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槙島を朱と狡噛が追いかける中、私は唐之杜から連絡を受けてシュウを追っていた。どうやら連絡が途絶え、今何がどうなっているのかも分からないらしい。

「奥に行かないで…シュウ…!」

その先には、見てはいけないものがある。

「……おねがい…間に合って…!」

シュウを、失いたくない。
監視官がこんなことを思っちゃいけないのかもしれない。でも、でもね。私はシュウといたいの。シュウだけじゃない。今のメンバー全員で、明日も、明後日も明明後日も――生きたいんだよ。

「見え、た…っ…!」

そこにはちょうど、禾生局長がドミネーターをシュウに向けているところだった。その肩越しに見えるシュウは、笑みを浮かべている。
私は最後の力を振り絞ってその背中を蹴り飛ばした。

「へ……」
シュウ!!

すぐにシュウに詰め寄り、どこも撃たれてはいないことを確認する。そんな私に、未だ状況を理解できていないシュウは戸惑うように口を開いた。

「…なんで…なまえがここにいんの…?」
「そんなのは後で話す! とりあえず…私の背中から離れないで」

いつの間に立っていたのか、禾生局長がドミネーターの銃口を此方に向けたままじっとしている。デコンポーザー・モードだったそれはすぐにロックがかかり、ただの鉄屑へと成り下がった。

「…何故君がここにいるんだい? みょうじ監視官」
「仲間との連絡が取れなかったので、至急此方へ向かった所存でございます」
「そうか、ならば退きたまえ。私は君の後ろにいる者に用事があるのだ」
「彼を撃たせるわけにはいきません。ここで彼を撃つのなら…、」

そこで言葉を止め、懐に入れておいた拳銃を自身の頭に向ける。勿論引き金に指をかけて。

「ちょ、何してんだよ!」
「私が死んだら、シヴュラシステムにとっては痛手なんじゃないんですか? 免罪体質をやすやすと死なせるおつもりで?」
「そんな脅しに私が屈するとでも思っているのか? それに…、その者は先ほど死を受け入れたぞ」

禾生局長の言葉に、私はさっき見たシュウの笑みを思い出す。それは諦めたような、これでやっと解放されるような。そんな意味が込められているような気がする。

「…シュウ、」
「なに……」
「シュウは、生きたい?」
「は?」
「自由に外は出られないし、潜在犯として一生を生きなければならないけど。――それでも、生きたい?」

すると、後ろから嗚咽が聞こえてきた。それだけでわかる。シュウの本当の気持ちが。

「そのような戯れ言を言ってみろ。君もろともここで死ぬことになると思え」

禾生局長はさらに脅しを重ねてくる。びくりと動揺したシュウに、私は禾生局長を睨みながら吠えた。

「何ビビってんのさ!!」
「っ、…なまえ……っ…」
「シュウだって一人の人間だってずっと言ってるでしょうが!! 執行官も監視官も関係ない! 今ここでシュウが死んだらどうなるの!? っ、私はいやだからね! シュウがいない日々を送るなんて、今のメンバーがいない日常なんて認めない! だから!!
生きたいって言え!!

涙が溢れる。ああもう、私が泣いてどうするのさ。でもしょうがないよね。
だって私は、今の一係から誰一人欠けてほしくないんだもの。

「……た、い……生きたい!!

やっとだ。やっとシュウの本音が聞けた。
私は嬉しさから頬が緩み、ぐいっと涙を拭う。そしてシヴュラシステムに向けて声を荒げた。

「シヴュラシステム! 今のを聞いたわね!」
《はい》
「…じゃあ、私が以前に提示した条件も覚えているわね」
《はい》
「だったら、禾生局長のドミネーターの強制ロックを求めるわ」
《かしこまりました》

その言葉通り、局長のドミネーターはロックされる。途端に局長はドサリと音を立ててその場に倒れてしまう。だがどうせ明日にはけろっとして椅子に座っているはずだ。心配などするだけアホらしくなる。

「シュウ、怪我ない?大丈夫?」
「あぁ…ってかなまえ、お前って何者だよ…」
「…シュウよりもずっとずっと前に、シヴュラシステムのことを知っていたの。いや…無理やり知らされたって方が正しいかな」

苦笑した私は、シュウとともにここから出る。どうせまた後でここには来なきゃならない。ただ今は、一刻も早く彼処からシュウを出さなければならなかった。

「なまえさん! 縢君!」
「朱……」

外に出るとギノやマサ、弥生、コウに朱がいた。
私たちは張り詰めていた緊張が解けたように互いに地面に座り込んでしまう。そこへ慌てて駆け寄ってくる彼らをよそに、シュウはぎゅっと私を抱きしめる。

「シュウ……?」
「…ありがと……ありがと…なまえ…! 俺…まだ生きててよかった……!!」

ぽたぽたと涙を落とすシュウに、私も思わず泣いてしまう。
全部、独りよがりな、偽善だと思っていたから。本禾生局長の肩越しから見たあの笑みが頭から離れなくて。
5歳から潜在犯として生きてきたシュウは、もうその生を終わらせたいんじゃないかって。そう、思っていたから。

「縢、お前何故通信が途切れた? 下で何があった」
「いや〜…、いくらギノさんにでもそれは言えないっスよ」
「ふざけるな!」

ギノの怒鳴り声に、私とシュウはぴゃっと肩をビクつかせる。けれど、ね、言えるわけないんだよ。

「ねぇ、なまえ」
「…なぁに?」
「……ずっと俺のそばに居て」

それは、するりと私の心に入り込んだ。
朱やギノは顔を赤くしてこっちを見ているが、知ったこっちゃない。

「……離れろって言われても、離れないよ」

今の私たちなら、無敵だと思うんだ
そう言うと、シュウは顔をくしゃりとさせて泣き笑った。
ああもう、

「大好きだよ!」

シュウはもちろん、ギノも、朱も、コウも、マサも、弥生も。
みんな、大好きだ。

「俺も、大好き」

甘い甘いその言葉は、ずっと聴きたかった言葉だった。


生きたいって言え