〈背景〉
此処は大きな時計塔がそびえ立つ、小さな村。
鬱蒼と茂る森の奥──居場所を追い出された者たちは放浪の末、不思議とこの村に辿り着く。
種族も年齢も異なるはぐれ者達が集う此処はいつしか、迷える牧人の楽園……
“アルカディア”と呼ばれるようになった。
そこにあるのは、ひとりの人間と、ひとつの魂の触れ合い。
〈配役〉♂2:♀0
葬儀屋 - Sylvester / シルヴェスター:♂
右目を覆い隠す前髪から覗くのは、威圧的な視線。荒い口調に大雑把な性格が垣間見えるが、葬儀屋としての評価は高い。無造作に伸びた赤い長髪、着崩された正装の内側には、常に煙草と回転式拳銃が収まっている。
死神 - Gilbert / ギルバート:♂
首元で結われた伸ばしかけの白髪の隙間に、金色の耳飾りが揺れる。どこか飄々としており、のらりくらりとした言葉は真意を掴めない。白い作業服を着てアルカディアの墓地に現れるが、彼の姿は他者からは目視できないようだ。
死神N:
葬儀屋:お前、同業者?
死神:それ、オレに言ってる?
葬儀屋:ほかに誰がいンだよ。
死神:…誰もいないと思うけど。
葬儀屋:ンなこた分かってる。そこで何やってんだって聞いてんだ。
死神:アンタは。
葬儀屋:質問に質問で答えるな。
死神:…
葬儀屋:ハァー……俺はシルヴェスター。この村の葬儀屋だ。お前は。
死神:ああ、葬儀屋。俺はー……、ギル。まあ同業みたいなモンかな。
葬儀屋:あぁ?俺のシマ荒らすつもりか。だったら出てけ。
死神:その言葉、そっくりそのままお返しするよ。ここ、オレの管轄なんだよね。
葬儀屋:……あ?
死神:だから出ていくのはアンタのほ……
(葬儀屋、死神に発砲する。)
死神:ッ……アブな。いきなり何。
葬儀屋:……俺の弾を
死神:だろ?人は見かけによらないもんさ──
(葬儀屋、死神に発砲する。)
死神:……オレに弾を当てるなんて、なかなかやるね。
葬儀屋:お前。……なんで生きてる。
死神:さあ。もう死んでるからじゃない?
葬儀屋:もう死んでる?
死神:オレ、死神なんだよね。
葬儀屋:……へ〜〜〜え。
死神:それだけ? もっと驚くとかないの。
葬儀屋:昔っから霊感だけはあっからな。この手のモンには、もう慣れっこだ。
死神:なんだ、残念。拝めると思ったのになあ。アンタのおっ
葬儀屋:で幽霊?死神だっつったか?生憎こっちは無神論者でね。崇めるフリでもすればいいのか?
死神:いいよ、わかった。でもこれだけ言わせてくれる? 幽霊と一緒にしないで。オレ達の方が格上だから。
葬儀屋:了解了解。どちらにせよ死んでるヤツに用は無ェ。さっさとそこを
死神:冷たいなあ。死んだ人間には興味なし? 来世では最高の闇医者になれそうだ。
葬儀屋:おもしれェ冗談だな。そっちこそ、来世はきっと最高のコメディアンになれる。
死神:なら笑ってよ、少しはさ。
葬儀屋:ハハ。……ほら。弾も時間も、こっちはムダにしてんだよ。用が無ェなら出てってくれ。
死神:あー……。イヤだと言ったら?
葬儀屋:衛兵を呼んで公式に追放してもらう。
死神:衛兵……? この村に、そんなの居たかなぁ。
葬儀屋:いや居ない。だから俺が代わりに言おう。お前の墓はあっちだ。分かったらさっさと行ってくれ。
死神:ちょっとちょっと。本当に案内する気ある? 座ってないでさ、衛兵なら、迷子を送り届けるまでが仕事じゃないの。
葬儀屋:俺にゃ、
死神:はは、運命を感じるね。オレにもその気はスライムの毛ほども無い。
葬儀屋:んじゃ、毛が生えるまで待っててやるよ。…煙草あるか?
