※学パロ(?)
夜の空気が震える。暑くもない寒くもないこの季節、私は屋根に登って星を眺めることを日課としていた。一人ではない。クラスメイトの男の子と一緒。別に最初から仲良しこよしだったというわけでなく、本当に偶然、買い物の帰りに彼から声をかけられたことがきっかけだった。思春期めいたこの年になんの隔たりもなく躊躇いもなく、同じクラスでもない私たちが唐突に仲を深められたのは、ただ単に二人揃って学校で浮いていたからである。ちょっとの同族嫌悪も転んでしまえば次の瞬間には仲間意識に変わっているものだ。
彼の名前は粟田口乱という。私は精一杯の親愛の情をこめて乱ちゃんと呼んでいる。一人称は僕。髪の毛は私の二倍以上長い、さらさらとした美しいもの。高い空の色を閉じ込めたみたいに青く澄んだ瞳。それでもって、不自然なまでに長いすらりとした手足に良く似合う制服。セーラー服を、纏っている。
私の名前はミョウジナマエという。乱ちゃんからは嬉しいことにナマエくんと呼ばれている。一人称は私。髪の毛はベリーショートと呼ばれる類の長さ。何の面白味もない黒い髪と黒い目。それでもって、不格好なまでに大きい学ランを着ている。兄のおさがりだ。
粟田口さんの大きなお家の前に差し掛かれば、乱ちゃんがいつものようにセーラー服姿で私に手を振ってくれていた。自転車を漕いだおかげでふきでた額を伝う汗、乱暴に拭ってから登る。最初は怖々だったものの、今となっては慣れっこだ。ひょいっと軽く登場して見せると乱ちゃんはペットボトルのジュースを渡してくれた。あ、最近話題になった新商品の炭酸飲料だ。
「飲んでいいの?」
「うん、どうぞ」
「へへ、ありがとう! いただきまーす」
喉をしゅわしゅわとした感覚が過ぎ去っていく。美味しい。それから乱ちゃんの隣に腰かけた。今日は何かあった、数学のテストが返ってきてげんなり。そっちはどうなの、放課後に可愛いコスメがあったから寄り道しちゃった。普通の友達がするのとなんら変わりない会話の中で、やっぱり私たちだけがおかしかった。
「ナマエくんは修学旅行どうするの?」
「うん? ああ、そんなこともあったねえ。休む方向。女の子と一緒の部屋はだめでしょ」
「ふうん。僕もそうしようかな」
「じゃあ二人で旅行する? 貯金少ないから、近場しかいけないけど。乱ちゃんとなら楽しそう」
「はは、いいね。恋人みたい」
「冗談」
「うん、ジョーダン」
あっ、流れ星。乱ちゃんが墨を垂らしたみたいに暗い空を指さした。まるで話題を裂くように。私は笑ってから言った、何かお願いをしたら。過ぎてしまった星屑に祈ったってなんにもなりやしないのに。彼は一瞬考える素振りを見せた。答えを求めていなかった私は再度首を持ち上げる。人工的な地上の星は些か眩しすぎるのだ。
「……あんなに近く寄り添っているように見えていも、星って実際はえらく離れているんだってさ」
「へえ」
「私たちも一緒だね。隣同士にいても、わけのわからない不安がいつだって胸の中にすとんと落ちてる」
近いようでずっとずっと遠くにいるんだよ。そう呟けば乱ちゃんが私の左手を軽く握りしめる。美しく細い指がくっついている、大きな手だなあと思った。彼は口を開く。僕たちだけじゃない人間はみんな、寂しがりやな迷い子だよ。乱ちゃんは笑いながら目を伏せて言った。