伝導者一派の一味で、白装束の一人。第三世代能力者で、空中に炎で書いた文字がそのまま現れる。(例:『ピストル』→炎の銃弾/『ウォール』→炎の壁/『レイン』→炎の雨/『アイス』→炎の氷etc…)
浅草にて『蟲』の適合者や鬼の焔ビトを探していたが、新門に助けられて一目惚れ。悩む間も無く伝導者一派から抜けて新門の傍にいるべく日々励んでいる。


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大隊長会議から帰還したとの知らせを受け、名前は手荷物を抱えながら走った。詰所に着くとその人もちょうど帰ってきたところらしく、玄関先で座っていた。

「紅丸さま! お帰りなさいませ!」
「名前か、今帰った」
「お疲れ様でございます。今日は紅丸さまの大好きなすき焼きをご用意致しますね!」
「マジか」
「はい。ちゃんとネギ抜きですよ」

蕩けるような甘い笑顔を向けると、名前はそのまま中へ入っていこうとする。その後ろ姿を紅丸は呼び止めた。

「待て」
「?」
「伝導者とやらについて、すでに皇王にまで伝わっていた」
「――!」
「決定的なことは今かららしいが、気をつけろ」
「……紅丸さま」

女を労わる台詞を口にした紅丸は、立ち上がってポンと自分よりも低い頭を撫でる。不安がらせることはしたくなかったが、本人に意識して貰わないと守るものも守れない。

「…このまま私がここにいると、紅丸さまにご迷惑がかかってしまいます」
「気にすんな。俺はそんなヤワじゃねぇ」
「この浅草だって、また二年前と同じことになってしまうかもしれません。そうなったら私は、自分が許せませんっ……!」

痛いほど拳を握りしめる名前を、紅丸は抱きしめた。

「べに、さま………?」
「お前が着てる服は、何だ?」
「………紅丸さまに買っていただいた、大切なお着物です」
「そうだ。あの日お前が着ていたセンスのねェ白装束じゃない」

口下手な紅丸が、自分に一生懸命言葉で伝えてくれている。それだけで名前は充分だった。

「お前はもう伝導者の仲間じゃない。浅草の、第七の、俺の家族だ。家族の迷惑なら大歓迎だよ」
「べに、さまっ……!」

ぎゅうっと紅丸の背に腕を回し、力を込める。それに応えるように紅丸も抱きしめる力を強めた。

「すき、だいすきです、紅丸さま……!」
「……ああ、知ってるよ」


第8特殊消防隊の皆様がやって来ました

「第7は伝導者の一味を無視していくおつもりですか?」
「興味がねェってのが正直な意見だな」
「伝導者は人工的に“焔ビト”を造り出している。次はここの町民がターゲットにされる可能性もありますよ」
「…………………」

紅丸と第8が言い争っているのを、奥の方で膝を抱えて盗み聞きする名前。ハラハラする気持ちとは裏腹に、今すぐ紅丸に不敬な態度を取りまくっている第8の連中を追い出したくて仕方がなかった。
皇国に敵意しかない紅丸だが、伝導者の話はシンラ達が知るよりも前から知っていた。だがそれを馬鹿正直に教えるつもりも毛頭なかった。

「疑うだけ疑って、何もしねェ奴に言われたくないね」

その言葉にもう名前は我慢できなかった。

『ピストル』

空中に、炎で書かれた文字がじわりと浮かび、瞬きの瞬間には弾丸となってシンラを襲った。突然の奇襲にシンラは反応出来ず、まともに攻撃をくらってしまった。

「うわああっ!」
「シンラ! 急に何だ!?」
「あー、今のは……」
「若、もう我慢の限界のようだ……」
「……みてェ、だな」

ゆらりと背後に炎を揺らめかせながら現れた名前。いつもはほわほわとだらしのない笑顔を浮かべているくせに、今の彼女はそれとは真逆だ。隠しもしない怒気を滲ませながら、確実に一歩ずつ此方へ近づいてくる。

「誰だ…?」
「紅丸さまを侮辱しましたね」

その一言で、シンラはなぜこの女がこれほど怒っているのかを理解した。咄嗟に謝ろうとしたが、名前の背後に現れた無数の弾丸にそれどころではなくなる。

「紅丸さまを侮辱しておいて、生かして帰すわけにはいかない……!」
「やめろ、名前」
「っどうしてお止めになられるのですか、紅丸さま!」

その時だった。カンカンカンカンと鐘が鳴り、火事の報せが浅草中に響き渡る。苦虫を噛み潰したような顔をした紅丸を見た名前は、一旦怒りを収めて紅丸とともに外へ出る。

「あちらに纏がございますね」
「派手好きのカンタロウが“焔ビト”になっちまったらしい」
「カンタロウさまが……。でしたら、此度の鎮魂はより一層派手に致しましょうか」
「そうだな」

纏に着火し、槍のように飛ばした紅丸。すると密集する家は簡単に吹き飛び、瓦礫と化した。
驚く第8の連中を他所に、今度は紅丸自身も纏に乗って空を飛ぶ。彼を援護するように名前も空中に文字を書いた。

『レイン』

本来『レイン』は散弾的な銃弾のような雨が基本形態だが、今回は鎮魂が目的。炎の威力を極力抑えて、じわりと溶けていくような熱くない雨を降らせた。

「熱くない、炎の雨?」
「――なんて、優しい炎………」

どうか、安らかに。



偽物騒動が始まっちゃったぜ

聞こえるか浅草ァァ!!!
「……紅丸さま」

白装束と戦っているシンラの手助けをするべく、浅草の町を駆け抜ける名前の耳に届いた、紅丸の咆哮。不謹慎ながらも口元に笑みを浮かべると、標的を見つけて一気に加速した。

『アロー』
「!!」
「おや、貫くつもりだったんですけど。甘かったですかね」
「アンタは……新門大隊長のとこの…!」
「その紅丸さまに言われて、手助けに参りました」

スタッと白装束とシンラの間に降り立った名前は無数の矢を背後に出現させながら会話を続ける。

「“アドラリンク”に引きずり込まれないで下さい」
「アドラリンク……?」
「まだそこまで調べがついていないんですか……。とにかく、使いこなせていない力を気にするより、敵に集中してください!」

その後角付きの“焔ビト”を鎮魂した紅丸のおかげで事態は終息した。
復興の手も早められ、第7と第8は同朋の盃を交わしたのだった。

「お前ら、ここに来たのは伝導者絡みだったよな」
「何か知ってるんですか!?」
「お前らが掴む前から存在は知っていた」
「!?」
「名前」
「はい」

名を呼ばれ、名前は紅丸の隣に立つ。

「こいつは、元伝導者の仲間だ」
「!!?」
「な、は!? ハァァ!?」
「最初興味ないって!」
「興味がないのは本当だが、知らねェとは一言も言ってねェ」

もう面倒くさくなったのか、紅丸は後は任せたと名前の背中を軽く押す。女は承知したと柔らかく笑むと、改めて第8と向き合った。

「そちらの少年は、“アドラバースト”の使い手なのですね」
「分かるのか?」
「はい。柱かそうでないかの区別はつきます」

するとアーサーが「どうして伝導者の仲間から第7にジョブチェンジしたんだ?」と尋ねる。

「ああ、それは――」
「「「それは??」」」
「一目惚れ、です」
「………一目惚れ?」
「はい」
「一目惚れって、あの?」
「はい」

その日第7の詰所では、珍しく悲鳴が聞こえた。