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融和性アルカディア
- Anastasis -

Caption

・名前N…「ナレーション」および「地の文」としてお読みください。
・配役の関係上、セリフ量にバラつきがある場合があります。ご了承ください。

舞台設定


〈背景〉

此処は大きな時計塔がそびえ立つ、小さな村。
鬱蒼と茂る森の奥──居場所を追い出された者たちは放浪の末、不思議とこの村に辿り着く。
種族も年齢も異なるはぐれ者達が集う此処はいつしか、迷える牧人の楽園……
“アルカディア”と呼ばれるようになった。

そこにあるのは、ひとりの人間と、ひとつの魂の触れ合い。

〈配役〉♂8:♀3 

画家 - Miguel / ミゲル:♂
旅する画家。彫りが深く、色白で美麗な顔立ちに異国の出身者であることが分かる。各地を点々と回りながら、絵を描いて生計を立てている。絵画のほかボディアートの類も得意で、身体芸術の分野としてボディピアスやタトゥーなどに明るい。芸術界隈ではそこそこ名が知られているようだ。

衛兵 - Lucius / ルシウス:♂
アルカディアに滞在している遠征兵。長剣を携え、金属製の甲冑を身にまとう。鍛え抜かれた肉体が、強い自制心と高い忠誠心を物語る。信じる正義に対して一途で誠実であるだけだが、自他に厳格で融通が利かないようにも思われがち。

時計屋 - Elvin / エルヴィン:♂
アルカディアの時計塔の管理人。薄っすらと柔和な微笑みを浮かべ、誰に対しても物腰の柔らかい口調は崩れない。その実、目的のために手段を選ばない合理主義者。齢二十半ばほどだが手腕家で、市場の専門店街で時計屋を営んでいる。

機械人形 - Oswald / オズワルド:♂
アルカディアで暮らす機械人形。かなり精巧に造られているため、一見して二十歳前後の若々しく、温和な雰囲気を纏った青年しか見えない。定期的なメンテナンスを施され、ここ十数年間は老朽化せずに動き続けている。

メドゥーサ - Griselda / グリゼルダ:♀
東の森の廃神殿を棲み家としている。ローブを羽織り、常にフードを深く被っているために顔を知る者は少ない。胸元まで伸びた髪の毛先は、蛇のようにも見える。目が合った相手を石にしてしまう能力を持つ。

召喚士 - Glenn / グレン:♂
アルカディアの村外れの高原に住む男。極度の人嫌い、頑固者と称されるが、魔物医や召喚士としての信頼は厚い。作業着を兼ねたサスペンダー姿が特徴的。日に焼けた肌と伸びかけの白髪により、精悍な顔立ちが際立っている。

人魚 - Eleanor / エレノア:♀
膝下まで伸びた青緑色の長髪、鮮血を想起させる夥しい程に朱い瞳で、人間離れした印象を与える少女。言葉こそ控えめに発せされるが、その行動力には意思の強さが見える。何かにつけ、世間知らずな箱入り娘である感じは否めない。

少女 - Olga / オルガ:♀
アルカディアの教会に修道女として従事する少女。小柄で実年齢よりも幼く見られることも多いが、本人は特に気にしていない。あっけらかんとした性格で、大抵のことをすんなりと受け入れている。誰にでも平等に接するため、人間・魔物の両方から好かれやすい。

人狼 - Ricardo / リカルド:♂
アルカディアで暮らす人狼。狼の姿に自由に变化することができるが、普段は人間の姿で暮らしている。目付きの悪さと口数の少なさ、188cmの図体により、相手に威圧感を与えがち。そんな無愛想な外面とは裏腹に、情に厚い一面がある。

葬儀屋 - Sylvester / シルヴェスター:♂
右目を覆い隠す前髪から覗くのは、威圧的な視線。荒い口調に大雑把な性格が垣間見えるが、葬儀屋としての評価は高い。無造作に伸びた赤い長髪、着崩された正装の内側には、常に煙草と回転式拳銃が収まっている。

