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融和性アルカディア
- Anastasis -

Caption

・名前N…「ナレーション」および「地の文」としてお読みください。
・配役の関係上、セリフ量にバラつきがある場合があります。ご了承ください。

舞台設定


〈背景〉

此処は大きな時計塔がそびえ立つ、小さな村。
鬱蒼と茂る森の奥──居場所を追い出された者たちは放浪の末、不思議とこの村に辿り着く。
種族も年齢も異なるはぐれ者達が集う此処はいつしか、迷える牧人の楽園……
“アルカディア”と呼ばれるようになった。

そこにあるのは、ひとりの人間と、ひとつの魂の触れ合い。

〈配役〉♂2:♀0

葬儀屋 - Sylvester / シルヴェスター:♂
右目を覆い隠す前髪から覗くのは、威圧的な視線。荒い口調に大雑把な性格が垣間見えるが、葬儀屋としての評価は高い。無造作に伸びた赤い長髪、着崩された正装の内側には、常に煙草と回転式拳銃が収まっている。

死神 - Gilbert / ギルバート:♂
首元で結われた伸ばしかけの白髪の隙間に、金色の耳飾りが揺れる。どこか飄々としており、のらりくらりとした言葉は真意を掴めない。白い作業服を着てアルカディアの墓地に現れるが、彼の姿は他者からは目視できないようだ。

第8話



死神N:異郷いきょうの果てのアルカディア。静かな墓地の真ん中に一人の男が佇んでいた。安息を願う魂は、十字架のもとで静かに眠る。鳴り響く鐘の音に、人々は何を想うのか。天高てんたか月影つきかげさやかに、巨大な月が闇夜に笑う。これはそんな一人の男と、ひとつの魂の物語。

葬儀屋:お前、同業者?

死神:それ、オレに言ってる?

葬儀屋:ほかに誰がいンだよ。

死神:…誰もいないと思うけど。

葬儀屋:ンなこた分かってる。そこで何やってんだって聞いてんだ。

死神:アンタは。

葬儀屋:質問に質問で答えるな。

死神:…

葬儀屋:ハァー……俺はシルヴェスター。この村の葬儀屋だ。お前は。

死神:ああ、葬儀屋。俺はー……、ギル。まあ同業みたいなモンかな。

葬儀屋:あぁ?俺のシマ荒らすつもりか。だったら出てけ。

死神:その言葉、そっくりそのままお返しするよ。ここ、オレの管轄なんだよね。

葬儀屋:……あ?

死神:だから出ていくのはアンタのほ……

(葬儀屋、死神に発砲する。)

死神:ッ……アブな。いきなり何。

葬儀屋:……俺の弾をかわすとはなかなかやるなァ。

死神:だろ?人は見かけによらないもんさ──

(葬儀屋、死神に発砲する。)

死神:……オレに弾を当てるなんて、なかなかやるね。

葬儀屋:お前。……なんで生きてる。

死神:さあ。もう死んでるからじゃない?

葬儀屋:もう死んでる?

死神:オレ、死神なんだよね。

葬儀屋:……へ〜〜〜え。

死神:それだけ? もっと驚くとかないの。

葬儀屋:昔っから霊感だけはあっからな。この手のモンには、もう慣れっこだ。

死神:なんだ、残念。拝めると思ったのになあ。アンタのおっ魂消たまげた顔が。

葬儀屋:で幽霊?死神だっつったか?生憎こっちは無神論者でね。崇めるフリでもすればいいのか?

死神:いいよ、わかった。でもこれだけ言わせてくれる? 幽霊と一緒にしないで。オレ達の方が格上だから。

葬儀屋:了解了解。どちらにせよ死んでるヤツに用は無ェ。さっさとそこを退いてくれ。

死神:冷たいなあ。死んだ人間には興味なし? 来世では最高の闇医者になれそうだ。

葬儀屋:おもしれェ冗談だな。そっちこそ、来世はきっと最高のコメディアンになれる。

死神:なら笑ってよ、少しはさ。

葬儀屋:ハハ。……ほら。弾も時間も、こっちはムダにしてんだよ。用が無ェなら出てってくれ。

死神:あー……。イヤだと言ったら?

