ギルガメッシュ?」
「ええい、気安く呼ぶでない!」
「何を――」
言峰綺礼がギルガメッシュに目を向けるが、そこに既に彼の姿は無かった。
いつものように突然部屋に行けば、なまえの驚く様子が見れる。ギルガメッシュはその程度にしか思っていなかった。しかし、いざ訪れてみればどうだ。デスクの上のモニターは散々に壊されていて、かつ椅子の近くの血溜まりの中心には今まさに死にかけのなまえがいるではないか。
「おい雑種! 何があった!」
「ぅ……………」
「この我の声を無視するとは良い度胸ではないか! 目を開けろ、なまえ!」
強くなまえの名を呼ぶと、彼女の目蓋がぴくりと動く。そのままゆっくりと開かれていき、エメラルド色の瞳に自分が映った。
「あ、…れ、……ぎる、がめ……しゅ……?」
「ああそうだ、我だ! そのまま意識を保っていろ、今から病院とやらに――」
「むり、ですよ………」
グッと自分を持ち上げようとしたギルガメッシュを、弱々しく止める。ああ、自分の血がべっとりと彼の服を汚してしまっている。それが申し訳なくもどこか嬉しく思う己の感情に、なまえは苦く笑った。
「すみ、ません……。ギルの言った、とおりに…なりました……」
「戯け! なぜサーヴァントを、いや、何故我をっ……!」
「のぞみ、ました。ギルの…ます、たーに……なること、を…。でも、やっぱり………だめ、でし…た」
「望んだのなら、もっと早く我に言えば良いだろう! 何故躊躇う、何故やめた!」
「…言いま、…したよ、ね…。わたしの、ねがい……」
「……ああ」
「それは、あなたが、……、ギルが、よかった……」
「――…っ!」
言葉に詰まるギルガメッシュに、優しく微笑むなまえ。
「いままで、は…、だれだって、よかった、です……。でも、今は、だれで、も……よく、なくて……」
「っ……ならば、尚更、我に言わぬか……!」
「ふ、ふ……。そ、な顔、しないで……くだ、さい……。わたしのねがい、は……すでに、叶ってたんです……」
エメラルドの光が、少しずつ少しずつ光を失っていく。それか嫌で、ギルガメッシュは必死になまえに声をかけ続けた。
「叶っていたとは何だ! 答えよ、なまえ!」
「ギルが、…ここに、きて、っ………いっしょ、に、すごす……あの時間、が、わたしには………とても、たいせつ、で、………いとしく、て」
もう、王は何も言えなかった。
「ぎるが、あのセリフを、……いってくれ、た、から……ハァ……っ……あのときから、ねがいは……かなってた、んです……」
へにゃりと情けない笑みを浮かべたなまえは、目尻から涙を流す。これが初めて見せた彼女の涙だなんて、とんだ皮肉だ。
「ならば、まだ死ぬのは早いだろう! 我はまだ満足しておらぬぞ、なまえとてそうであろう!」
「そ、です…ね……。でも、それも……もう、」
「このっ………出会った時に我は言ったはずだ。我の言葉は絶対だと…!」
「……ごめ、なさ………。…ごめん、な、さ……っ………! ふ、っ……ハ、……も、と、もっと……ぎると、いっしょに………!」
大粒の涙を流しながら懺悔するなまえをギルガメッシュは掻き抱いた。己が血で濡れようと構わない。それが彼女の血であるならば、むしろもっと汚れようと怒りなんてあるはずもなかった。
「待っていろ、なまえ」
「ぎる、がめ…しゅ……?」
「言ったであろう。貴様の願いは我が叶えると」
「それ、は、だから………」
「我は叶えた気になっておらぬからな。……今だけは、先に逝く事を許してやろう。だが、次に会えた時は決して逃さぬぞ。貴様が――なまえが泣いて許しを請うても、逃さぬ。勝手に逝く事も許さぬ」
輪廻転生。果たして、それは自分にもあるのだろうか。ああでも、あってもなくてもいい。彼が、ギルガメッシュが『次』と言ったのだ。だからきっと、絶対に。彼は自分の願いを叶えてくれる。
聖杯戦争なんてごめんだった。一族の悲願だとかなんだとかで五月蝿く言ってくる家族が居なくなって、たとえ令呪を賜って参加資格を得ようとも、参加する気などさらさらなかった。それがどうだ。憎んでいた聖杯戦争のおかげで、こうして彼に会えたのだから。神様というのはどうにも七面倒臭い性格らしい。
「じゃあ、」
赤い瞳と、エメラルドの瞳が重なる。
「次も、かなえてくださいね」
そうしてみょうじなまえは、英雄王の腕の中で息を引き取った。
次に彼女がこの“第四次聖杯戦争”を思い出すのは、人類の絶滅を防ぐためにある人類継続保障機関『カルデア』という組織だった。
一生のお願い
「願いならありますよ。……それこそ、ずっと」
「ほう……? 我に話すことを許そう。何だ、お前の願いとは」
「う、上から目線ですね本当に………。…ギルガメッシュにとったら、取るに足らない下らない願いですよ?」
「構わん。我にとってはどの願いも下らんわ」
「………たった一人の人でいいんです。むしろ、たった一人だけがいい。わたしと、ずっと一緒に居てくれる大切な人が欲しい。愛とか貰ったことも与えたこともないので、よく分かってないんですけど……。ただ漠然と、けれど確かに、わたしはそれを求めてます」
願ったのは、わたしだけを見て、わたしだけを愛してくれて、わたしが心から愛することのできる、唯一だった。
「貴様のその願い、我に望めば叶えてやろう」
たった一言。けれどもう、それだけでわたしの願いは叶ったのです。