死神 - Gilbert / ギルバート:♂
首元で結われた伸ばしかけの白髪の隙間に、金色の耳飾りが揺れる。どこか飄々としており、のらりくらりとした言葉は真意を掴めない。白い作業服を着てアルカディアの墓地に現れるが、彼の姿は他者からは目視できないようだ。

第11話



少女N:異郷いきょうの果てのアルカディア。行き場を失くし、此処へ集ってくる人々は、誰よりも失うことの悲しみを知っている。その手によって、此処に明かりが灯されていく。一握りの光のもとで、ここで夜が明かされていく。これは、そんなひとつの魂と、一人の人間の物語。  

画家:こんばんは、隣、いいかしら?

衛兵:ああ。構わない。

画家:アリガト。あ、マスター、シードルひとつ。

衛兵:ああ、俺はいい。

画家:って──アンタ、よく見たらいい男。ここらへんであまり見ない顔立ちねェ。アタシはミゲルよ。

衛兵:……ルシウスだ。

画家:ルシウス。よろしくね。よく来るの?

衛兵:……そうだな。街の方へはよく出てくる。

画家:ってことは、アルカディアの人かしら。

衛兵:住んでいるといえば、そうだ。東の方と言えば、……わかるか?昔の使われなくなった家屋が放置されている、廃墟地帯があるだろう。今はそこを拠点にしている。

画家:エッ、廃墟に住んでるの?それって、いろいろ大丈夫なの?

衛兵:ああ。なんとかな。パートナーがいるんだが、お陰様で安全に暮らせている。

画家:やだ、持ちつ持たれつってヤツ?素敵じゃない。

衛兵:ハハ、ありがとう。そういう、君は?

画家:アタシは流浪のアーティスト。各地を旅して、絵を描いて回ってるの。ココには前に来たことがあったんだけど、素敵な村だったから、また戻ってきたところ。

衛兵:ほう、……旅する画家とは、興味深い。

画家:やだ、興味があるの?

衛兵:ああ。出身はエーデルシュタインでな。鉱石がよく採れる国だったから、ファッションや絵画といった文化が盛んだったんだ。

画家:エーデルシュタインはアタシも好きよ。一度行ってみたいと思ってる。だけど……かなり遠い国よね。リルエズスからは海を隔てないと行けないんじゃなかった?

衛兵:詳しいな。そうだ。もともと俺は、エーデルシュタインの衛兵だったんだ。貿易船に載ってきて数日間、アルカディアと協定を結んで働いていた。……だが貿易交渉がうまくいかず、紛争が起きて……俺の部隊は、……帰国することが叶わなかった。

画家:……っ、…そうだったの。それは、悪いことを思い出させたわね。

衛兵:いや、構わない。俺の国は魔族とはまったく縁のなかった国だった。最初こそ戸惑ったが共栄もいいものだ。今はこれでよかったんじゃないかとすら思っている。

画家:そう。吹っ切れたのね。それならアタシも飲んじゃうわ。……あ、ちょうど来たみたい。それじゃルシウス、乾杯しない?

衛兵:ああ。

画家:アタシ達の出会いに、乾杯。

衛兵:乾杯。  

画家N:たまたま立ち寄ったバーで、ひとりの男性と出会った。彫りが深く、がっしりした体つきをした男。真面目そうに見えて案外、話は合う人だった。いつの間にか話もお酒も、どんどん進んでいた。   

画家:──それでさあ、オズったら、「僕はこの家で待っています」って、言うのよ?健気じゃない!?健気すぎて、アタシ、ううっ、涙が出ちゃう。そんな男なんかのために…なんてイイ子なの!?  

衛兵:ああ、素晴らしい!大切な人を想う心こそが、強い身体を作るんだ!…しかし、アディソン、君は、毎晩毎晩、フラフラと遊びに歩いて……。俺の心配を他所に、吸血鬼というのは、みんなそうなのか!?  

画家:アタシには家族の絆ってものが、わからないけど……オズ、アタシだったらそんな男、軽くブッ飛ばして家出してるわよ!いや、一発どころじゃないわね!これはオズの分!これはアタシの分!……そしてこれは、もひとつオマケのアタシの分よ!  