葬儀屋:衛兵を呼んで公式に追放してもらう。

死神:衛兵……? この村に、そんなの居たかなぁ。

葬儀屋:いや居ない。だから俺が代わりに言おう。お前の墓はあっちだ。分かったらさっさと行ってくれ。

死神:ちょっとちょっと。本当に案内する気ある? 座ってないでさ、衛兵なら、迷子を送り届けるまでが仕事じゃないの。

葬儀屋:俺にゃ、退く気がねェってことだ。お前が行くなら止めねェが。

死神:はは、運命を感じるね。オレにもその気はスライムの毛ほども無い。

葬儀屋:んじゃ、毛が生えるまで待っててやるよ。…煙草あるか?

死神:ない。買いに行くなら止めないけどね。ちなみに、店はあっちだよ。

葬儀屋:……座んな。テメェこそ案内する気あんのかよ。

死神:そりゃあもちろん、微塵もないよ。留守番が必要なんじゃない。アンタが居ない間、墓を見張っててあげるよ。

葬儀屋:ハァー……そりゃどうも。

死神:あれ。煙草はいいの。

葬儀屋:野暮用が出来たんでね。テメェを見張るっつうな。

死神N:それが、オレとシルヴェスターの出会いだった。シルヴェスターは毎日ふらりとやってくる。棺桶に座っているオレの隣に腰を下ろして、共同墓地を眺めながら一人静かに煙草をふかす。今日も、昨日も、きっと明日も同じように過ごすのだろう。オレは続く退屈に耐えかねて、口を開いた。  

死神:シルヴェスター。  

葬儀屋:なんだ。  

死神:アンタ、暇なの?  

葬儀屋:……アァ?これが暇に見えるか?

死神:見えるから聞いてるんだよ。

葬儀屋:お前こそ暇に見えるがな。……俺は墓を見張ってるんだ。漁られねェように。

死神:ああ、墓守ってヤツか。

葬儀屋:そうだ。葬儀屋と、墓地の管理人を兼任してる。こう見えて仕事中だって、前にも説明したよな。

死神:いんや?初耳だね。

葬儀屋:いや言った。

死神:言ってない。

葬儀屋:言った。

死神:言ってない。

葬儀屋:……い

死神:言ってない。

葬儀屋:……。

死神:……。……あれ、言ってたかな?

葬儀屋:……。

葬儀屋N:こいつとは、馬が合うのか合わないのか、わからない。息が合うとも言えるし合わないとも言える。とにかく、くだらない時間であることに変わりはなかった。ひと一人分の間を空けて、棺桶の上に腰掛ける。お互いへは無頓着、あるいは無関心だった。墓地の真ん中で、くだらないやり取りを交わして笑う。生きた時間をただ浪費していくことに、死神は何も言わなかった。死者を前にして、これが冒涜的だとそしる者がいるのなら、彼だって同じ罪で裁かれて然るべきだろう。  

死神N:シルヴェスターと出会って、数日後のことだった。野生のケット・シーを膝に乗せて撫でていた、のどかな真昼。不意にぞろぞろと人間が列をなしてやってきた。みんなの顔は真っ青で、泣いている者もいれば、なだめる者、無表情の者もいた。黒い布に覆われた人々が墓地の真ん中に集まって、不規則な嗚咽が聴こえる。そこだけが冥府めいふまみれたようだった。膝の上のケット・シーは、気づけば居なくなっていた。  

葬儀屋N:その日、ギルは猫を撫でていた。じりじりと焦げつく暑い日だったが、快晴が「中止」の理由にはなり得ない。参列者を引き連れて入った墓地の、視線を上げた先。彼と目が合ったのは一瞬だった。何も見ていない振りをして群衆に向き直る。喪服に身を包んだ人々を前に、口を開いた。残された生者に慰めを。先立った死者には弔いを。葬儀屋としての本職を全うし、すべて収まった頃にはすでに日が落ちかけていた。俺はその足で墓地を出て、街へ向かった。  

(間)

死神:……下から見えた。なにしてンの、こんなところで。

葬儀屋:何って、見りゃわかンだろ。

死神:……?  