死神:ない。買いに行くなら止めないけどね。ちなみに、店はあっちだよ。
葬儀屋:……座んな。テメェこそ案内する気あんのかよ。
死神:そりゃあもちろん、微塵もないよ。留守番が必要なんじゃない。アンタが居ない間、墓を見張っててあげるよ。
葬儀屋:ハァー……そりゃどうも。
死神:あれ。煙草はいいの。
葬儀屋:野暮用が出来たんでね。テメェを見張るっつうな。
死神N:それが、オレとシルヴェスターの出会いだった。シルヴェスターは毎日ふらりとやってくる。棺桶に座っているオレの隣に腰を下ろして、共同墓地を眺めながら一人静かに煙草をふかす。今日も、昨日も、きっと明日も同じように過ごすのだろう。オレは続く退屈に耐えかねて、口を開いた。
死神:シルヴェスター。
葬儀屋:なんだ。
死神:アンタ、暇なの?
葬儀屋:……アァ?これが暇に見えるか?
死神:見えるから聞いてるんだよ。
葬儀屋:お前こそ暇に見えるがな。……俺は墓を見張ってるんだ。漁られねェように。
死神:ああ、墓守ってヤツか。
葬儀屋:そうだ。葬儀屋と、墓地の管理人を兼任してる。こう見えて仕事中だって、前にも説明したよな。
死神:いんや?初耳だね。
葬儀屋:いや言った。
死神:言ってない。
葬儀屋:言った。
死神:言ってない。
葬儀屋:……い
死神:言ってない。
葬儀屋:……。
死神:……。……あれ、言ってたかな?
葬儀屋:……。
葬儀屋N:こいつとは、馬が合うのか合わないのか、わからない。息が合うとも言えるし合わないとも言える。とにかく、くだらない時間であることに変わりはなかった。ひと一人分の間を空けて、棺桶の上に腰掛ける。お互いへは無頓着、あるいは無関心だった。墓地の真ん中で、くだらないやり取りを交わして笑う。生きた時間をただ浪費していくことに、死神は何も言わなかった。死者を前にして、これが冒涜的だと
死神N:シルヴェスターと出会って、数日後のことだった。野生のケット・シーを膝に乗せて撫でていた、のどかな真昼。不意にぞろぞろと人間が列をなしてやってきた。みんなの顔は真っ青で、泣いている者もいれば、なだめる者、無表情の者もいた。黒い布に覆われた人々が墓地の真ん中に集まって、不規則な嗚咽が聴こえる。そこだけが
葬儀屋N:その日、ギルは猫を撫でていた。じりじりと焦げつく暑い日だったが、快晴が「中止」の理由にはなり得ない。参列者を引き連れて入った墓地の、視線を上げた先。彼と目が合ったのは一瞬だった。何も見ていない振りをして群衆に向き直る。喪服に身を包んだ人々を前に、口を開いた。残された生者に慰めを。先立った死者には弔いを。葬儀屋としての本職を全うし、すべて収まった頃にはすでに日が落ちかけていた。俺はその足で墓地を出て、街へ向かった。
(間)
死神:……下から見えた。なにしてンの、こんなところで。
葬儀屋:何って、見りゃわかンだろ。
死神:……?
死神N:シルヴェスターは、ひとりで酒を飲んでいた。
死神:……ここ、教会の屋根の上だぞ。
葬儀屋:おう。お前も飲むか?
死神:それ、
葬儀屋:いいや?ミードに見えるか?エールだよ。
死神:じゃ、無理だ。オレ、
葬儀屋:そうかよ。
死神:そ。一応死神だからね。飲み物は
葬儀屋:そんな決まりがあるなら、死んでも神にはなりたくねェなァ。
死神:ハハッ。じゃあ、酒の代わりに話でもしてよ。今日の、あれは何だったの?大勢で賑やかだったね。
葬儀屋:あァ、あれな。……集団葬儀だ。
死神:集団葬儀?
葬儀屋:西の森で、冒険者御一行が返り討ちにあった。それの弔いだ。
死神:あー……確か西の森って、エルフの王国、だったっけ?
葬儀屋:そうだ。立ち入り禁止のな。……だが命知らずなヤツらがいたんだ。案の定、帰りの知らせがないってんで、ここ数日は遺体捜索が続いてた。だがま、東と違って物騒だからな。依頼は早々に打ち切られた。でもって集団葬儀、俺が幕引きをして“めでたしめでたし”。
死神:なるほどね。でも、なんでこんな高いところにいるの。
葬儀屋:……。献杯って知ってるか。
死神:献杯?
