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⚠キャラヘイトを仄めかす文章があります。ご注意ください(作者は勿論全キャラ愛しています)
監督生は平和な国で生まれ育った。自分が生まれるよりもうんと昔に戦争はあったようだが、彼女にとってそれは教科書の中の出来事。未だに過去のことで諍いがちらほらあるものの、それは特別彼女に危機感を持たせるものではなかった。国のトップと呼ばれる首脳や天皇と言った方々だって、一度でも生で見たことなどもちろんない。故に彼女は“時期女王”と言われてもいまいちピンと来なかったのだ。
平々凡々な家庭で生まれた監督生。高校進学は出来るが、私立はお金が掛かるから公立に絶対に受かりなさい、と言われる、まぁよくある一般家庭だ。その言葉通り監督生はギリギリで受験に合格し、公立高校にてJKブランドを手にしたのである。
が、何を隠そう彼女は引っ込み思案な性格から、周囲からは“大人しいグループ”に分けられていた。本人にそんな自覚はなかったが、対陽キャラで話すときは目を見て話せないし、廊下でちょっと派手目なグループが楽しそうに笑っていると極力下を向いて歩き去るような、そんな人物だった。
けれど彼女は、クラスで人気の男子と会話をすれば『彼と話ができるってことはやっぱり私と彼は仲がいいのかな!』と勘違いムーブをかましてしまう、ちょっとイタイ子であった。実際そのシーンを再現してみると、
『お前って今日日直だよな?』
『あ、え、う、うん』
『じゃあ日誌よろしく〜』
これだけである。男子生徒としては昨日自分が日直だったから、返ってきた日誌を次の当番である監督生に渡しただけなのだが、彼女にとっては勘違いをしてしまうには十分な出来事だったらしい。
しかしどれだけ勘違いしようが日々は変わらない。登下校中は前に陽キャラ達が歩いていたら、歩く速度を落として距離を空けてしまうし、購買で派手目グループが群がっていたら満足に好きなものを買えずに教室へ帰る。それが監督生の日常であり、高校での立ち位置だった。
そんな彼女の日常は、ある日突然変化した。
目を覚ませば真っ暗だし、変な動物は喋って火を吹くし、魔法だってあるし。命なんて幾つあっても足りないような目にだって遭った。
でも監督生は過去最高に幸せを感じていた。何故ならここは男子校で、通う生徒はみんなイケメン。女子は自分一人だけ。しかもオバブロ事件を解決するごとに周りからの信頼は厚くなる。元の世界よりもちやほやされるし、良いこと尽くしだった。そこで監督生は、ある一人の男子生徒に目をつけた。
──なまえ・みょうじ、その人である。
ハーツラビュル寮所属の二年生。寮の規則を破ることもなく、寮長との関係も良好。後輩には優しく指導し、先輩にも礼儀を忘れずに接している。そんな彼との接点は、実は驚くほどになかった。
エーデュースと一緒に行動をしているし、『何でもない日』のお茶会だって参加頻度は高い。それなのになまえと話をする機会は全くと言っていいほどなく、いつも話しかけようとすると陽キャラ代表と言っても過言ではないケイト・ダイヤモンドが間に入ってくるのだ。それでも監督生は、元の世界ならば確実に関わることなど有り得ないだろうケイトと話せるのは嬉しかったので、いつの間にかなまえと話すことを忘れてケイトとの会話に没頭する。けれどマジカメ好きな彼が自分との写真をあまり撮ってくれなかったので、「写真撮ってもいいんですよ?」と言えば「でも監督生ちゃんはこの世界の人じゃないからね〜。肖像権とかどうなるかわかんないし」と最もらしい理由をつけて断られたことがあるため、監督生が彼のマジカメに登場したことは一度もない。
けれど数ヶ月過ごしてみれば、一度や二度くらいは話をすることが出来た。例えば──、
「リドル、……っと寮長。これ次の授業で使う薬草、取ってきておいたよ」