死神N:シルヴェスターは、ひとりで酒を飲んでいた。  

死神:……ここ、教会の屋根の上だぞ。

葬儀屋:おう。お前も飲むか?

死神:それ、蜂蜜酒ミード

葬儀屋:いいや?ミードに見えるか?エールだよ。

死神:じゃ、無理だ。オレ、蜂蜜酒ミード以外は飲めないから。

葬儀屋:そうかよ。

死神:そ。一応死神だからね。飲み物は蜂蜜酒ミード神酒ネクタルしか飲んじゃいけないってことになってる。

葬儀屋:そんな決まりがあるなら、死んでも神にはなりたくねェなァ。

死神:ハハッ。じゃあ、酒の代わりに話でもしてよ。今日の、あれは何だったの?大勢で賑やかだったね。

葬儀屋:あァ、あれな。……集団葬儀だ。

死神:集団葬儀?

葬儀屋:西の森で、冒険者御一行が返り討ちにあった。それの弔いだ。

死神:あー……確か西の森って、エルフの王国、だったっけ?

葬儀屋:そうだ。立ち入り禁止のな。……だが命知らずなヤツらがいたんだ。案の定、帰りの知らせがないってんで、ここ数日は遺体捜索が続いてた。だがま、東と違って物騒だからな。依頼は早々に打ち切られた。でもって集団葬儀、俺が幕引きをして“めでたしめでたし”。

死神:なるほどね。でも、なんでこんな高いところにいるの。

葬儀屋:……。献杯って知ってるか。

死神:献杯?

葬儀屋:まあそうだよな。此処らじゃやってるのは俺ぐらいのモンだろうし。屍に杯を捧げて、敬意を表すんだ。この場所からだと墓地の全体が見える。全員に捧げるには効率がいい。

死神:なんでそんなこと。

葬儀屋:葬儀屋だからだ。人を弔うのが俺の仕事だ。

死神:ふうん、殊勝だね。

葬儀屋:ま、珍しいだろうな。死者を相手に商売なんざ。

死神:そう? 意外に仲間は多いんじゃない。死霊使いネクロマンサー、闇医者、呪術師……あとは……

葬儀屋:………オルガもだな。

死神:えっ?

葬儀屋:一部の修道女シスターも、死者を相手にすることがある。この教会のは特にそうだ。俺と依頼を受けることもある。

死神:あァ、あの修道女シスターね。オルガって名前だったのか。

葬儀屋:知ってンのか?

死神:まあね。オレは彼女に知られてないだろうけど。よく祈る声が聴こえてくるよ。

葬儀屋:……祈りが?まさか。お前は神でも、死神だろ。

死神:死神でも神様だ。求道者が神に救いを求めるのは、当然の摂理だろ?

葬儀屋:死神に祈りを捧げる聖職者クレリック? ……いやどう考えてもあり得ない。

死神:ま。なんにせよ、彼女の祈りが真摯であることに間違いないよ。信仰は地域や人によってさまざまだけど、例え彼女が呪術師シャーマン死霊使いネクロマンサーだったとしても、崇拝という行為は、尊ばれるべきとオレは思うね。

葬儀屋:はあ?

死神:人が神を選ぶように、神も人を選ぶ。いずれ迎える、その時の指標になるんだ。

葬儀屋:指標?

死神:アンタも一度、神になってみれば判るさ。信仰心の高さに応えてあげたくなるんだよ。

葬儀屋:ハッ、神になるねェ。ンなのは死んでも願い下げだ。

死神:ああ無神論者だったっけ。葬儀屋のクセに面白いよね。……ま、だからオレは来たるべき時が来たら、彼女を選ぼうと思ってる。彼女の願いを叶えてあげて、そして救ってあげるんだ。

葬儀屋:……本気か?

死神:冗談を言っているように見える?

死神N:そう聞くと、シルヴェスターは瓶を煽って、黙ってしまった。教会の屋根の上。目の前には一面の夜空が広がっている。光が瞬いて、流星群が降り注ぐ。物静かな夜だった。そして不意に、シルヴェスターが口を開いた。  

葬儀屋:……なんで、わざわざあの子を選ぶんだ。祈りを捧げている奴なんて、ごまんといるだろう。

死神:……それ聞く?