葬儀屋:まあそうだよな。此処らじゃやってるのは俺ぐらいのモンだろうし。屍に杯を捧げて、敬意を表すんだ。この場所からだと墓地の全体が見える。全員に捧げるには効率がいい。
死神:なんでそんなこと。
葬儀屋:葬儀屋だからだ。人を弔うのが俺の仕事だ。
死神:ふうん、殊勝だね。
葬儀屋:ま、珍しいだろうな。死者を相手に商売なんざ。
死神:そう? 意外に仲間は多いんじゃない。
葬儀屋:………オルガもだな。
死神:えっ?
葬儀屋:一部の
死神:あァ、あの
葬儀屋:知ってンのか?
死神:まあね。オレは彼女に知られてないだろうけど。よく祈る声が聴こえてくるよ。
葬儀屋:……祈りが?まさか。お前は神でも、死神だろ。
死神:死神でも神様だ。求道者が神に救いを求めるのは、当然の摂理だろ?
葬儀屋:死神に祈りを捧げる
死神:ま。なんにせよ、彼女の祈りが真摯であることに間違いないよ。信仰は地域や人によってさまざまだけど、例え彼女が
葬儀屋:はあ?
死神:人が神を選ぶように、神も人を選ぶ。いずれ迎える、その時の指標になるんだ。
葬儀屋:指標?
死神:アンタも一度、神になってみれば判るさ。信仰心の高さに応えてあげたくなるんだよ。
葬儀屋:ハッ、神になるねェ。ンなのは死んでも願い下げだ。
死神:ああ無神論者だったっけ。葬儀屋のクセに面白いよね。……ま、だからオレは来たるべき時が来たら、彼女を選ぼうと思ってる。彼女の願いを叶えてあげて、そして救ってあげるんだ。
葬儀屋:……本気か?
死神:冗談を言っているように見える?
死神N:そう聞くと、シルヴェスターは瓶を煽って、黙ってしまった。教会の屋根の上。目の前には一面の夜空が広がっている。光が瞬いて、流星群が降り注ぐ。物静かな夜だった。そして不意に、シルヴェスターが口を開いた。
葬儀屋:……なんで、わざわざあの子を選ぶんだ。祈りを捧げている奴なんて、ごまんといるだろう。
死神:……それ聞く?
葬儀屋:アァ。
死神:んじゃ話そう。……オレら死神って、魂を喰って魔力に変えてるんだけど。
葬儀屋:あァ。知ってる。魂狩りの光景は昔からよく目にしてきた。
死神:そ。魂の中には、喰えるものと喰えないものがある。喰えるのは
葬儀屋:……現世で?
死神:つまり、彼女はこの世で何度も罪を犯してるってこと。魂の味は、
葬儀屋:……
死神:……最初、アンタに会った時から思ってた。……急に銃向けるの、勘弁してよ。
葬儀屋:オルガを殺したら、お前を殺す。
死神:……え?
葬儀屋:あの子に手を出してみろ。俺がお前を地獄に落とす。
死神:……え?ハハッ……オレ、もう死んでるって。
葬儀屋:知るかよ。もう一度殺すだけだ。
死神:もう一度?フフ……アハハッ、ハハハハハ!
葬儀屋:なにが可笑しい。
死神:アハハッ……いやいや、死神に向かって「殺す」とか……ハハッ、「地獄に落とす」とかって言うのって……アハハ!それ、冥府の鉄板ジョークなんだよ。まさか現世で言われるなんて、……それも、生きてる人間に!……アハハッ、ハハハハッ!ダメだ、おもしろすぎ……ハハハハハハ!
葬儀屋:……。
死神:ハハハッ、アハハハハッ!アハハハハッ…………ハハ…………はあ……。笑いすぎて死ぬかと思った。
葬儀屋:……もう死んでるだろ。
◆◆◆
死神N:笑い飛ばすオレに気を削がれたのか、シルヴェスターは銃を引っ込めた。気を取り直すようにエールを煽り、次の瓶を手に取って、また煽る。献杯をするつもりだと言っていたから、何本か残っているのだろう。俺の笑い声が止んだ頃、シルヴェスターは口を開いた。過去にやった葬儀の話だった。この村に葬儀という文化を持ち込んだのは、彼自身だと言った。
葬儀屋:前はここに、葬儀なんて慣習はなかった。最近ようやく根付いてきたな、土葬だの火葬だの、……流行りだと、樹葬ってのもあるか。手のひらに木の実を握らせて木の根っこの方に植えるんだ。村の一部に還すんだとよ。……牧歌的っつうか、なんつうか。
死神:……この村、儲からないだろ。ほかのトコより。
葬儀屋:まアなァ。でも居心地はいい。
死神:へえ?
