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※OP長編IFストーリーです。本編とは関係がございませんので、何でも許せる方だけどうぞ。




エースが解放され、上空に炎が立ち込める。その姿を見て安堵してしまったのか、なまえの目には涙が滲んでいた。
――だめだ、しっかりしろ。まだ終わっていない。
そんな思いで自分を何とか律し、なまえは桜桃ゆすらうめを握りしめ、ありったけの力で群がる海兵達を斬り倒していく。

そこへ、耳を疑うような台詞が聞こえてきた。

「今から伝えるのは………!! 最後の“船長命令”だ……!!! よォく聞け、………白ひげ海賊団!!!」
「(最後……?)」

進む足が止まり、白ひげを見る。身体中傷だらけなのに、彼はそれをおくびにも出さずにしっかりと立っていた。彼の瞳の奥にある覚悟に、なまえの目から勝手に涙がぼろぼろと溢れてしまう。
〈白ひげ海賊団〉が口々に一緒に帰ろうと言っても、彼は「行け」としか言わない。ああ、どうして、なんで。

「やだ、やだよ、白ひげ」
「なまえ……すまねェな」

大きな指先が涙をすくう。その優しく、暖かいそれに涙は止まらず、次々と地面を濡らしていく。

「いかないで、一緒に海にかえろうよ」

子どもみたいに駄々をこねるなまえを、白ひげは覆いかぶさるように抱きしめた。「……生きろよ、なまえ」それを最後に、白ひげはなまえを遠くへ――エースの下まで飛ばした。受け身をとって上手く着地したなまえは「白ひげ!」と掠れた声で呼ぶが、もう彼はこちらを見ない。

遠い、遠い背中に、なまえはもう彼の名を呼べなかった。



走って逃げるエース、なまえ、ルフィの足を止めたのは高熱を持つマグマだった。それだけで誰が来たのか分かる。
素早く振り返ると、そこには海軍大将・赤犬が半身をマグマに変えて立っていた。

「サカズキっ……!」

赤犬が白ひげを『敗北者』と罵ったことで、エースもなまえもこの男を無視できなくなってしまった。今は逃げなければならない時だっていうのは分かっている。だが、それでもあの偉大な男を『敗北者』などと言ったコイツだけは許せなかった。

ついに赤犬と戦闘を開始した二人を、力を使い果たしてしまったルフィは見ていることしか出来ない。そんな時だった。エースのビブルカードが地面に落ちてしまったのだ。

「あ、エースの…ビブルカード…」

すると突然赤犬が叫んだかと思えば、マグマの拳をルフィに向かって振り上げた。

「おい!! 待て!! ルフィ!!!」
「待って、ルフィ!!!」

完全に予想外だったのだろう。度重なる連戦のせいで疲労は溜まっている身体は動かない。目を見開いて固まるルフィを、エースが庇った。

「(良かった、間に合った)」

安堵し、来たる衝撃に備えて身を固くするエース。だが痛みは一向に来ない。そろりと目を開けて後ろを振り返れば、そこには能力が消えて血が滲む腹を押さえる赤犬がいた。

「なっ……!?」
「私の家族を、これ以上お前に殺されてたまるか!」

肩で息をするなまえの手には、一丁の銃が握られていた。寸でのところで海楼石の弾丸を赤犬に撃ち込んだのだ。それにより赤犬は能力を保っていられず、ルフィを、そしてエースをも倒すことは出来なかった。

「なまえ、お前……」
「エース! ルフィ! 無事? 大丈夫? 痛いところない!?」
「いや、おれ達は大丈夫だが……」
「よか、よかった……! ふ、ふたりが、しっしんじゃったら、どうしよって……っ、よかっ………!」

大粒の涙を流すなまえを、エースは無意識に抱きしめた。死ぬ覚悟はあった。しかも弟を守れて死ねるんだ、本望だ。
――だが、生きている。自分の生をこれほど喜んでくれている人がいる。それはなんて幸せなことなんだろう。

「エース! なまえ! それから弟! 早く船に乗り込め! 出航するぞ!」
「あァ! とりあえず話は後だ、行くぞ!」

エースに手を引かれ、なまえとルフィは懸命に走る。途中でなまえが後ろを振り返れば、白ひげも自分を見ていた。
もしかすると、今ならまだ間に合うかもしれない。そう思ってごくりと生唾を飲み込めば、その思考すらあの男は見抜いているのか、ニヤリと笑って空気を叩く。
すると地面が割れ、マリンフォードから外へ出るまでの一本道が出来た。ここから白ひげの下へは到底行けそうになく、どんどん瓦礫が彼の姿を隠していく。

「白ひげェ!」

最後に、求めるように手を伸ばして名前を呼べば、彼はいつもと同じように笑い声を上げてみせた。

「グララララ!」

かろうじて無事だったモビーディックに乗り込むと、船が出る。船長が用意してくれた一本道を、鯨は迷うことなく突き進んだ。







あれからアマゾン・リリーに到着すると、あのトラファルガー・ローが手当てを請け負ってくれた。その言葉に甘えて重傷者から順番に手当てをしてもらうことに。

すっかり手当ての済んだエースとなまえは、海を眺めながら手を握り合っていた。

「……生きてるんだな、おれ」
「生きてるよ、ちゃんと」
「…おれのせいで、オヤジが、っ……」
「誰のせいでもないよ。……白ひげ、最期まで笑ってた」

ぽたり、ぽたり。互いに涙を流し、その度に地面が濡れていく。

「えーす」

舌ったらずに名前を呼ばれ、エースはようやくなまえを見た。すると彼女はいつから自分を見ていたのだろうか。真っ直ぐな瞳とぶつかり、綺麗な涙が止むことなく頬を濡らしている。

「いきててくれて、ありがとう」

怖かった。エースが死ぬんじゃないかって不安が、ずっとずっと自分の中で渦巻いて消えなかった。
もしもあそこで銃を抜かずに、エースと同じようにルフィの盾になるような行動を取っていたら、どうなっていたんだろうか。距離的に考えたら自分の方がルフィに近かったから、もしかすると自分ごとエースは盾になってくれていたかもしれない。

そうしたらきっと、エースは死んでいた。

「あァ、おれも――」

――たすけてくれて、ありがとう。

ひくりと喉が引きつる。
嗚呼、神様。

エースを生かしてくれて、ありがとう。

二人はルフィが呼びに来るまで、ただひたすら涙を流して抱きしめ合っていた。


誰にも奪えない真っ赤な炎




OP映画最新作のオープニング曲を聴いて、すぐにエースを思い浮かべました。その後アニワンの『動き出す執念の新元帥サカズキ』で、数年振りに頂上戦争シーンを見てしまい、どうしてもエースを救済したくて書きました。
海賊万博なんて、エースが生きていたらきっとすごく楽しんでいたことでしょう。ワクワクしながら、そこでルフィやサボと再会したらきっと嬉しくて、でもかっこつけて登場するんだろうなあ…。
これはそんな私のエゴで書いてしまったお話です。お付き合いありがとうございました。