「ああ、すまないね。ありがとう。そうだ、よかったら君も一緒にどうだい? 今監督生と話をしているところなんだ」
「監督生……? あぁ、特例で入学した新入生だったっけ?」
とろりとした蜂蜜色の中に自分が映る。それだけで多幸感が胸に押し寄せ、体も熱くなっていくのが分かる。時間も忘れてぼうっと見つめていると、蜂蜜色は困ったようにやんわりと細められていく。
「ごめんね、今からポムフィオーレに行かないといけないんだ」
「ポムフィオーレ? どうして?」
「友人に紅茶のお裾分けをしようと思って。気にいる茶葉だと良いんだけれど……だからごめんね。またの機会に」
「あ、はっ…はいぃっ…!」
──といった、最早会話と言っていいのか分からないレベルだが。それでも監督生はこれを一カウントしている。
その日から少しずつなまえに近づこうとしたのだが、いつもするりと躱されてしまう。そうして近づきたいのに近づけない、話したいのに話せないというフラストレーションが溜まった結果、監督生はついに女の武器を使用した。
ぽろり、ぽろり。
「!?!? かっ監督生どうしたんだ!?」
「え、マジで泣いてんの?」
「え、えーんえーん」
下手くそ。あまりにもヘッッッタクソな嘘泣きだったが、いつも一緒のエーデュースコンビはコロッと騙された。普段女子と接する機会もなかったし、増してや女の泣き顔なんて見たことすらなかった二人は、まるで雷が落ちたかのように硬直したかと思ったらおろおろわたわたと監督生を慰める。彼女の手にぱっちりお目目のイラストが入った目薬があるなんて少しも疑わずに。
どうしたんだ何があったんだとピーチクパーチク囀る二人に、監督生はわざとらしく丸い涙を頬に滑らせながら口を開く。
「め、なまえ先輩に、避けられてるような気がして……」
「「………なまえ先輩?」」
「うん……。それに睨んでくる時もあって……わ、私、何かしちゃったかなぁ…?」
「あの人がそんなことをするようには見えねーけど……」
「けど監督生が嘘を言うようには思えない。ダチが困ってんならもちろん助けるぜ!」
頭を掻いて困ったような態度を見せるエースと、片手に拳を打ちつけてやる気を見せるデュース。その勢いのままなまえのところへ行こうとしたが、慌てて制服の裾を掴んで引き留めた。
「なんだよ、行かねーの?」
「急に行っても迷惑かもしれないし……そ、それに、誤解だったらさらに印象悪くなっちゃうし…」
「そうか……。それじゃあ、また何かあったら教えてくれ」
「ん、わかった。ありがとう!」
目尻に涙を溜めながらにっこりと健気に笑う監督生に、二人はドキッと胸を高鳴らせる。「お、おう……」口をもごもごさせて返事をする二人に手を振って、彼女はいつの間にかいなくなっていたグリムを探すために背を向けて走った。
それから監督生は、なまえに躱される度にエーデュースはもちろん、リドル達にも泣きつき、自分の味方に引き入れた。もはや彼女の中にあるのは、自分に対していつまでもそっけない態度を取り続けるなまえを、どうにかして傷つけてやりたいという思いだけ。
ツイステッドワンダーランドへやってきて、周りの男子達にちやほやされながら過ごしてきた彼女の価値観は、日本にいた時とは随分と変容してしまった。だから彼女は“これだけ自分が話しかけてやってんのにそれを袖にするなんてあり得ない”と思ってしまうようになったのだ。
少しずつ、時間をかけながら彼女の中身は一度バラバラになり、ぐにゃりぐにゃりとツギハギのように形を変えていく。──悪に染まっていく。
やがて貼り付けた嘘は肥大する。その腫瘍が悪性だと分かった頃にはもう、既に手遅れである。
*
「さあ、そろそろこのくだらない茶番を終わりにしましょうか」