葬儀屋:結局アルカディアに呼ばれたってことだよ。ルダスコートって知ってるか?
死神:ルダスコート?
葬儀屋:『悪い子はルダスコートに置いてけぼり』って
死神:初めて聞いた。
葬儀屋:……ルダスコートは、有り体に言えばリゾート都市だ。世界各国から金持ちが集まってくる。カジノ、遊園地、歓楽街……表向きは華やかだ。だがその裏じゃ、人身売買や闇取引が行われてる。おそらく本土イチ、ヤバイトコだよ。盗賊、殺し屋、闇医者に黒魔術師もウジャウジャいる。……お前みたいなのもな。
死神:どういう意味?
葬儀屋:褒めてはいない。
死神:だと思った。
葬儀屋:ハッ。とにかく、金だ。何をするにも、金が要った。逆に言えば、金さえ積めばどうにでもなる。何だってできる場所だ。騙しに盗み、人殺しだって揉み消せる。まともな精神じゃ生き残れない。だがいかんせん、金の巡りはいいモンだから外から人がやってくる。で、悪循環だ。人を金にして生きる。俺はそんな街に生まれた。
死神:ふうん?
葬儀屋:……あるとき、仲間を殺すハメになった。俺にとっては大切なヤツだった。だから丁寧に終わらせたいと思ったんだ。だがルダスコートだ。「死体は金になる」って、どこも取り合っちゃくれなかった。死神だなんて後ろ指を指された日にゃ、怒りを抱くまでもねェ、ああもうコイツらは駄目なんだと心底思ったよ。
死神:死神ねェ。
葬儀屋:売れるモンは何でも売るようなヤツらだ。情報、技術、臓器に死体………もともとは俺も一派だったが、……そいつを売って金にするなんて考えは、不思議と微塵もできなかった。仲間を捨てるか、それとも街を捨てるか?天秤にかけるまでも無いことだった。
死神:街を捨てることにしたんだ。ふうん。余程その人のことが大事だとみた。
葬儀屋:そうだよ。人は見かけによらない。だったか?
死神:嬉しいね。覚えててくれてたんだ、オレの言葉。
葬儀屋:…。話を戻すが、俺が「葬儀屋」に転身したのは、そこからだ。ルダスコートを出て海を渡り、本土に辿り着く頃には、霊が視えるようになっていた。
死神:ストップ。ちょっと展開が急すぎない?
葬儀屋:詳細は省く。
死神:何があったの。
葬儀屋:まあいろいろだ。生きてりゃいろんなことがあんだろ。
死神:だから何が。
葬儀屋:言ってもしょうがないことだ。それより、今はこの場所について話がしたい。
死神:あー…ここね。確かに変わってると思ってたんだよ。何の声も気配もしないし。
葬儀屋:ああ。俺が知ってる限りだと、墓地ってのは少なからず、死霊の声やら影やらが蠢くもんだ。生霊がさまよってる場合もある。が、ここじゃそんなのは一つもない。みんな安らかに眠ってる。見たことあるか?そんな墓地。
死神:いいや。オレも知らなかったよ。でも不思議だよね。
葬儀屋:この村まで来るようなヤツらが、潔くこの世を去るなんて、おかしいと俺も思った。…だが、今となっちゃわかる。ここに住み着くような選択肢があるヤツには、もう絶望する元気すら残っていない。
死神:うん、そうだね。ここが最果て。彼らにとっての終焉だ。
葬儀屋:ああ。だから俺は、この場所に決めた。咎めるヤツなんかも居ねェし、絶望した人間が、命からがら辿り着くような場所なんだ。勝手に守るのも勝手だろう。俺はここから離れる気は無ェ。
死神:愛だね。
葬儀屋:……は?
