※学パロ
「ウソでしょ」
黒板に張り出される成績不振者等の指導と大きく書かれたプリント。つまり先々週に終わったばかりの期末考査で出来が悪かった生徒が対象となる、補習の呼び出しである。今日は7月20日、明日からうきうきわくわくの夏休みだ。それがどうしてこうして、私の名前がここにあるのだろうか。心当たりしかないところが苦しい。数学、理科、それからええと。赤だったかぎりぎりだったか既に思い出せない何教科かを指折り数えてみても、目の前の文字が変化するわけがなく。後悔先に立たず、なんて言葉が頭の中でフラメンコを踊っている。畜生、ちくしょう……明日はお祭りだ、補習期間は明日から一週間だ。折角手持ち花火をしようと計画を立てていたというのに。肩をぽんと叩かれ振り返れば、その計画を一緒に考えていた四人が立っていた。あーあ。頭が悪いのは私だけか、くそ。案の定優秀な成績を収めた皆々様は頑張ってきなさいと、腹の足しにもならないエールを置いて去って行った。来月中旬に開かれる隣の市のお祭りには一緒に行こうねという言葉を残しながら。
「なんだ、ナマエも補習なのか」
「御手杵、同士よ……」
「いやな同士だな……。あ、正国の名前も発見」
「ハッハッハ! 運命共同体といこうじゃないか、三馬鹿として!」
「赤点三つのお前と一緒にはされたくねえなあ」
「は、正国今回いくつ!?」
いつの間にか隣に並んでいた正国が一本だけ指を持ち上げた。それから縋るように御手杵に顔を向けるとにんまり笑いながらピースをされる。ウソでしょ、本日二回目。いつも似たに寄ったりの成績をしていたじゃないかあ、私たち! おいおい嘆いていれば背中をとんとん叩かれあやされる。子供か私は。
でもとりあえずは顔なじみが補習の教場にいることがわかって安心した。心は荒んでいるけれど、明日の帰り、夕方に三人でアイスを食べたら収まることだろう。あー、スイカバーが食べたい。でもパピコも食べたい。
「補習組?」
「わっ……て、獅子王か。どうせ補習組でしょ?」
突如背中から掛かる声に驚き振り返れば、いつも通り学ランを着崩した獅子王が立っていた。この男は一年生時正国と御手杵と一緒のクラスで、今も三人そろって仲がいい。私は今年の四月に二人との繋がりでよく話すようになった。
良く目立つ髪色は地毛だと言っていたが、制服をもっとしゃんと着用しろとのことでよく生徒指導をされているために、てっきり彼も成績不振者だと思っていた。この二人とよく馬鹿をやっているし……まあ人のことは言えないのだけれど。そんな私の問いかけに獅子王は「俺? 違うけど」まさかの返答をしたのである。ウソでしょ、本日三回目。完全に最近の口癖だこれ。
「えっ、えー!?」
「ばか、こいつは俺らと頭の出来がちげえんだよ」
「そうそう。入学してから学年十位以内から落ちたことないんだよな」
「まあな! じっちゃんが学生の本分は勉強だって言ってるし」
鼻高々に通知表を見せてくる……なるほどこりゃあ驚いた。この高校体育以外も五段階評価だったのか。思わず裏切り者ぉ……へろへろな声が出た。正国と御手杵がうんうんと同調する。
「でも補習って言っても一週間だろ? どうってことないじゃん」
「学校好きだしいいけどさー……明日、お祭りだったんだもん」
「終わってからでも間に合うんじゃねえのか」
「浴衣着ようねってみんなで言ってたから。無理でしょ」
まあ来月の方に行こうって言われたからいいけど。子供みたいに唇を尖らせいじけてみせる。女子高生はメンドクサイ生き物なのだ。一人だけ制服でチョコバナナを片手にというのは気分が乗らない。それをみんなもわかっている。勉強しとけばよかったなあとぼやけば、獅子王が言った。
「じゃあ、俺と行こう」
「……は?」
妙に真剣な顔をしてお誘いしてくるものだから、私は数秒間固まった。極め付けに横から「じゃあ俺達も」と言い出す御手杵に「だめ」と腕をばってんにつくると来た。え、なんで、二人で? 聞きたいことは勿論山のようにあったけれど、赤くなった顔を隠す方が大切だった。急いで俯く。なんだそれ、なんだそれ。まるで、「デートじゃねえかそれ」。おい正国、ばか。馬鹿、阿呆と乾いた口の中で罵る。そんな私なんか構いやしないという風に獅子王は「そうだけど」と答える。
「は?」
「だから、デートの誘い。俺も制服で来るし、学校まで迎えに来るよ」
「はー、オトコノコの友情って儚い」
「二人で行くか、御手杵」
「野郎同士とかむさくるしくないか」
「ちょ、ちょ……!」
私抜きでどんどん進んでいく話。チャイムが鳴り響く。獅子王は「いけね!」と慌てて翻った。えっ、ちょっと、待って。
「じっちゃんの畑の手伝いしに行く約束あったんだ! じゃあな!」
「おう」
「夏休み中遊ぼうな」
「ちょ、獅子王!」
「また明日、ナマエ!」
大きく振られる手に、それ以上声をかけることは出来なかった。彼の足音が教室から遠ざかっていく、心臓がどきどきしている。憂鬱だったはずの明日がどうしよう、こんなにも楽しみになってしまったのだ。ばか、ばか、獅子王のばか。両手で熱い顔を覆っていれば、御手杵と正国がにやにや笑いながら肘でつついてくるものだから、背中を殴ってやった。もちろんグーで。