(画家、シャドーボクシングを展開。)  

衛兵:もう君ひとりだけの問題じゃないんだぞ!アディソン、このことを君は、わかっているのか!俺が、どれだけ、君を、○△☓□※……!  

(衛兵、酔い潰れて呂律が回らなくなっている。)   

機械人形N:そんな風に活気あふれる、ある晩のこと。手持ちランタンの明かりだけで照らされた部屋は、ぼんやりとオレンジ色の薄い闇に包まれていた。背中の方で音がした。作業を終えたエルヴィンが、金切りバサミをデスクの上に置いたのだろう。   

時計屋:ふう。これでもういいはずだ。   

機械人形:ありがとう、エルヴィン。   

時計屋:ううん、僕の方こそありがとう。最近はもっぱら時計ばかり見ているけど、……やっぱりオズの身体を手術メンテナンスするのが一番落ち着くよ。それに、なんだか調子もいいみたいだし……しばらく経過観察で大丈夫だろう。   

機械人形:エルヴィンのおかげだよ。   

時計屋:ああ、……うん。さっき、2階に飾ってある絵を見たよ。とっても綺麗だった。   

機械人形:あ、……見て、くれたんだ。   

時計屋:……僕がつけた傷があんなふうに描かれるなんてね。……あのときは本当に焦っていた。……だけどもう、あんなことは絶対にしないよ。   

機械人形:エルヴィン。僕は君にならどんなことをされたって構わないと思ってるんだ。だって、僕は君を幸せにするために、生まれてきた機械人形アンドロイドだもの。…だから、そんな僕と一緒に生きてくれるって言ってくれて、本当に嬉しいよ。……でも……   

時計屋:……でも?   

機械人形:……本当に、よかったの?

時計屋:……大丈夫。心配要らないよ。……僕は君と一緒にいるためだけに不老不死の体になった。…君を置いていくことは、もう二度としたくないんだ。

機械人形:…うん、わかった。

時計屋:ようやく笑ってくれたね。

機械人形:…これからはずっと一緒にいられるんだね、エルヴィン。

時計屋:…うん。君の幸せが僕の幸せなんだよ、オズワルド。  

メドゥーサ:あの、すみません。通りすがったのですが、外に洗濯物が落ちて、……。エルヴィンが、二人?

時計屋:……、グリゼルダ。  

(機械人形は半裸である。)

メドゥーサ:……!!あっあの、……ご、ごめんなさい!そんなこと、見るつもりはなくて……!……わ、私のことは、お構いなく……!

時計屋:待ってください!何か、勘違いしていませんか?

メドゥーサ:……か、勘違い?

時計屋:目をよく見て、グリゼルダ。僕はこっち。オレンジ色の目の方です。

メドゥーサ:……あ……

時計屋:ふふっ。だからいつも目を見て話すようにと言っているのに。

メドゥーサ:……すみません。早とちりをしてしまって。

機械人形:……あ、あの。エルヴィン、この方は?

時計屋:ああ。紹介するよ。彼女はグリゼルダ。メドゥーサの末裔で、僕の店のお得意様。

機械人形:へえ。メドゥーサの末裔。話には聞いたことがあります。まだ、存続していたんですね。この目で見られるなんて、思ってもみませんでした。

時計屋:グリゼルダ、こっちはオズワルド。……似ているでしょう?お祖父様が僕をモデルにして造ってくれた機械人形アンドロイドなんです。

メドゥーサ:機械人形アンドロイド……

機械人形:初めまして、オズワルドです。オズって呼んでください。……さっきは、すみませんでした、あんな格好で。僕、定期的に手術メンテナンスをしてもらっているんです。

メドゥーサ:……あ……

時計屋: まったく。僕たちが「どんなこと」をしているように見えたのでしょうか?このお姫様は。

メドゥーサ:……!!

機械人形:あはは、……ええと、すみません、グリゼルダさん。洗濯物もありがとうございました。もう少し、ゆっくりしていきますか?