死神:まさしくそれは愛だと思うよ。アンタは愛に溢れた人だ、シルヴェスター。…………って、何、その顔は。
葬儀屋:…………「言葉を失ってる」んだよ。
死神:っはは。人間の向かう先は全部一緒だ。自ら死の入り口の番人になる。それは、人に対して、愛のある証拠なんじゃないかと思うけど。
葬儀屋:愛は愛でも……自己愛だな。それに俺は、……疲れただけだ。
死神:疲れたって?
葬儀屋:俺は静かに生きたいんだ。だからここに落ち着いた。誰にも荒らすような真似もさせない。お前にもな。
死神:オレにも?
葬儀屋:死者が勝手したら、生者はどうなる。すぐに気が触れちまうだろう。生者にとって、死者はいつだって脅威になるんだ。弁えろよ。
死神:……ま、そーかもねー。
葬儀屋:……なんだ、その返事は。
死神:できるなら、そうしてやりたいところだけど。オレにもノルマがあるんだよ。
葬儀屋:ノルマ?
死神:そう。来てみたらアンタがいたからビックリしたよ。人間で安心したけど。同業でも、競合にはなり得ないから。
葬儀屋:どういうことだ。
死神:どこから言ったもんかなあ。オレは今、冥府に雇われてるんだけどさ。
葬儀屋:お前………働いてたのか。
死神:一応ね。でも雇い主は神経質で厳格で……とにかく厳しい人なんだ。そろそろ依頼をこなさないと、今度はオレの命がアブなくなる。
葬儀屋:……ハア。仕事を選べよ。
死神:断れない仕事もあるだろ?
葬儀屋:なるほどな。そりゃご愁傷。
死神:でも正直面倒だし、やらなくていいことだからサボってたんだ。アンタもオレと同じだと思ってたのに……どうやらそれは、思い違いだったみたいだ。
葬儀屋:思い違い?
死神:今日、見てたんだ。アンタはちゃんと仕事してた。
葬儀屋:人の顔を差すな。
死神:顔には刺さってない。
葬儀屋:顔に指を向けるな。
死神:はは、大目に見てよ。似た者同士だと思ってた。けどアンタとオレは同類じゃない。そう思い直したんだから。
葬儀屋:……。
死神:まあしかし、こんなオレにお偉いさんも黙っちゃいない。そろそろ、
葬儀屋:
死神:オレが受けているのは「魂狩り」って呼ばれる依頼だ。けど、それにもルールがあってね。ひとつ、直接手を下してはいけない。……魂を狩るってのは、何も殺すことじゃない。実際は死期の近い人間に近付いて、ゆっくりと準備をさせることなんだ。
葬儀屋:ただ待ってるだけってことか。
死神:そうなんだよ。これが相当時間のかかることでね……「魂を育てる」なんて言い方もされたりするけど、そんな手間は御免だよ。
葬儀屋:……っつーことは、ルールを破んのか。
死神:合法的にね。健康で、寿命の長い人間を手にかけることは、……あれ。なんて言ったか……ああ、そうそう。きそくいはん。
葬儀屋:……そうか。お前はもうじき一気にカタをつけるつもりなんだな。
死神:そう。そしてオレがアルカディアにこだわる理由はもうひとつある。
葬儀屋:……もうひとつ?
死神:ここって、
葬儀屋:ああ。
死神:さっき言ったように、業の深い魂は美味い。
葬儀屋:つまり、ご馳走だらけってことか。
死神:そういうこと。ここは魔物と人間が共存している村だ。いいこともある一方で、悪いこともある。人間が魔物になったり、魔物が人間になったり。現世で「禁忌」と呼ばれる行為も、いともたやすく行われがちだ。
葬儀屋:……
死神:わかるだろ?集まった罪深い人間の魂が、より深い業を背負う場所。アルカディアは、狩り場として最高なんだよ。
葬儀屋:さて……今のを全部、お前の作り話として信じるか、真実として諦めるか……どーっすかなァ。
死神:ヒントをあげるよ。目の前の存在は何?
