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列車で移動中、いつものようにスマホロトムを取り出して仕事関係のメールに目を通す。あらかた読み終えると、すぐにそれを閉じてガラル地方トップジムリーダーであるキバナのポケスタグラムを開いた。
すると先程更新されたばかりのようで、ファンの人と肩を組んでニパッと笑うキバナが投稿されていた。きゅうううんと高鳴る胸を必死に抑えつつ、いいねボタンを連続タップ。
「ライ?」
「っと…ごめんねライチュウ。はい、ポケフーズ」
「ラーイッ!」
ふよふよと浮いているポケモンの頭を撫でて、大好物のポケフーズを渡すと、両手で受け取ったポケモンは喜んでパクパクと食べた。
女の名前はなまえ。世界各地を飛び回る記者だ。そしてその隣でポケフーズを食べているのは、彼女の相棒であるライチュウ。アローラ地方独特の姿をしているライチュウは、愛らしい尻尾を振りながらご機嫌な様子でまたポケフーズを催促していた。
「やっとガラルだね、ライチュウ」
「ライラーイ」
「ひさびさにキバナさんの試合を生で観れる〜〜!」
なまえが行っていたのはシンオウ地方。元チャンピオンだったシロナとの対談のためだ。古くから知り合いの彼女とは気兼ねなく話すことが出来るし、なんならオフレコな話だってたくさんしてしまった。
「ポフィンもいっぱいもらっちゃったし。また後で食べようね」
「ライ!」
ポフィンの味を思い出したのか、うっとりとした表情で頷いたライチュウなのだった。
溶けるほどの熱に捕まった
ナックルシティに降り立つと、すぐにナックルスタジアムへ向かう。観戦チケットを買って中に入ると、スタジアム内は既に熱狂に包まれていた。
「(チケット予約しておいてよかった…。始まっちゃってるけど、久しぶりの生観戦! じっくりキバナさんを見よう……)」
やはり天候を変えて、自分に有利なフィールドを作り上げる戦法は変わっていないらしい。砂嵐が巻き起こる中、フライゴンが声高に鳴いた。
試合中も自撮りを怠らないキバナの周りには、彼のスマホロトムがふわふわと浮いていて、しっかりと役目を果たしている。彼のカメラロールは一体どうなっているのだろうと想像しながら、なまえはキバナの勇姿をしっかりと目に焼き付けた。
結果はキバナの勝利で終わった。人の流れに乗りながらスタジアムの外に出ようとすると、突然誰かにグイッと引っ張られて選手控えの部屋に入ってしまった。
パッと顔を上げると、ここに連れてきたのは先程まで戦っていたキバナ本人が、たれ目をゆるりと細めて自分を見ている。
「きっきき、キバナさん!?」
「オレさまに何の挨拶もねェのは冷たくねーか?」
「あ、いやっ、でで、でも、その、あの、」
「ん?」
「………すみませんでしたっ!」
笑っているようで笑っていない顔で見下ろされれば、謝るしかない。しかも試合が終わって少し汗をかいている中での「ん?」はやめてほしい。色気がすごい。
「いつこっちに戻ってきたんだ?」
「さっきです。到着日にキバナさんがバトルをするって知ったので、チケットを予約して、て……」
そこまで言って、なまえは「わ、わわ忘れてください! 今の!」と慌ててお願いするが、キバナはくつくつと笑って「嫌だね。そんなにオレさまが見たかったんだ?」と両頬が彼の手のひらに包まれる。
「ひ、あああの、あの、〜〜っ、はな、はなれて…」
「んー?」
「ちかいちかいちかいです! はなれっ――」
ちゅ、と軽いリップ音。ぱちくりと目を瞬かせれば、ニッと意地悪な表情を浮かべるキバナと目があった。
あっと思った時にはもう遅い。再び自分の唇が彼のそれと触れ合い、今度は食べられるようなキスをされた。
「んゅっ、ッ…んんっ、ひ、きあなしゃ、」
「ん……あま…」
「〜〜〜ッ……は、ん、」
堪能し終えたのか、キバナから解放されたなまえは息も絶え絶えで、腰砕け。キバナに支えてもらわないと立っていられなくなっていた。
「なん、なんれっ……」
「ははっ、舌回ってねーぞーなまえ?」
「な、んで、こんなっ……」
「何でって、オレさまを置いてどっか行ったお仕置きだけど?」
「は…………?」
なんだって?
なまえはいまいち理解が出来ずにキバナを見れば、彼はとろんと熱のこもった瞳の中に自分を閉じ込めた。
「はっきり言ってなかったオレさまも悪いけどさ、勝手に消えちまったなまえも悪いと思わねー?」
「きばな、さん……?」
「もうオレさま以外見ねえように、ちゃあんと躾ねぇとなぁ」
熱い息を吐いてなまえを閉じ込めたキバナは、今まで誰も見たことがない表情を浮かべて笑っていた。