自分の最大の後ろ盾となっていたレオナが離反したことで、監督生はやっと焦りを覚えたようだ。顔色が先程より悪く、自分こそが正義だと光っていた瞳も所在なさげに泳いでいる。それでも奥歯を噛み締め、まだ負けるわけにはいかないと危うげな眼差しでなまえを睨んだ。
「こっここは男子校です! それなのに性別を偽ってまで入学するなんて……立派な規則違反ですよ! ねぇ、リドル先輩?」
「えっ、あ、……あぁ……」
「ほら! 自分が所属する寮の寮長まで騙すなんて悪い人……っ! そんなに男の人にちやほやされたかったんですか!? 信じられない!」
「かっ監督生、」
「リドル先輩も騙されていたんですよ。こんな人、首を刎ねたってお釣りが出るくらいです!」
何を言われようと痛くも痒くもないなまえは、つまらなさそうに監督生の声を聞き流す。途中でリドルの声も入ってきたが、それさえも彼女はどうでも良かった。
リドルとは友人だった。自寮の寮長で、けれど同じ学年の生徒。勤勉な彼と図書室でよく会うことから交流を深め、やがて友人になった。
大切な方だったと思う。友人などいなかった分、リドルと過ごす時間は掛け替えのないもので、いつだってキラキラと輝いていた。ペアワークの際にはお互いがペアの相手だということは暗黙の了解だったし、だから他の生徒に頼まれても断っていた。たとえ約束していなくとも、それが当たり前になるくらいには一緒にいたし、共にたくさんの時間を過ごした。
自分が正体を明かした時も、友人で居てくれるだろうか。仲良くなるにつれてその不安が渦巻くようになり、ケイトに何度相談したか分からない。
そんな不安も、悩みも、もう無駄になってしまったけれど。
「あのっ……なまえ、」
「何?」
「ッ………ボ、ボク、その……君のことを、疑ってしまって、それで……」
監督生に話を振られたことを好機と思ったのか、野次馬から一歩前に出てきたリドルにいつもの溌剌とした口調はなく、まるで迷子の子どものように下を向いている。いつもならもっと上手く話せるのに、今は声が詰まって言葉が出てこない。それがこんなにももどかしいなんて。
「………だから、あの、」
「ねぇ」
「! な、何だい!?」
「その話、いつまで続くの?」
「────、」
「時間は有限。友人でもない貴方の話に付き合うほど、私も暇ではないのだけれど」
「友人じゃない、って……だっ、だって、ボクと君は……っ」
「あら、最初に私を切ったのは貴方でしょう? それに、何度か話そうとした私を煩わしげに遠ざけたのも貴方。それなのに、いつまでも私の中で自分に価値があると思って?」
──それは、なんて傲慢なのかしら。
まごうことなき、彼女の本心だった。そして放たれた言葉の全てに見覚えがあるからこそ、リドルはもうそれ以上何も言えなかった。
「ひどい人……! 友達だったんじゃないんですか!?」
「私と彼が友人では無くなった原因の一端を担う貴女に言われてもねぇ?」
「そうやってすぐに人を捨てることができる人が、女王になんてなれるはずがありません! そんなんじゃ、誰もついて行きませんよ!」
うまく、聞き流せなかった。ぴくりと反応した自分の指先と同じ瞬間、「きゃあっ!」と監督生の短い悲鳴が耳に届く。見れば、彼女は自分の騎士に足を払われてうつ伏せになって倒れていた。両手を背中でひとまとめにし、もう片方の手で監督生の髪を掴んで後ろへ引っ張って顔を無理やり上げさせる彼は、ただただ無表情で彼女を見下していた。
「君の顔、原型も残らないくらい地面に打ちつけていい?」
口調はいつもの彼──ケイトのものだが、言っている内容は全く穏やかではない。リドルの背中にゾッとしたものが這いずり、嫌な汗がじわりと滲み出る。
「そろそろさぁ、立場を理解したら? 見たら分かるでしょ、オレ達がなまえちゃんを大事にしてるの。それでもなまえちゃんを貶すって、逆に死にたいのかなって思っちゃうよ」
「け、と…せん、ぱ……」
「オレが虫も殺せないような善人に見える? この剣も飾りだと思ってるの? 残念だけど、オレは善人でもなければこの剣だって飾りでもなんでもない、正真正銘たくさんの血を吸ってきたオレの誇り。なまえちゃんの前だから本当になるべく控えたいんだけど、君の声をこれ以上なまえちゃんに聞かせるのはオレがイヤなんだよねぇ〜」
つらつらと並べ立てられる言葉は、脅しでもなんでもない。
「ケイト、」
「もう“待て”はできないよ、なまえちゃん。これでも我慢した方なんだからさ、むしろ褒めて?」
「やめなさい、ケイト」
「だぁめ」
「この女は、よりにもよってなまえ様の誇りを貶し、侮辱した。殿下の努力も、乗り越えた苦難も、──次期女王の座を掴み取るまでに至ったその全てを知らない小娘に持ち合わせる情など、もはやありません」
この声は、本当に自分の知っているケイト・ダイヤモンドなのだろうか。ぎちりと手首を拘束され、容赦なく髪を掴まれているせいでブチブチとそれが抜ける音もする。降ってくる声があまりにも冷たくて、監督生は本物の涙を滲ませながらなんとか後ろを振り返り、
「ヒッ……!!」
ゾッとした。いつもキラキラ輝いていた若葉色は、殺意でギラギラと剣呑な雰囲気を映している。そこでやっと監督生は、ケイトが先程放ったセリフがただの脅しではなくて本気なのだと理解した。
ようやく脅えや恐怖を表情に乗せた監督生に、ケイトはくつりと喉で笑う。もう少し気づくのが早ければ手加減してやったものを、と胸中で呟き「なまえ王女殿下」と一等大事に己の主人の名を呼んだ。
「どうか御命令を」
「……だめよ。私は望んでいないわ」
「お優しいなまえ様、貴女様の憂いは私が払います。どうか、御命令を」
「いいえ」
甘い声色で再び請うケイトに対して、絶対に“YES”とは言わないなまえ。そんな二人の間に美しい美貌を持つ男と周囲を威嚇して牽制している男が割り込んだ。
「アタシも混ぜていただきたいわ、殿下」
「俺も、ッス……」
「貴方達まで……。だからだめだと言っているでしょう、聞き分けのない子達ね」
「もうこれ以上殿下の御目を汚すわけにはいかないわ。早く掃除をしないと、お身体にも悪いもの」
うっそりと笑うヴィルの、なんと美しいこと。彼のマジカメの画像欄を漁ったって、これほど美しく笑んだ表情は恐らく一枚もないだろう。だってあれは、彼のあの表情は、美しさは、唯一の主人の前でなければ見られないものだ。
そんな彼に“お願い”されれば、いくらなまえでも頷いてしまうに違いない。ポムフィオーレ寮生のみならず、他寮の生徒もそんな風に思っていたが、予想に反して彼女は首を横に振った。
「どれだけお願いされても、だめなものはだめよ」
「どうしてッスか! 貴女がただ一言許してくれれば、俺がアイツを──!」
──トン。
何かが地面を叩く音がこの場に響いた。とても小さな音だったのに不自然に大きく聴こえたそれは、喉奥を鳴らすジャックや怒りが募るヴィル、ケイト達を止めるのに効果は絶大だった。
視線を向ければ、音を鳴らした本人であるなまえの手には、自分の身長を遥かに越える程の杖があった。頭の上にある杖の先には四つの宝石が填められており、その宝石自身が光を放っている。先程の音はどうやらその杖で地面を叩いた音らしい。
「いい加減になさい」
底冷えするかのような声色だった。向けられているのは彼女の護衛騎士達だが、周りで聞いている者達もまるで魔法で動きを止められたと錯覚してしまうほどに冷たい音だ。
「堪え性のない犬はいらないわ。それにこれは私の喧嘩。邪魔することはたとえ貴方達でも許さないわ」
「……はぁい」
「……分かったわ」
「……ッス」
不満げに唇を尖らせながらそれぞれ返事をした三人。ケイトはゆっくりと拘束していた手を離し、監督生から離れてなまえの傍へ寄る。
まるで本当に犬のようだ。獰猛で、血の気が多く、牙の鋭い──だが、己の主人にはどこまでもどこまでも忠実な、ただ一人の為の狗。