葬儀屋:……お前みてェな神のことも、まだ信じたくねェんだよ。
死神:手厳しいね。1回冥府に行って見て来てよ、そしたらオレがマトモな方だってわかるから。
葬儀屋:ハア? 悪いが俺はまだ生きてる。行ったら帰って来れなくなるだろ。
死神:そりゃ、そうだ。オレも事情がなけりゃなあ。観光地の一つもあれば話は変わってくるんだけど。
葬儀屋:ハ、冥府観光か。面白そうだな。
死神:やめた方がいいよ、行ったらタダじゃ帰されない。冥府から出るときには、何かしらを要求されるんだ。オレの場合はノルマ。それも、一朝一夕じゃ無理な量。…まあ、どうせヒマだしいいんだけどさ。ルールは厳しいし、専門用語はカタカナばっか、冗談は通じないヤツだらけ…ホンット、“恵まれた環境”だよ。
葬儀屋:……そうか。
死神N:シルヴェスターは短くそう言うと黙ってしまった。何かを考え込むように煙草をふかして、逡巡するような溜め息とともに長く煙を吐き出した。短くなった煙草の火を靴の裏で揉み消してから、こう言った。
葬儀屋なあ、一つ提案がある。俺がお前を手伝ってやる。
死神:それは、………どうして。
葬儀屋:依頼を終えれば、お前は冥府から解放される。オルガにも手を出さなくて済むんだろ?
死神:ああ、そうなるかな。
葬儀屋:死神は、直接人には手出しできない。なら、俺が手になればいい。そうすりゃ命令なんか待たなくても、魂狩りを行えるようになる。魂はお前、死体は俺が処理すれば何の後腐れもない。
死神:分業しようって? 面白いね。
葬儀屋:俺の腕前は知っての通りだ。
死神:ああ、覚えてるよ。それなら──
葬儀屋:だが、条件がひとつある。その間は、アルカディアで好き勝手をしないこと。オルガにももちろん駄目だ。アルカディアで魂狩りをするときは、俺が窓口になる。
死神:なんでアンタが。
葬儀屋:なんでって。…何度も言うが、俺はここの墓守と葬儀屋を、
死神:兼任してる。だったね。………いいよ、乗った。オルガのことは残念だけど、アルカディアには良質な魂が多いから。アンタを介せばいいってだけなら、それで構わないよ。
葬儀屋:オーケー。協定締結、だな。
死神:じゃあ改めて、シルヴェスター。オレの名前はギルバート。ちょっと発音してみてよ。
葬儀屋:………ギルバート。これがどうした。
死神:サーンキュー。これにて契約完了だ。
葬儀屋:……は、契約?
死神:あれ、知らない?死神とは、呼び合うことで契約できるって話。メチャクチャ簡単だよね。最初知ったときビックリしちゃった。
葬儀屋:オイ、勝手に話を進めるな。お前と契約もしない。今すぐ取り消せ。
死神:悪い話じゃないと思うよ。オレの名前を呼んでくれたら、すぐにアンタのところに飛んで来られる。魂狩りにはもってこいだろ?
葬儀屋:いい話ばかりでもないだろう。契約っつーことは、こっちにも代償があるんじゃねえのか。
死神:代償は……ない、………ことはない。
葬儀屋:あんじゃねェか。言ってみろ。
死神:魂が、オレに喰われる。
葬儀屋:……何だって?
死神:普通の人間は前世、現世、来世と続いていくけど……契約神に喰われることで、アンタの魂は完全に終わる。後にも先にも続かない。……死神とは、現世限りの魂で結ばれるんだよ。
葬儀屋:……、フッ。
死神:なんか、面白かった?
葬儀屋:いいや。それならいいと思っただけだ。
死神:へえ?
葬儀屋:もともと来世になんてハナから期待なんざしちゃいねェ。今更
死神:ふうん、これだけ一緒に過ごしておいて、まだ信じてくれてないんだ。
葬儀屋:死神は……、いや。お前の存在については、………信じるしかないだろう。視えてる以上は。
死神:話については?
葬儀屋:死ねば分かることだ。それまではアルカディアに指一本触れさせねェよ。
死神:ははっ。まるで
葬儀屋:いいや?
死神:……オレが? 誰の。
葬儀屋:俺のだろ。話ちゃんと聞いてたか?
死神:聞いてたよ。ま、アンタひとり救うぐらいなら、確かに朝飯前だけど……
葬儀屋:そういうワケだ。せっかくだしデカイ
死神:……わかった。アンタの働きには期待してる。安心して託してくれよ、
葬儀屋N:
死神N:弔い人シルヴェスター。アンタの魂、冥府の底で、腹を空かせて待ってるよ。
(終話)
融和性アルカディア - 第8話
葬儀屋:
死神: