何度も何度も繰り返し見る夢がある。その中の私は中学生で、真新しい少し大きめな制服に袖を通し、満足げに鏡の前でくるくる回っている。死んだ母も生きていて、今では年に数回しか会うことのない父と並んで笑っている。そんなところに、気付けばいつも彼がちょこんと現れるのだ。病的なほどに色が白く、幼いながら完成した神様みたいな美しさを持つ少年。私のことを見上げ、チークを入れたように頬をほんのりと桜色に染め、薄い唇を開き呪文のように「俺があんたよりでかくなったら、ケッコンしてくれ」。薬研くんは愛らしい天使の微笑みを浮かべて、私にそう囁くのだ。三歳の頃から今日も可愛いだとかナマエが一番好きだだとか言われていた私は、はいはいと適当に頷く。どんなに恐ろしいことになるかわかっているのに、私は頷く。一度だって首を横に振って拒絶することができないのだ。そして今日も色のないふわふわとした夢の中にいる。お母さんが笑っている。お父さんがカメラのレンズを向けている。カシャリ、フラッシュが眩しい。ぱちぱち瞬きを繰り返す先に私の胸のあたりまでしか身長のない、薬研くんが立っていた。
「制服姿のナマエは、いつにも増してべっぴんさんだな」
「何言ってるんだか、マセガキ」
「俺っちは本当の事しか言わないぜ。……なあ」
ああ、来る。照れくさそうに言葉に詰まる少年を前にして、全身がぶるりと震えた。足に力を入れて身構える。いつも通り、呪文の言葉。
「俺があんたよりでかくなったら、ケッコンしてくれ」
普段ならば肯定の台詞を返し終わるところだった。しかし今日は何故か違う音が漏れたのだ「いやだ」。堰を切ったようにぽろぽろ溢れ出す。頭を両手で抱え込んで馬鹿みたいに大人気もなく繰り返す。薬研くんとはケッコンしない。できない。私は違う人と付き合って幸せになるし、貴方はモデルのように綺麗な彼女を作って狭い玄関でドラマのようなキスをするのだ。息継ぎもせずに言い切り、肩で呼吸をする。俯いたまま、彼の顔を見ることができなかった。「ナマエ」私の名前を呼ばないで、お願いだから。
「ナマエ」
子供にしては低い体温に頬を包み込まれ、無理やり目と目を合わせられた。モノクロな世界の中で唯一藤色が鈍く光っている。そこに映る自分はどうしてだろう、泣いていた。薬研くんは眉尻を下げて笑う。
瞬間、夢が唐突に終わった。恐る恐る瞼を持ち上げると、いつもの寝室ではなかった。乱くんが帰ってしまった後に、どうやらソファで眠りこけてしまったらしい。電気まで点けっぱなしだった。酷い寝汗をかいていることに気付き、シャワーを浴びようと思った。が、すぐに違和感を覚える。腹辺りが重い、のだ。錆びたブリキの人形のようにゆっくり、ゆっくり、視線を下にずらす。馬乗りになっている、影。
「おはよう、ナマエ」
どうか夢の続きであってくれと唇を噛みしめるも、痛いだけだった。口の中に鉄の味が広がっていく。