葬儀屋:アァ。

死神:んじゃ話そう。……オレら死神って、魂を喰って魔力に変えてるんだけど。

葬儀屋:あァ。知ってる。魂狩りの光景は昔からよく目にしてきた。

死神:そ。魂の中には、喰えるものと喰えないものがある。喰えるのは罪咎人けがれびとのもの。喰えないのは善人のもの。罪咎けがれって、前世と現世の行いによって決まるんだ。……で。オルガはああ見えて、大きな業を背負ってる。しかも全部がこの現世で重なっているみたいなんだよ。

葬儀屋:……現世で?

死神:つまり、彼女はこの世で何度も罪を犯してるってこと。魂の味は、罪咎けがれの深さと重さで決まる。だから彼女はオレ達にとって最高の罪咎人けがれびとだ。新鮮で食べ応えのある、至極の魂……さぞかし美味いんだろうって、オレ……は……

葬儀屋:……

死神:……最初、アンタに会った時から思ってた。……急に銃向けるの、勘弁してよ。

葬儀屋:オルガを殺したら、お前を殺す。

死神:……え?

葬儀屋:あの子に手を出してみろ。俺がお前を地獄に落とす。

死神:……え?ハハッ……オレ、もう死んでるって。

葬儀屋:知るかよ。もう一度殺すだけだ。

死神:もう一度?フフ……アハハッ、ハハハハハ!

葬儀屋:なにが可笑しい。

死神:アハハッ……いやいや、死神に向かって「殺す」とか……ハハッ、「地獄に落とす」とかって言うのって……アハハ!それ、冥府の鉄板ジョークなんだよ。まさか現世で言われるなんて、……それも、生きてる人間に!……アハハッ、ハハハハッ!ダメだ、おもしろすぎ……ハハハハハハ!

葬儀屋:……。

死神:ハハハッ、アハハハハッ!アハハハハッ…………ハハ…………はあ……。笑いすぎて死ぬかと思った。

葬儀屋:……もう死んでるだろ。

◆◆◆

死神N:笑い飛ばすオレに気を削がれたのか、シルヴェスターは銃を引っ込めた。気を取り直すようにエールを煽り、次の瓶を手に取って、また煽る。献杯をするつもりだと言っていたから、何本か残っているのだろう。俺の笑い声が止んだ頃、シルヴェスターは口を開いた。過去にやった葬儀の話だった。この村に葬儀という文化を持ち込んだのは、彼自身だと言った。  

葬儀屋:前はここに、葬儀なんて慣習はなかった。最近ようやく根付いてきたな、土葬だの火葬だの、……流行りだと、樹葬ってのもあるか。手のひらに木の実を握らせて木の根っこの方に植えるんだ。村の一部に還すんだとよ。……牧歌的っつうか、なんつうか。

死神:……この村、儲からないだろ。ほかのトコより。

葬儀屋:まアなァ。でも居心地はいい。

死神:へえ?

葬儀屋:結局アルカディアに呼ばれたってことだよ。ルダスコートって知ってるか?

死神:ルダスコート?

葬儀屋:『悪い子はルダスコートに置いてけぼり』ってスラングは?

死神:初めて聞いた。

葬儀屋:……ルダスコートは、有り体に言えばリゾート都市だ。世界各国から金持ちが集まってくる。カジノ、遊園地、歓楽街……表向きは華やかだ。だがその裏じゃ、人身売買や闇取引が行われてる。おそらく本土イチ、ヤバイトコだよ。盗賊、殺し屋、闇医者に黒魔術師もウジャウジャいる。……お前みたいなのもな。

死神:どういう意味?

葬儀屋:褒めてはいない。

死神:だと思った。

葬儀屋:ハッ。とにかく、金だ。何をするにも、金が要った。逆に言えば、金さえ積めばどうにでもなる。何だってできる場所だ。騙しに盗み、人殺しだって揉み消せる。まともな精神じゃ生き残れない。だがいかんせん、金の巡りはいいモンだから外から人がやってくる。で、悪循環だ。人を金にして生きる。俺はそんな街に生まれた。

死神:ふうん?

葬儀屋:……あるとき、仲間を殺すハメになった。俺にとっては大切なヤツだった。だから丁寧に終わらせたいと思ったんだ。だがルダスコートだ。「死体は金になる」って、どこも取り合っちゃくれなかった。死神だなんて後ろ指を指された日にゃ、怒りを抱くまでもねェ、ああもうコイツらは駄目なんだと心底思ったよ。

死神:死神ねェ。

葬儀屋:売れるモンは何でも売るようなヤツらだ。情報、技術、臓器に死体………もともとは俺も一派だったが、……そいつを売って金にするなんて考えは、不思議と微塵もできなかった。仲間を捨てるか、それとも街を捨てるか?天秤にかけるまでも無いことだった。

死神:街を捨てることにしたんだ。ふうん。余程その人のことが大事だとみた。

葬儀屋:そうだよ。人は見かけによらない。だったか?

死神:嬉しいね。覚えててくれてたんだ、オレの言葉。

葬儀屋:…。話を戻すが、俺が「葬儀屋」に転身したのは、そこからだ。ルダスコートを出て海を渡り、本土に辿り着く頃には、霊が視えるようになっていた。

死神:ストップ。ちょっと展開が急すぎない?

葬儀屋:詳細は省く。

死神:何があったの。

葬儀屋:まあいろいろだ。生きてりゃいろんなことがあんだろ。

死神:だから何が。

葬儀屋:言ってもしょうがないことだ。それより、今はこの場所について話がしたい。

死神:あー…ここね。確かに変わってると思ってたんだよ。何の声も気配もしないし。

葬儀屋:ああ。俺が知ってる限りだと、墓地ってのは少なからず、死霊の声やら影やらが蠢くもんだ。生霊がさまよってる場合もある。が、ここじゃそんなのは一つもない。みんな安らかに眠ってる。見たことあるか?そんな墓地。

死神:いいや。オレも知らなかったよ。でも不思議だよね。罪咎人けがれびとだらけのアルカディア。なのにみんながみんな、未練なく死んでくなんてさ。

葬儀屋:この村まで来るようなヤツらが、潔くこの世を去るなんて、おかしいと俺も思った。…だが、今となっちゃわかる。ここに住み着くような選択肢があるヤツには、もう絶望する元気すら残っていない。

死神:うん、そうだね。ここが最果て。彼らにとっての終焉だ。

葬儀屋:ああ。だから俺は、この場所に決めた。咎めるヤツなんかも居ねェし、絶望した人間が、命からがら辿り着くような場所なんだ。勝手に守るのも勝手だろう。俺はここから離れる気は無ェ。

死神:愛だね。

葬儀屋:……は?

死神:まさしくそれは愛だと思うよ。アンタは愛に溢れた人だ、シルヴェスター。…………って、何、その顔は。

葬儀屋:…………「言葉を失ってる」んだよ。

死神:っはは。人間の向かう先は全部一緒だ。自ら死の入り口の番人になる。それは、人に対して、愛のある証拠なんじゃないかと思うけど。

葬儀屋:愛は愛でも……自己愛だな。それに俺は、……疲れただけだ。

死神:疲れたって?

葬儀屋:俺は静かに生きたいんだ。だからここに落ち着いた。誰にも荒らすような真似もさせない。お前にもな。

死神:オレにも?

葬儀屋:死者が勝手したら、生者はどうなる。すぐに気が触れちまうだろう。生者にとって、死者はいつだって脅威になるんだ。弁えろよ。

死神:……ま、そーかもねー。

葬儀屋:……なんだ、その返事は。

死神:できるなら、そうしてやりたいところだけど。オレにもノルマがあるんだよ。

葬儀屋:ノルマ?

死神:そう。来てみたらアンタがいたからビックリしたよ。人間で安心したけど。同業でも、競合にはなり得ないから。

葬儀屋:どういうことだ。

死神:どこから言ったもんかなあ。オレは今、冥府に雇われてるんだけどさ。

葬儀屋:お前………働いてたのか。

死神:一応ね。でも雇い主は神経質で厳格で……とにかく厳しい人なんだ。そろそろ依頼をこなさないと、今度はオレの命がアブなくなる。

葬儀屋:……ハア。仕事を選べよ。

死神:断れない仕事もあるだろ?

