ふんわりとウェーブがかかった、藍色の髪に真っ黒の瞳。背は162pと低い。ロングコートを袖を通さずに肩に羽織っている。
常に語尾を伸ばす話し方のため、周囲からは媚を売っていると思われている。同性からはあまり良く思われはおらず、異性からも距離を置かれている。
本当は、心の置ける人相手ならとても無邪気で普通の話し方だが、語尾を伸ばすという喋り方は本当の自分を知られないための『仮面』という意味も込められている。

もともとはマギの世界の住人。前世では運命を酷く憎み、堕天していた。それでも紅炎たちのお陰でアル・サーメンの駒にはならず、その生涯を紅炎の世界統一という夢のために使った。紅炎たちにしか従わず、紅炎たち以外はどうでもいいという考え方。それは転生した今でも変わらない。


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リズム良い足音を響かせながら歩く。ファインダーは僕を見てこそこそと話しているが、はっきり言って丸聞こえだ。いや、それともわざと僕に聞かせているのか…。

「あ、」

食堂に着くと、ウォーカーや神田やリー、ブックマンJr.と言ったエクソシスト達が一緒にご飯を食べていた。正直言おう、面倒だ。関わりたくない。

けれど、もうここまで来てしまったし、何より話しかけなかったらそれはそれで不思議がられるから話しかけないという選択肢もなくなる。
なぜ不思議がられるかって? それはね、みんなの僕に対する態度を見てれば分かるよ。

僕はそっと溜め息を吐いて、目尻をへにゃりと下げた。

「おっはよぉー! みんな揃ってるなんて珍しいねぇ、ユウまで一緒だなんて…ふふ、僕も一緒に食べちゃおーっと!」

あ、ジェリーさん! いつものお願いしまぁす! と叫べば、ジェリーさんは快い返事をしてくれた。

「お、はよう…ございます、名前…」
「……俺のファーストネームを口にすんなって何回言えば分かる、斬るぞ」
「……はよーさん、」
「お、おはよ、名前…」

三者三様のお返事。ありがとうございますっと。
僕はにへ、と笑って地声よりもワントーン高い声を出す。

「うんっ、おはよぉ! ユウはまぁたお蕎麦なんだねぇ。僕食べたことないやぁ〜、おいし?」
「チッ!」

鋭い舌打ちを聞き流すと、ジェリーさんがわざわざ僕のところまで料理を持ってきてくれた。ほかほかと湯気の立つそれは白ご飯に黄色いあれが乗っているもの……つまり、卵かけ御飯だ。
これを初めて食べたときの感動は忘れない。煌帝国でも絶対流行るね、うん。シンドリアのパパゴレアのご飯も好きだけどね。

「んぐ、っ……ん、わぁ、アレンってばこぼしてるよぉ? ほーら、これで拭いてぇ!」
「え、あ、……あ、ありがとうございます…」
「ん! あ、そうだぁ!」

お茶碗一杯のそれはすぐに食べ終わる。ごちそうさま、と手を合わせた後僕は立ち上がって思い出したように口を開く。

「僕これから任務なんだぁ! もぉーっとみんなと一緒にいたいけどぉ、ごめんねぇ〜?」
「い、いえ! どうぞ行ってください!」
「そうよ! 兄さんも待ってるわ!」
「そうさね〜」

この必死さ。見ただけで笑えるね。にこにこと笑う中、僕の心は急速に温度を失っていく。

「いってらっしゃい!」

ウォーカーのその言葉に、僕は少し振り向いて手を振った。
決して、「行ってきます」は言わずに。



「――それじゃあ」
「う、うん。気をつけてね。行ってらっしゃい」
「はぁい」

リー室長のそれすら受け流して、僕は進む。ファインダーはいらない。任務中にまで演技なんてしたくないから。

「ん、と……。よし、間に合った」

基本駆け込み乗車が嫌いな僕は、余裕を持って列車に乗る。乗務員にローズクロスを見せて、一等車両へと進む。

「なになに…ドイツ、か」

ならちょっと寝れるかな。
僕はいつの間にか強張っていた身体の力を抜いて、目を閉じた。


――その頃、教団では。

「ふぅ、やっと行ったさね」
「ラビ」

ラビの無神経な物言いを咎めるように名前を呼ぶのはリナリー。そんなリナリーを一瞥したラビは、苛立っている神田へと目を移した。

「でも、神田はまた任務ですよね」
「え、そうなんか!? ユーウー、お土産期待してるさ!」
「チッ、誰が買ってくるか」

付き合ってられない、とでも言う風に立ち上がり、神田はコムイの元へ。

「今回はここ、ドイツに行ってきてもらうよ」

神田は任務の詳細の書かれたものを見ながらコムイの話を聞く。

「詳しくはそれを読んでおいてね。……それとぉ……」
「……なんだ、はっきり言え」
「……名字くんと一緒の任務地なんだよね…」
「チッ…!」

コムイが言いづらそうにしていた意味が分かり、神田は本日何度目かの舌打ちを鳴らした。まさか名前と同じ任務地だとは思わなかったらしく、神田は眉間にしわを寄せて見るからに不機嫌だ。

「けど文句は聞かないよ。まあドイツと言っても広いしね、会わないと思うよ」
「……あぁ」


コムイにまで嫌われているなら、もう救いようがない。
神田はコムイの言葉に軽く頷き、ファインダーを連れてドイツへと向かったのだった。