「ねえ、鶴丸」
 昼休み、出勤途中にコンビニで買ったサンドウィッチを咀嚼しながら、隣のデスクで不健康にカップラーメンをすする同期に声をかける。普段ならばお互い社食に足を運んだり外に食べに行ったりするのだが、繁忙期とあって体力が根こそぎ削られていたところであったためにどうにも動く気になれなかった。ただでさえ不健康な細さをする男は目の下にがっつりとクマをこさえていて、ぎょろりとした眼光が私を射る。まあ人のことを言えない程度には私も酷い顔をしているのだろうけれど。好きじゃなきゃこんな仕事続けられない。そんなこと口にしたらお前はそろそろ寿退社だろと怒鳴られそうだ。
「なんだ、どうした? 言っとくが仕事は手伝わないからな。俺は午後から外回りだ」
「だいじょーぶです、目途は立ちました。そうじゃなくて、ね」
 十もそこそこ年が離れているのは、世間一般で見るとどうなのだろうか。俯きがちに訪ねれば、彼は箸をぴたりと止めた。それから視線を上の方で彷徨わせる。なんだ、マリッジブルーってやつか。問い返された。そうではないと思う。
「君みたいな女でも何か不安に思うことがあったのか」
「すんごい失礼な事言われた気がする。だってさあ、ねえ」
「今は多いらしいから、心配するほどでもないだろう。××先輩はしっかりしているし、人望も厚い」
「うーん……うん」
 同タイミングでペットボトルに口を付け、会話は一旦途切れた。ビニール袋からゼリーを取り出し、スプーンで掬う。美味しい。
 私と彼はちょうど十歳離れている。私が新卒でこの会社に入ってきたとき、同じ部署で優しく指導してくれた。鶴丸の言う通り周囲からの人望は厚いし、頼りになる人でおまけに顔も良い。何故私なんかを、と先輩女性社員がこそこそ言っているのに全くその通りですよねと全力で同意したいくらいだ。それほどに素敵な人なのだ。昨年同じプロジェクトチームに配属され、半年前に告白され、一ヵ月前にプロポーズを受けた。随分スピード婚だなと報告した部長に苦笑されたのを覚えている。
「十五歳が五歳にだよ」
「その時に手を出してたら犯罪だけどな。君は今二十五だ。男女逆だったらまた何か思うところもあったのかもしれんが」
「……うん」
 どきりとした。私はいったい誰を何を思ってこんな話題を出したのだろう。胃に入ったばかりのサンドウィッチがゼリーが逆流しそうになる。ちかちか光る色がある。ケッコンしてくれ、誰かの声がする。二十五歳が十八歳に、脳内にそこまで字が打ちこまれた。ところで覚醒した。どうやら二日連続、寝落ちしてしまったらしい。夢は夢だが、これは以前にしたやり取りだ。笑えない。
 iPhoneには会社と彼と、ついでのついでに鶴丸からの着信が入っている。でも今はそれどころじゃないのだ。やっべー、やっちまった。というよりやられちまったの方が正しい。顔面蒼白、血の気が失せる。太腿をたらたら伝う液体を拭う。舐める。苦い。死にたい。隣に落ちている自分の下着は、婚約者である彼の好きな色だった。
aeka