葬儀屋:なるほどな。そりゃご愁傷。

死神:でも正直面倒だし、やらなくていいことだからサボってたんだ。アンタもオレと同じだと思ってたのに……どうやらそれは、思い違いだったみたいだ。

葬儀屋:思い違い?

死神:今日、見てたんだ。アンタはちゃんと仕事してた。

葬儀屋:人の顔を差すな。

死神:顔には刺さってない。

葬儀屋:顔に指を向けるな。

死神:はは、大目に見てよ。似た者同士だと思ってた。けどアンタとオレは同類じゃない。そう思い直したんだから。

葬儀屋:……。

死神:まあしかし、こんなオレにお偉いさんも黙っちゃいない。そろそろ、特別命令プレスオーダーをくれるらしいんだ。

葬儀屋:特別命令プレスオーダー

死神:オレが受けているのは「魂狩り」って呼ばれる依頼だ。けど、それにもルールがあってね。ひとつ、直接手を下してはいけない。……魂を狩るってのは、何も殺すことじゃない。実際は死期の近い人間に近付いて、ゆっくりと準備をさせることなんだ。

葬儀屋:ただ待ってるだけってことか。

死神:そうなんだよ。これが相当時間のかかることでね……「魂を育てる」なんて言い方もされたりするけど、そんな手間は御免だよ。

葬儀屋:……っつーことは、ルールを破んのか。

死神:合法的にね。健康で、寿命の長い人間を手にかけることは、……あれ。なんて言ったか……ああ、そうそう。きそくいはん。規則違反インフラクションとみなされて、懲罰を受けることになる。だけど特別命令プレスオーダーがあれば、ルールなんて無視できる。あっという間にノルマを達成できるんだ。

葬儀屋:……そうか。お前はもうじき一気にカタをつけるつもりなんだな。

死神:そう。そしてオレがアルカディアにこだわる理由はもうひとつある。

葬儀屋:……もうひとつ?

死神:ここって、罪咎人けがれびとが集まってくるだろ?

葬儀屋:ああ。

死神:さっき言ったように、業の深い魂は美味い。

葬儀屋:つまり、ご馳走だらけってことか。

死神:そういうこと。ここは魔物と人間が共存している村だ。いいこともある一方で、悪いこともある。人間が魔物になったり、魔物が人間になったり。現世で「禁忌」と呼ばれる行為も、いともたやすく行われがちだ。

葬儀屋:……

死神:わかるだろ?集まった罪深い人間の魂が、より深い業を背負う場所。アルカディアは、狩り場として最高なんだよ。

葬儀屋:さて……今のを全部、お前の作り話として信じるか、真実として諦めるか……どーっすかなァ。

死神:ヒントをあげるよ。目の前の存在は何?

葬儀屋:……お前みてェな神のことも、まだ信じたくねェんだよ。

死神:手厳しいね。1回冥府に行って見て来てよ、そしたらオレがマトモな方だってわかるから。

葬儀屋:ハア? 悪いが俺はまだ生きてる。行ったら帰って来れなくなるだろ。

死神:そりゃ、そうだ。オレも事情がなけりゃなあ。観光地の一つもあれば話は変わってくるんだけど。

葬儀屋:ハ、冥府観光か。面白そうだな。

死神:やめた方がいいよ、行ったらタダじゃ帰されない。冥府から出るときには、何かしらを要求されるんだ。オレの場合はノルマ。それも、一朝一夕じゃ無理な量。…まあ、どうせヒマだしいいんだけどさ。ルールは厳しいし、専門用語はカタカナばっか、冗談は通じないヤツだらけ…ホンット、“恵まれた環境”だよ。

葬儀屋:……そうか。  

死神N:シルヴェスターは短くそう言うと黙ってしまった。何かを考え込むように煙草をふかして、逡巡するような溜め息とともに長く煙を吐き出した。短くなった煙草の火を靴の裏で揉み消してから、こう言った。  

葬儀屋なあ、一つ提案がある。俺がお前を手伝ってやる。

死神:それは、………どうして。

葬儀屋:依頼を終えれば、お前は冥府から解放される。オルガにも手を出さなくて済むんだろ?

死神:ああ、そうなるかな。

葬儀屋:死神は、直接人には手出しできない。なら、俺が手になればいい。そうすりゃ命令なんか待たなくても、魂狩りを行えるようになる。魂はお前、死体は俺が処理すれば何の後腐れもない。

死神:分業しようって? 面白いね。

葬儀屋:俺の腕前は知っての通りだ。

死神:ああ、覚えてるよ。それなら──

葬儀屋:だが、条件がひとつある。その間は、アルカディアで好き勝手をしないこと。オルガにももちろん駄目だ。アルカディアで魂狩りをするときは、俺が窓口になる。

死神:なんでアンタが。

葬儀屋:なんでって。…何度も言うが、俺はここの墓守と葬儀屋を、

死神:兼任してる。だったね。………いいよ、乗った。オルガのことは残念だけど、アルカディアには良質な魂が多いから。アンタを介せばいいってだけなら、それで構わないよ。

葬儀屋:オーケー。協定締結、だな。

死神:じゃあ改めて、シルヴェスター。オレの名前はギルバート。ちょっと発音してみてよ。

葬儀屋:………ギルバート。これがどうした。

死神:サーンキュー。これにて契約完了だ。

葬儀屋:……は、契約?

死神:あれ、知らない?死神とは、呼び合うことで契約できるって話。メチャクチャ簡単だよね。最初知ったときビックリしちゃった。

葬儀屋:オイ、勝手に話を進めるな。お前と契約もしない。今すぐ取り消せ。

死神:悪い話じゃないと思うよ。オレの名前を呼んでくれたら、すぐにアンタのところに飛んで来られる。魂狩りにはもってこいだろ?

葬儀屋:いい話ばかりでもないだろう。契約っつーことは、こっちにも代償があるんじゃねえのか。

死神:代償は……ない、………ことはない。

葬儀屋:あんじゃねェか。言ってみろ。

死神:魂が、オレに喰われる。

葬儀屋:……何だって?

死神:普通の人間は前世、現世、来世と続いていくけど……契約神に喰われることで、アンタの魂は完全に終わる。後にも先にも続かない。……死神とは、現世限りの魂で結ばれるんだよ。

葬儀屋:……、フッ。

死神:なんか、面白かった?

葬儀屋:いいや。それならいいと思っただけだ。

死神:へえ?

葬儀屋:もともと来世になんてハナから期待なんざしちゃいねェ。今更罪咎けがれが増えたところで、冥府行きも免れねェ。それがお前に救われるんなら損ナシだ。……ま、来世っつうのが本当に存在すればの話だが。

死神:ふうん、これだけ一緒に過ごしておいて、まだ信じてくれてないんだ。

葬儀屋:死神は……、いや。お前の存在については、………信じるしかないだろう。視えてる以上は。

死神:話については?

葬儀屋:死ねば分かることだ。それまではアルカディアに指一本触れさせねェよ。

死神:ははっ。まるで英雄ヒーローみたいだね。

葬儀屋:いいや? 英雄ヒーローは、むしろお前だな。

死神:……オレが? 誰の。

葬儀屋:俺のだろ。話ちゃんと聞いてたか?

死神:聞いてたよ。ま、アンタひとり救うぐらいなら、確かに朝飯前だけど……

葬儀屋:そういうワケだ。せっかくだしデカイ罪咎けがれでも背負ってやるよ。その代わり、俺の魂はお前に託すぜ、相棒ギルバート

死神:……わかった。アンタの働きには期待してる。安心して託してくれよ、相棒シルヴェスター。  

葬儀屋N:異郷いきょうの果てのアルカディア。静かな墓地の真ん中に一人の男が佇んでいた。安息を願う魂は、十字架のもとで静かに眠る。鳴り響く鐘の音に、人々は何を想うのか。天高てんたか月影つきかげさやかに、巨大な月が闇夜に笑う。これはそんな一人の男と、ひとつの魂の物語。   

死神N:弔い人シルヴェスター。アンタの魂、冥府の底で、腹を空かせて待ってるよ。    

(終話)

Cast・Staff

融和性アルカディア - 第8話
葬儀屋:   
死神: