元々飾りっ気のなかった審神者の部屋から、最近更に物が減っていた。机と座布団、桐の小さい箪笥がぽんと置かれているだけで、その中にも最低限の衣服と仕事に使用する道具諸々のみが入っている。以前あった二人掛けのそふぁと呼ばれるものや季節の花を飾っていた花瓶はどうしたのかと問えば、彼女は思案する素振り一つ見せずに捨てた、とだけ言った。あまりにも簡潔な答えに面食らっていれば苦笑交じりに言われる「断捨離にハマってるんだ」。断捨離、とは不要なものなどの数を減らし生活や人生に調和をもたらそうとする一種の処世術である。日本人は元来勿体ないという概念や考えを持ち、大事に物を持っておく傾向にあった。故に自分たちのような九十九の神が多く生まれるのも別段不可思議でなく寧ろ自然である。そのような経緯から生まれたからなのか、物への執着を断ち身軽になろうとする断捨離行為をあまり快く思わなかったが、現在酷く不自由しているわけでもないし価値観を否定できるような存在ではなかった。それに本丸全体に強制しているわけではなく、自室のみで行っていることにとやかくは言えないだろう。いくら神と言えども。しかしながらやや度が過ぎているように、感じる。まったく生活感を見せないそこに座りながら書類を纏めている彼女の横顔を、石切丸は見つめていた。さらさら動く筆は用紙に字を写していく。最初こそしゃーぷぺんしるが恋しいとミミズが這ったような報告書を書いていた審神者であったが、今では慣れたもので躊躇いもなく墨を白に滲ませる。
「……また物が無くなったね」
「うん、本を整理した。少しは残したけどあとは売り払っちゃったよ」
こちらを見ずに答える彼女の趣味は、確かに読書だったはずだ。机に申し訳程度に詰まれている書籍は全て戦や刀に関するもので、好んでいた御伽噺のものは一切無い。八畳と、決して広くはない部屋ががらんとしていた。押入れも夜寝るときに出す布団のみ入っていて、下の段は空洞である。それらを運び出して燃やしてしまえば、ここに誰かがいたと言われても信じられない程度には片付いていた。そんな自身の思考にぞわり肌が粟立つ。漸く報告書を書き終えたらしい彼女は凝り固まった身体を伸ばすと、そのまま後ろに倒れた。ぼんやりと天井を見つめていた琥珀色が、不意に石切丸へと注がれる。
「どうしたの、顔色悪くして」
「心配になるほどの顔をしていたかい、私は」
「そりゃあもう。びっくりした。具合悪い?」
「いや」
暫し二人の間を沈黙が包んだ。じっと交わされる視線。先に逸らしたのは女の方だった。掌を翳している彼女に彼は口を開く。君のそれは断捨離で無くまるで身辺整理のようだと。何が違うの、言葉にならない問いかけが表情から読み取れた。
「そうだな……この世を去る準備をしているみたいなんだ」
「……はは、なるほどね」
「最近ふらふら一人で出かけるようにもなったろう。万屋でもない、君はどこに行っているんだい?」
「……」
「死に場所を、探しているんじゃないかと。私は邪推してしまうよ」
彼女は大袈裟なと静かに笑う。必要最低限なものは所有しているつもりだし、外に行くのもただ散歩に出ているだけだ。淡々とした感情の起伏を見せない、台本を読んでいるかのような台詞。そのまま、目を閉じながら眠りたいからと呟く審神者に、背を向け部屋を後にする。出て行ってくれ、そう言われた気がしたのだ。いや、事実言葉の裏に隠されていた。長い廊下を歩きながら思う。あの女はあんなにも嘘をつくのが下手だったろうか。
翌朝、太陽が顔を覗かせ始めたころに石切丸はそっと彼女の部屋を尋ねた。無言で障子を開ければ、気鬱は現実のものとなっていた。桐の箪笥が、机が、座布団が消えていた。残っているのは真ん中に敷かれている布団のみである。心拍数が跳ね上がる。恐る恐る近づき、らしくもなく震える手でめくった。そこには、