今日は朝からなんとなく体調が思わしくないことは感じていた。それでも命懸けで戦場に赴いてくれる刀剣男士がいるのだから、自分だって審神者業を休むわけにはいかない。朝食の準備を燭台切と並んで済まし、それぞれの部隊に本日の任務を言い渡す。それからその大きな背中を見送り、今度は洗濯やら掃除やらの家事に手を付けていく。いつも通りの一日なのに、身体がとてつもなく重い。下腹部を走る鈍痛にナマエは気付いていた。ちゃっちゃと終わらせて少しだけ休憩を入れよう。手伝ってくれる本丸に残る短刀たちに感謝しつつ、腹を押さえながら彼女は重苦しい息を吐く。毎月毎月本当に厄介だ。
「大将! こっちの方終わったぜ」
「ああ、厚。ありがとう、じゃあ次は……」
ええと、あと何が残っているんだっけか。いつもより幾分か鈍い頭の中で整理していく。洗濯は乱と五虎退に頼んでいるし、買い出しは遠征ついでに寄ってきてくれると加州が言ってくれたし。うーんと唸るナマエを暫くは見つめていた厚であったが、くんと鼻を動かすと顔色を変える。そのまま審神者の腕を力強く取った。あまりに急な出来事に彼女は青白い顔を上げる。
「厚……?」
「大将、部屋、戻ろう」
「えっ、えっ?」
まったく状況が呑み込めない彼女に構わず、彼はずんずん廊下を歩いていく。そのまま自室まで戻ると布団を敷かれ、押し込まれてしまった。ちょっとだけ怒ったような顔をして厚はナマエの額に手を乗せる。どうやら出血による熱はないらしいな、安堵の溜息。そんな一連の行動に目をぱちくりさせながら審神者は首を傾げ尋ねる。
「あ、厚……どうしたの? 私別に、」
「それはオレの台詞だ! まったく……どこで怪我したんだよ、大将」
「……は?」
前々から女のくせにお転婆がすぎると前田と話していたが……ぶつぶつ呟く厚に彼女はぽかーんとするだけである。なるほどなるほど、戦場で敵を切る彼らは常人よりも血の匂いに敏感らしい。納得がいった途端に笑いがこみあげてきて、ナマエはくすくすと声を漏らす。そんな主の様子が気に入らなかったのか、彼はムッとした表情を見せた。そのまま指を伸ばしてくると、パチン、デコピンをひとつ。
「あのなあ、大将……オレたちは大将の苦しんでる姿、見たくねーんだ」
「……ありがとうね、厚。でも一ヵ月に一回、必ずなることだから仕方ないんだ」
「え……?」
しばらくは彼女の言葉をかみ砕いていた少年であったが、なんとなく察しがついてしまったらしい。じわじわ顔を赤くし、終いには汗を一筋流した。見目相応の初心な反応に、優しくしてもらったにも関わらず意地悪をしてやりたくなるのだから、自分も大層性格がひん曲がってしまっているなあ、ナマエは思う。いやだって、彼の兄弟であり近侍である奴はこうしたことに関しては全然可愛げというものがないから。セクハラで訴えられるかもしれないなあ、頬っぺたをつんつん突きながら彼女は口を開いた「生理……ええと、月経って言った方が伝わる?」。瞬間タコのように顔色を沸騰させると、厚は勢いよく立ち上がり半歩後ろに下がった。心臓がバクバクしているのが、わかる。女なんてものはこの審神者に使役する前は殆ど関わりがなかった。それに加えナマエは行動や思想こそ年相応であるが、外見は自分と同じか少し上程度にしか見えず、別段異性として意識することなどなかった。あくまで主君として大事に大事に思ってきたところで、ええい! なぜこんなに心臓が逸る。ムカつく。ぷいとそっぽを向き、彼は障子に手を掛けた。
「あとはオレが指示だしとくし、大将は大人しく寝てろよな!」
「えー……いいの?」
「真っ白な顔の奴を働かせるほどうちの本丸にゃ人手が足らないわけじゃない。その代り体調がよくなったらキビキビ働いてくれよ、大将」
「やだ厚かっこいい。流石お兄ちゃん」
「あと、オレのことからかったのは遠征から帰ってきたら薬研に言いつけてやる」
ざあっ、血の気が引く音が聞こえる。厚は含み笑いをすると、引き留める彼女を置いて部屋を出た。ざまーみろ、早く痛いの治るといいな、大将。