時計屋:ああ、そうそう。オズワルドは機械人形アンドロイドなので目を合わせても平気ですよ、グリゼルダ。

機械人形:目を合わせる?

時計屋:うん、メドゥーサは目が合った相手を、石に変える能力を持つ。……グリゼルダは純血ではないけれど、目が合った相手を石に変えてしまうことがあるんだ。ま、ある意味で一般的なメドゥーサより厄介かもしれませんね。

メドゥーサ:……。

機械人形:そういうことだったんですね。僕でよければ、いつでも話し相手になりますよ。

メドゥーサ:オズワルド……。ありがとうございます。……なんだか、優しいエルヴィンみたいですね。

機械人形:え、そうですか?ふふ、嬉しいです。

時計屋:ちょっと、どういう意味ですか、それは。

メドゥーサ:……なんでもありません。

時計屋:おや、言いたいことがあるなら、しっかり目を見ながら話すべきですよ。

メドゥーサ:……。

時計屋:まあ、こうして紹介できてよかったです。ふたりは会わせておく必要があると思っていたところなんです。

機械人形:会わせておく?

時計屋:うん。グリゼルダ、僕はオズと添い遂げるために不老不死になった。僕が刺されても死ななかった理由は彼にあるんです。

機械人形:ちょっと待って。エルヴィン、刺されたの?

時計屋:ああ、ちょっと。自分でね。ナイフ程度の刺し傷だったからたいした支障はないよ。大丈夫。

機械人形:……どうして……

時計屋:必要だったんだ、彼女を説得する理由としてね。……、グリゼルダ?

メドゥーサ:……貴方は、………言ってくれましたよね。私とともに歩んでくれると。

時計屋:ええ。言いました。貴女が望むなら、どこまでも時を共にしてあげますよ。

機械人形:……え?エルヴィン。君は……僕といるために、不老不死になったって……

時計屋:もちろん。オズは僕の半分なんだから、置いていくなんてことは絶対にしないよ。

メドゥーサ・機械人形:……エルヴィン?

時計屋:おや、何か問題でもありますか?ふたりともかけがえのない存在ということです。僕にとって。ひいては、このアルカディアにとって。欠けてはならないものなんですよ。ふたりとも等しくね。

メドゥーサ・機械人形:……。  

画家N:すっかり意気投合したアタシとルシウス。途中でお迎えがやって来て、ルシウスが担がれていった。女の子とも男の子ともつかない、痩せ型で小柄な子。やけに露出度の高い服を着て、ボディピアスを開けていたり、チョーカーをつけていたり、……少し予想外のパートナーではあったけれど、無邪気でとてもかわいい子だった。アタシもすっかり酔ってしまって、覚束ない足取りながら拠点に戻った。そして翌日。アタシはいつものように、とある屋敷の扉を叩いた。  

機械人形:はーい。……あっ、ミゲルさん!おかえりなさい!

画家:ただいま、オズ。

機械人形:待ってましたよ!もう、帰って来てたんですね!

画家:実は、昨日ね。……ちょっと飲みすぎちゃったけど。

機械人形:飲みすぎた……お酒をですか?大丈夫ですか?ちょっと、上がって……

画家:ううん。今日は、いい。

機械人形:……そうですか。

画家:あのね、オズワルド。実は今日……話が合ってきたの。

機械人形:話?

画家:……アタシと、旅に出てみない?

機械人形:え?

画家:少し考えていたんだけれどね。……やっぱり、アンタは色々な世界を見て回るべきだと思うの。…こんな家に閉じこもってばかりじゃ、もったいないわ。

機械人形:……。

画家:人生、経験したモン勝ちじゃない?永遠の命って言うんなら、今の一瞬くらい、ドーンと花咲かせてやりましょうよ!

機械人形:ミゲルさん……

画家:とは言っても、そんなに遠くまで連れていくつもりもないけどね。これからアタシ、画材道具を買い足しに隣町まで行こうと思うの。…ちょっと遠い散歩だと思って、ついてきてみない?

機械人形:……。

画家:やっぱり、ダメ、……かしら。

機械人形:いえ。……大丈夫、です。ちょうど昨日、手術メンテナンスも終えたところでしたから。当分、問題はないと思います。

画家:オズ……!