「貴方達の仕事はまだ先よ。それまで我慢が出来たら、とびっきりのご褒美を用意してあげるわ」
“待て”が出来た子には蕩けるように甘い“御褒美”を。それは三人にとって喉から手が出るほど欲するものだった。
ごくり、と生唾を飲み下して妖しく笑い、頭を下げる。そんな騎士達に満足したなまえは、未だ無様に床に転がっている監督生に向かって口を開いた。
「ねぇ、監督生」
「ッ………っ、」
「ふふ、今どんな気分なんだい?」
その口調は、かつての──男子生徒として通っていたなまえ・みょうじのものだった。“彼女”が“彼”として学園に通っていた頃は決して向けられたことのない、柔らかい表情が、今自分に向けられている。
ああ、ああ。蕩けた蜂蜜色に自分がいる。自分の姿が映っている。
そうだ。私は、わたしは、あの瞳に魅入られたんだ。
初めてあの蜂蜜色に自分が映ったあの日から、わたしは、あれに囚われていた。
「聞けば、監督生さん。貴女って戦争を経験したことが無いようね?」
「へ………?」
「とても平和な世界で過ごしていたのね、羨ましいわ。この世界も少なくなったとは言え、紛争がちらほら起こることはたまにあるの。ほら、私だってそうして玉座に手を掛けたわけだし」
どうして今、そんな話が出てくるのだろうか。これには監督生のみならず、他の生徒達も理解できなかった。……なまえの後ろに控えている彼らだけはずっと予想していたのか、表情一つ変えずに佇んでいる。
「頭がお花畑な貴女も、少しは自分の行いがどれほどのものだったのか分かってきたかしら」
「…………っ、」
そう、監督生はやっと、やっと自覚した。ケイトに拘束され、身体の自由を奪われ、傷つけられ、そうして彼の瞳の奥を見たあの時、ようやく理解したのだ。──自分が手を出した人物は、軽々しく傷つけてはいけなかったのだと。
「ご、めん、なさ、い」
頭で考えるよりも先に、言葉が口から滑り落ちた。
「ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ! ごめんなさい!!」
ネジの壊れた人形のように『ごめんなさい』を繰り返す監督生。周囲はそれを固唾を飲んで見守る。果たして彼女は赦されるのか、それとも赦されないのか。
「ごめんなさ、」
「監督生さん」
何度も何度も謝罪する声を遮る。ぐしゃぐしゃの顔で呼ばれた方を見上げれば、そこにはまるで聖母のように微笑みを携えたなまえがいた。
「(あぁ、あぁ……。許してくれるんだ、この人は、私を!)」
そんな思いで監督生も笑った。──直後だった。
「不愉快な声でそれ以上喋らないでくれるかしら」
世界の全てが凍りついた錯覚に陥る。周りの雑踏も遠くで聴こえ、キーンと耳鳴りさえしてきた。
ついさっきまで柔らかい雰囲気を醸し出していた彼女はもうおらず、そこにはなまえ・みょうじが存在していた。
「もう赦し赦されの段階はとっくの昔に過ぎ去っているのよ。貴女はこの私を陥れようとした。──それってつまり、私に対する宣戦布告よね?」
“宣戦布告”。その四文字で賢い生徒はなまえが何を言おうとしているのか気がついた。気がついてしまった。
「私に対する宣戦布告、ひいては我が輝石の国に対する宣戦布告だと受け取るわ」
ここでほとんどの生徒がその意味を正しく理解した。
「でも、貴女の故郷はこの世界にはない。つまり相手取る国がない、ということ」
「ま、まって、まってください」
「けれど私はデュース・スペードに言ったわ。『国が違うからこそ取るべき選択も変わってくる』、と」
「あ、ぁあ……、あ、……っ!」
監督生が縋るように止める。デュースはつい先程自分に向けて放たれた言葉の真実に気づき、意味のない音を口から零す。
「──輝石の国が王位第一継承者、なまえ・みょうじ。薔薇の王国との全面戦争を、我が名を以ってここに宣言する!」
さあ、お前達の血で薔薇を赤く染めてあげよう。
待ったなしの開幕宣言