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毎日新チャンピオンの元へ足繁く通う彼に、もう諦めてしまったのはいつからだろう。彼のSNSを見てみれば、おしゃれなアイコンの女の子たちがこぞって“イイね”を押している。ハートマークの横の数字が大きく膨れ上がって万を超しているのを見て、私はそっとSNSを閉じた。

「女の子とのツーショットなんて今まで載せなかったくせに。…チャンピオンの子はいいんだ」

拗ねた声になってしまったが、無理もないだろう。誰にも言ったことはないが、私はキバナの彼女なのだ。彼女なら自分の彼氏が嬉しそうに他の女に会いに行く姿を見て、嫉妬するのは当然だろう。

「そりゃあ私はトレーナーじゃないからさ、キバナの気持ちとか分かんないけど。……それでも、ずっと一緒にいた彼女のことくらいちょっとは考えてくれてもいいじゃん」

ねぇ?と相棒であるロコンに言うと、コンッと可愛らしく鳴いて応えてくれた。

「……今日は絶対に一緒にいてねって、前から約束してたのに」

ぽつりと呟いて暫く口を閉ざすと、改めて家の中を見回す。キバナの家だが、私の私物も多く存在していた。歯ブラシや服、皿、コップ。一つ一つ確認しながら、私はそれらをまとめてゴミ袋に入れた。

「コン?」
「行こう、ロコン。外は風が気持ちいいよ」

まとめたゴミ袋を持って、ロコンに外に出るよう促す。フンフンとゴミ袋の匂いを嗅いでいたロコンは、開いた扉にピンと耳を立ててテテテ・・・…と歩き出した。
飛び回るバタフリーにロコンがぴょんぴょんと飛び跳ねる。その姿を見ながら、私は玄関で一度後ろを振り返って、未練を断つようにロコンを追いかけた。




その日キバナが帰ってきたのは、月が顔を出す頃だった。新チャンピオンのユウリとポケモンバトルをして楽しかったのか、鼻歌まで歌っている。

「帰ったぞ〜………、?」

家の扉を開けると、中は真っ暗。人の気配もなく、嫌な予感がしてキバナは慌てて電気をつけて中へ入った。いつもならなまえがご飯を用意していて、彼女の相棒のロコンが部屋を温めているのに。
けれどリビングには誰もおらず、それどころか彼女の私物が何一つ無かった。まるで最初から存在していないかのように。

「っ、どこ行ったんだよ!」

スマホロトムでなまえに電話をかけても繋がらず、SNSのアカウントは消されてしまっている。彼女がどこへ行ったのか、手がかりは何一つ残されていなかった。

「何でっ………」

そこまで言って、キバナはふと壁にかけられたカレンダーに目を向けた。目を細めて見ていると、今日の日付が可愛らしい色で囲われている。その下には小さく『My Happy Birthday!』と丸っこい字で書かれていた。

「あ………」

そうだ、そうだった。今日は彼女の、なまえの誕生日じゃないか。前々から一緒にいてねと言われていたのに、おれはすっかり忘れていつものようにユウリの所へ行ってしまった。

今になって思い返せば、約束をすっぽかしたのも今日だけじゃない。ユウリがチャンピオンになってからは全ての予定をキャンセルして、暇さえあればユウリに会いに行っていた。そこに恋慕の情がなくても、なまえの気分は良くなかったに違いない。
逆のことをされてみろ。もしもアイツが毎日他の男に会いに行っていたら、おれはそれこそなまえをこの家に閉じ込めていたに違いない。

「クソッ!」

こうしちゃいられない。
キバナは据わった目で部屋中を見渡すと、スマホロトムに登録している番号に片っ端からかけていった。




――数ヶ月後、なまえはシンオウにやって来ていた。

「神話だって……。ここに来るまでに見たことのないポケモンもたくさんいたし、しばらくはここにいようかな」
「コンコーン!」
「ふふ、新しい出会いかあ。ワクワクするね」

今はまだ、キバナのことを思い出して胸が痛むけれど。

「よーし、まずはこのコトブキシティを探検だ!」
「コンッ!」


彼女は諦めた




新しい冒険を始めようとするなまえは気がつかない。刻一刻と自分を捕らえようとする人物がいることに。

「どこにいたって、絶対に捕まえてやる。おれサマから逃げられると思うなよ」