三人部屋、真ん中のベッドにいるナマエは両サイドから聞こえてくる安らかな寝息に溜息を吐いた。布団の中でこっそりiPhoneを覗けば深夜も深夜、丑三つ時と呼ばれる時間帯である。つい二時間ほど前までは近隣の部屋に振り分けられた友人たちも来ていて、わいわい古典的なトランプゲームをやったり噂話をしたりしていたものの、一日沖縄の自然を味わった後とあれば疲労がたまっていたらしい。中学生の頃こそこの非日常さにムキになって朝日を拝むまではと意気込む者もいたが、さしもの高校生となれば睡眠をしっかりとって翌日も楽しもうとするのが賢いとわかりきっていたのだ。寝返りをうちつつ瞼を閉じるも意識は嫌になるほどはっきりしている。幼少から家族旅行とあっても枕が変わればなかなか眠れなかった。特に一日目は。そんなにデリケートな人間ではないはずなのになあと考えていれば、手の中にある物が微かに震えだす。ぱっと目を開け確認する。ディスプレイに表示される名前には見覚えがあった。いそいそと起き上がりスリッパを履き、鍵を開けてベランダに出る。生温い空気が顔を撫ぜるのを感じながら、ナマエは通話をタッチしてすぐさま耳に押し付けた。数秒の静寂の後、声が届き鼓膜を揺らす。
「……し?」
「えっ」
「もしもーし?」
予想していたものと違ったそれにぎょっとし目を白黒させていれば向こう側で「なにやってんだ!?」焦ったような叫び声が聞こえた。それからすぐに大将と、いつも通りの呼び方で自分を探す彼が出る。普段の彼らしかぬあまりの慌てぶりにくすくす笑い声が漏れた。中等部の修学旅行も二年時の同時期に行われている。今は京都にいる薬研、大方目を離している隙にスマホを同室の仲良しにでも奪われたのだろうと察することができた。案の定話を聞いていればなるほどやはり、トイレに立っている隙にいつの間にか悪戯をされていたらしい。履歴の一番上に残っている女の名前に、年頃の男ならば食いつくのも他ないだろう。ましてや女っ気の欠片すらない薬研藤四郎だ。
 ナマエはその場でしゃがみ込むと窓ガラスへ軽く背中を預け、またたく星を見つめる。あちらも晴れているのだろうか。向こう側で再び攻防し始めたらしい彼の苦戦する声が聞こえる。年の割には大人びていると思っていたが、友人の前では年相応な反応も見せるようだ。安心したような、ちくりと胸が痛いような。同じ目線で彼を見つめられる女の子には願ってもなれない。
「ねえ薬研」
「だーっ! 浦島、ちょっかいかけるのやめろ! あ? どうした大将」
「空が綺麗だよ」
「ん? ……おう、そうか。こっちは如何せん明るくてな」
「……」
「大将?」
 詰まった喉から絞り出したのはなんでもない、の一言だった。平生と変わらぬトーンに薬研も言及はしない。それから暫し当たり障りのない報告をし合い、二人の通話は終了した。ベッドの中に戻り、薄手の掛布団を頭まですっぽりと被る。早鐘のように鳴る心臓付近でぎゅっと拳を握る。今夜はどう足掻いても眠れそうになかった。
aeka