機械人形:……僕、この村から、あ、いや。この家からあんまり出たことがなくて、ご迷惑をおかけしちゃうかもしれないですけど……。マスターも僕が嬉しいことなら、きっと、いいって言ってくれると思います。それでも……いいですか?

画家:ええ、そういうことならもちろん!とびっきり楽しませてあげちゃうわ!

機械人形:ありがとうございます。……それで、あの……ひとつだけ、お願いが。

画家:えっ?なにかしら。

機械人形:僕のこと、……また描いてもらうことは、できますか?マスターに、見てもらいたいので。

画家:なんだ、そんなこと。むしろ、そのつもりでまた来たのよ。だからもちろん、……お安い御用よ!  

(間)  

死神N:そう、ここは、異郷の果てのアルカディア。救世を望む者たちの理想郷。憐れみを望む者に、憐れみを。永遠を望む者に、永遠を。贖罪を望む者に、贖罪を──  

(間)  

少女:なるほど。そういうことがあったのね。

メドゥーサ:……はい。彼は、私のために生きてくれると、一緒に歩いてくれると、言ってくれました。だから、信じてみようと思っていたんです。ですが……

少女:難しい問題ね。私もその場に居合わせたわけじゃないから、確かなことは言えないけど……貴女は、彼のことを信じたい?

メドゥーサ:……え?……信じたいです。信じたいけれど、……信じられないかも、しれなくて。

少女:ごめんなさい、グリゼルダ。あなたには、彼をどうすることもできないの。あなたにできることは、あなた自身をどうにかしてあげることだけ。

メドゥーサ:……

少女:信じられないならそれでいいわ。それがあなたの心ならね。…だけど、信じたいと想うなら。彼を信じたいと望むなら、信じてあげなさい。

メドゥーサ:信じてあげる……

少女:彼にほかを見るなと言ったってしょうがないわ。きっと変わらないでしょう。だって、彼自身の口で「どちらも大切」。そう言ったのでしょう?なら、それが彼の答えだから。

メドゥーサ:……

少女:それを聞いてあなたがどうしてあげるかなの。だって、あなたも彼の大切な存在には変わりないんでしょう?

メドゥーサ:……オルガさん……

少女:あなたの顔が見られなくて残念ね。でも、泣かなくて大丈夫。……彼はあなたのことを想っているわ。そしてあなたも、彼のことを想っている。それは揺るぎない真実なんだから。

メドゥーサ:……ありがとうございます。……ごめんなさい、いつも、相談に乗ってもらっていて。

少女:いいのよ。それに、グリゼルダの悩みはなんか、恋愛相談っぽくてかわいいと思う。

メドゥーサ:れっ恋愛だなんて……!

少女:ふふ。……最近ね、この教会にも、よく人が来るようになったんだ。……ほら、噂をすれば。

葬儀屋:ういーす。今平気か?

少女:お疲れ様、シルヴェスター。

葬儀屋:お疲れ……悪ィ。取り込み中だったか。

メドゥーサ:ああ、いえ。もう終わるところでしたので大丈夫です。私はこれで。

葬儀屋:ん?懺悔でもしてたのか?

少女:懺悔?どちらかといえば、恋する乙女の相談ね。

メドゥーサ:オルガさん!

葬儀屋:はァン?にしては、それ、深く被ってンね。お尋ねモンかと思ったよ。

少女:相変わらずデリカシーないわね。……グリゼルダは、メドゥーサの子孫だから。私が石にならないようにフードを被ってくれているの。

葬儀屋:あァ、メドゥーサねェ。それって、片目でもダメなの?

メドゥーサ:え?

葬儀屋:俺、片目ないんだよね。ほら。

少女:うわっ、見せなくていいよ。グリゼルダ、ごめんね、気味悪いもの見せちゃって。……シル、逆に気を遣わせてるんだから少しは悪びれたらどう?

葬儀屋:ッハハ。その初々しい反応、むしろ新鮮だな。もっと見るか?

メドゥーサ:い、いえ……。

少女:こらシルヴェスター。……というか、私も驚き。ただオシャレで前髪を伸ばしてるんじゃなかったのね。

葬儀屋:ンなワケねーだろ。

メドゥーサ:あの……そのお怪我は、……どうしたんですか?

葬儀屋:これはなア、ま、昔ちょっとヤンチャしててよ。そンときにやったんだ。銃弾が貫通したから、摘出せざるを得なかった。

メドゥーサ:……。お大事に。

葬儀屋:もう傷は塞がってるし、幻痛もそんなになくなったよ。ま、たまーに痛むことはあるけどなア。

少女:……ところで。何か用事があって来たんじゃないの?

葬儀屋:あ、そうそう。明日の葬儀のことについてなんだが、……あア、悪ィ、グリゼルダ。ちょっと外してもらっていいか?

メドゥーサ:あ……はい、すみません。……では、オルガさん。失礼します。

葬儀屋:……、オルガ。俺を、許せ。

少女:──え?  

(突然、銃声が鳴り響く。)  

人狼:!

メドゥーサ:オルガさんっ……!

オルガ:……え………?  

(葬儀屋、踵を返す。)  

人狼:ッぐ……ッ!

少女:……どうして…?

(人狼、血を流して床に倒れている。)

メドゥーサ:オルガさん!お怪我はなかったですか!?

少女:……、ひと、おおかみさん……?

メドゥーサ:ひ、ひと…?…おおかみ?……っ、血が……!大変、わ、私、人を呼んできますっ! 

少女:ひとおおかみさんっ、ひとおおかみさんっ!

人狼:……オ、……ルガ………ッ、ぐふッ……!

少女:……、どうして……?……死んじゃ、死んじゃ嫌だよ!ひとおおかみさん!

人狼:ッ……俺……は、だいじょ……ぶ…だ……

少女:嫌だ!嫌だよ!!いやだよ!ねえ、リカルド!!私を置いていかないで!!

人狼:……オルガ、……ッ、くっ……

少女:なに、…わらって……

人狼:……アンタが、……オレを…名前で呼んでくれる……なら、……、……悪くない……

少女:なに、言ってるの……?

人狼:……アンタは、……オレを救って……くれたんだ、ッ……オルガ……

少女:やだ、……いやだよ……!

人狼:……アンタは、オレの居場所…だ……から、今度は、オレがアンタの、ことを………

少女:………、リカルド……?

人狼:………

少女:リカルドォォォーーーー!!!  

(間)  

人狼N:異郷いきょうの果てのアルカディア。行き場を失くし、此処へ集ってくる人々は、誰よりも失うことの悲しみを知っている。その手によって、此処に明かりが灯されていく。一握りの光のもとで、ここで夜が明かされていく。これは、そんなひとつの魂と、一人の人間の物語。  

少女:リカルド、リカルド!いやだ!死なないで!ねえ、リカルド!!

メドゥーサ:…っはあっ……!オルガさん、あのっ……お医者さんをっ、呼んできましたっ……!

召喚士:リカルド!!

人狼:……

召喚士:……ックソ……ッ、完全に狼変化ろうへんげのまま膠着してやがる。出血も思っていた以上にヒドいな……。こりゃちったぁ、厄介かもしれん。おいグリゼルダ、ちょっと手伝ってくれ!

メドゥーサ:はい!

召喚士:エレノア、悪ィ。オルガについててやってくんねェか!

人魚:わかりました。オルガさん、こちらです!

少女:……ッ……、やだよ……ッ!リカルド……リカルド、……貴方まで、……私を独りにしないで……!  

(間)  

人狼N:俺は、アンタに救われた。……だから。これが贖罪になるなら、俺は受け入れるよ。アンタは俺にとって、確かに救世主だったんだ。  

(終話)

Cast・Staff

融和性アルカディア - 第11話
画家:   
衛兵:   
時計屋:   
機械人形:   
メドゥーサ:   
召喚士:   
人魚:   
少女:   
人狼 :   
葬儀屋 :   
死神: