はぐれ人狼:ねえ、はやくー!次はリカルドの番だよー!
人狼:オルガ!コイツ!ちっとも言うことを聞かない!
少女N:初めての子守に、ひとおおかみさんは判りやすく苦戦していた。イヴもイヴで、素直な反応を見せたかと思えば、次の瞬間にへそを曲げたりする。彼はそれに手を焼いて、たびたび私にヘルプを求めた。しかし一週間も経つ頃には、喧嘩するほど仲がいい。そんなやり取りに落ち着いていた。次の日。昼食の準備の最中に、ひとおおかみさんは一人で厨房に姿を現した。
少女:ひとおおかみさん。…あれ、イヴは?
人狼:絵を描いてるよ。集中してるみたいだったから、そっとしてる。
少女:そう。
人狼:今いいか?イヴのことで、話がある。
少女:……ええ。料理しながらでもいい?
人狼:ああ、もちろん、そんなに構えなくていい。オルガはアイツから話はどこまで聞いてる?
少女:ええと……よく、ご飯は美味しかったって言ってくれるわね。それ以外のことは、特に何も。
人狼:そうか。……じゃあ、俺から話すが……どうやらイヴは、サーカスに所属してたみたいなんだ。
少女:サーカス?
人狼:数年前に、森から街に下りてきたときに、人攫いにあって、無理やり。
少女:……そうだったの。
人狼:どれぐらいやってたかは判らないが……人狼として身体能力が高かったから、はじめから割とやれてたみたいだ。あの歳で人間の擬態も完璧なのは、訓練のお陰だと思う。無銭飲食はたまたま持ち合わせがなくて、逃げれば勝てると思ったらしい。…アイツらしいっつうか。
少女:……そうだったのね。あのときオレンジを盗まれたのが私でよかったわ。
人狼:はぁ……
少女:?
人狼:つくづく思うが、アンタって本当お人好しだよな。
少女:
人狼:そうだったな。…昼飯ができたなら、イヴを呼んでくる。
少女:ええ、お願い。
(間)
はぐれ人狼:おかわり!
人狼:……おい、イヴ。
はぐれ人狼:え、何?
人狼:それ何杯目だ?
はぐれ人狼:えーっと……4杯目?
人狼:食べすぎじゃねえのか。
はぐれ人狼:だって美味しいよ、この冷製スープ。美味しいものっていくらでも食べたくならない?
人狼:それはそうだが…
はぐれ人狼:リカルドが食べないなら、代わりに食べてあげるよ。
人狼:食べないとは言ってないだろ。
はぐれ人狼:…リカルドって人狼のくせにあんまり食べないよね。
人狼:お前が食べすぎなんだよ。それぐらいでやめにしとけ。
はぐれ人狼:残すほうがもったいないよ。オルガ、おかわり!リカルドの分もちょうだい!
人狼:勝手に決めるな。…オルガ、俺の分は俺にくれ。
少女:ふたりともおかわりね。……もしかして、張り合ってるの?
はぐれ人狼(同時):そうだよ。
人狼(同時):違う。
少女:……やっぱり二人って、似てるわよね。
はぐれ人狼(同時):そうかな?
人狼(同時):どこが。
少女:ふふっ。そういうところが。どうぞゆっくり召し上がれ。
(間)
はぐれ人狼:はーお腹いっぱい。オルガの料理なら無限にいけちゃうよね。
人狼:…デザートまでよく食うな、お前は。
はぐれ人狼:そのぶん動くから大丈夫!……あ、そうだ、忘れないうちに。これあげる。
人狼:? 何だ、この紙。
はぐれ人狼:さっき、リカルドとオルガのことを描いたんだ。あとで見てみて。
人狼:今、開けていいか?
はぐれ人狼:今はダメ。恥ずかしいから。
人狼:へえ、恥ずかしい?
はぐれ人狼:あ。もう、ダメだって!
少女:ご飯を食べ終えた後、ふたりのやり取りに目を細めながら、私は先に席を立った。厨房を出て、菜園へ向かっているその時だった。大きな音がして、教会の扉が勢いよく開いた。その衝撃を真正面に食らった私は、バランスを崩して、床に強く身体を打った。
人狼:オルガ!大丈夫か?ケガは?
少女:……大丈夫。背中を強く打っただけ。それより、あの人達を。
人狼:あの人達?
少女:……見て。
人狼N:開け放された扉の前に、二匹の狼が立っていた。どちらも見上げるほどに大きく、俺は二匹に見下ろされる形になる。彼女と、この場所が危険だった。守らなければならないと、強く思った。
人狼:オルガ、下がってろ!
少女N:過剰に反応した彼の身体が徐々に大きくなっていき、赤毛を
母狼:居るでしょう。私たちの子どもがここに。
父狼:子どもを返せ。
少女:あの狼は、きっとイヴのご両親ね。匂いを辿って、取り返しに来たんでしょう。
母狼:そう、ようやく見つけた私たちの子ども。早く返しなさい。
少女:今の、聴こえてたの?
母狼:当たり前よ。人狼の能力も甘く見られたものだわね。
父狼:しょうがない、所詮愚かな人間だ。……しかし、だからこそ我々は許せない。穢らわしい人間どもが、私たちの子どもに手を出すなんて。
少女:いいえ、彼女を攫ったのは私達じゃない。むしろ保護させてもらってたの。
父狼:保護だと? はっ、そんな言葉、信じられると思うか。
母狼:御託は結構。さっさと返しなさい。さもなくばお前を噛み千切ってやるのが早いか──
はぐれ人狼:待って、本当だよ。オルガの言ってることは全部本当。
少女:イヴ……
父狼:! やはり……やはり此処に居たか。随分と捜したんだぞ。
母狼:ああ、無事だったのね……見ないうちに大きくなって……
はぐれ人狼:……どうしてここがわかったの。
母狼:当たり前じゃない。貴女は私たちの大事な娘なのよ。
父狼:なあ、どれだけ心配を掛けたと思ってるんだ。……早く、こちらへ来なさい。
はぐれ人狼:……。
少女:行っていいのよ。
父狼:どうしたんだ。さっさと来ないか。
母狼:もう
人狼:……なあ、ソイツのことで、アンタ達に言っておきたいことがある。
父狼:なんだね君は、親子の再会に水を差すとは。
母狼:貴方。彼は人狼よ。少しは話を聞いてあげましょう。
人狼:アンタ達の心労は拝察するよ。子どもがいなくなった。親としてさぞかしつらかっただろう。…だがコイツが今、森に帰りたがってるとは限らない。
父狼:何を言っているんだ。私たちは人狼だ。そう思って当然だろう。
人狼:そうだな、人狼は森で暮らす。それが当たり前だ。……だがコイツは、アンタ達とはぐれてから、ずっと人の姿で過ごしていたんだ。人間として生きていた。それが何を意味するかわかるだろ?
母狼:何が言いたいの?
人狼:森に帰るということは、狼の姿に戻るということだ。コイツは……イヴは、もう人の姿が染みついている。ずっと森で暮らしてきたアンタ達でも、…いや、だからこそ判るはずだ。そんなに長い間、人の姿でいたら、狼の暮らしに戻ることが簡単じゃないことくらい、想像できるだろ?
母狼:なんてことなの……
父狼:……。君の言うことも一理ある。だが、娘は絶対に連れて行く。さあ、ぐずぐずしていないでさっさと来い。
人狼:イヴ。アンタが人の姿で、サーカス団にいたのは、どれぐらいなんだ。
はぐれ人狼:……6年だよ。
人狼:それは身体が適応するには充分な時間だろ。それなのに、強制的に狼の生活に戻せると思うのか。
はぐれ人狼:ねえ、リカルド。もういいよ。何を話したってきっと…
人狼:いや、無理をしてもお前がつらくなるだけだ。ちゃんと話してわかってもらわないといけない。
はぐれ人狼:……もう、いいって。どうせ話しても……
人狼:イヴ。俺はアンタと同じなんだよ。だからアンタの気持ちがわかる。
はぐれ人狼:……!
人狼:俺は…森で親をなくしてから、街で、人の手で育てられてきた。だから人の姿でいるほうが、もう馴染んでる。だが、それでも…時折、本能的な衝動が抑えられなくなることもある。俺は、それを心配しているんだ。
はぐれ人狼:……。
人狼:人間として生きるのか、狼として生きるのか。一人で抱えるには、あまりにも複雑すぎる葛藤だ。まあイヴは俺よりもずっと器用だから、心配はいらないのかもしれないが…
はぐれ人狼:リカルド…
人狼:俺が言いたいのは、コイツが森に戻ったところで、以前のような暮らしができる保証はないってことだ。人間の姿に戻りたいと思いながら、狼として生きる。それはコイツによって強い負担になるだろう。だから例えばだが、少しずつ、時間をかけてっつう方法も──
母狼:何言ってるの?この子は私たちの大切な愛娘よ。また置き去りになんて絶対にできるわけがないでしょう。
父狼:君の境遇には、同じ人狼として気の毒に思う。だがその子は、私たちの大切な子どもだ。今すぐにでも連れて帰るぞ。
母狼:私たちは、この子を守るためなら何だってするわ。子どもを一人にしてしまった親の気持ちは、若い貴方には、まだわからないかもしれないけれど。
人狼:……。
父狼:さあほら、いつまでそうしているつもりだ。一緒に、安全な森に帰ろう。
少女:待って。その子を本当に大切にしているのなら、判るはずよ。
母狼:何を──…
少女:この子がいま何を求めているのか。ちゃんと聞いてあげて。
はぐれ人狼:っ……
少女:貴方達に話を聞いてほしがってるように、私には見える。…少しでいいの。話を聞いてあげてくれないかしら。
はぐれ人狼:オルガ…
少女:大丈夫。貴女は愛されているわ。本心を打ち明けても、きっと判ってもらえるはずよ。貴方が何を考えてるのか。人として、狼として、どちらで生きたいと思っているのか。…話してみて。
はぐれ人狼:……わかった。父さん、母さん。…聞いてくれる?わたしの話。
母狼・父狼:……。
はぐれ人狼:「沈黙」は肯定の証、だっけ。……。…あの…さ、…覚えてる、よね。…6年前のあの日。わたしの、6歳の誕生日だった。初めて街に連れていってもらったとき、小さかったわたしは言いつけを破って、狼変化を解いてしまった。市場は、人で溢れてて……そこから、父さん達とはぐれてしまった。
母狼:ええ、覚えてるわ。あのときの衝撃は今でも忘れない。
父狼:ああ。本当に目を離すんじゃなかった。
はぐれ人狼:…そう。そして、わたしは人攫いに遭ったんだ。……まさかわたしも、びっくりしたよ。父さんと母さんが待ってるって言われてついていったら、知らない場所だった。あっという間に檻の中に入れられてさ。
母狼:っ……
はぐれ人狼:それからは、わけがわからなかった。サーカス団の一員にさせられて、言われるままに芸を身につけた。……でも、さすがは人狼だよね。わりとすんなり順応できてさ、出来が良いって褒められたこともあったんだ。
父狼:そんなこと……!
はぐれ人狼:怒らないでよ。わたしだって褒められて、誇らしかったんだ。これが人狼の実力だってね。……まあ、それがわたしの性格なのかはわからないけど、身体を動かすのは向いてるみたいだった。高跳びに二足歩行、人語だって習得したし、人狼変化だって見ての通り完璧にこなせるようになったんだ。
人狼:イヴ。
はぐれ人狼:うん。わかってる。……正直、わたしはもう帰れないんだと思った。毎日毎日、お稽古と派手な演目があってさ。一日の終わりには頭がくらくらして、どんどん森にいたときの記憶も薄れていった。でも……でもね、父さんと母さんのことを忘れたことは、一日もなかったんだ。
父狼:……。
はぐれ人狼:心配も迷惑もかけて、……見放されて当然だと思ってたよ。だって、約束を破って攫われて、人間としてサーカスに順応してさ、すごい自分勝手なんだよ、わたしは。……だから、一生、サーカス団の一員として生きようって思ってたんだ。ふたりとの約束を破ったわたしがいけなかったんだって、そう思い込んで。
少女:……。
はぐれ人狼:そう思ってたのに。……さっきも、ふたりがずっと捜してくれてたなんて、思わなかった。だって、6年だよ?その間、ずっと捜してくれたなんて……
父狼:何を馬鹿なことを言っているんだ。お前は私たちの大事な子どもだ。
母狼:ずっと心配していたのよ。貴女に会える日を、心から望んでいたわ。
はぐれ人狼:……。そうみたいだね。信じられない。……正直、どうしたらいいかわかってない。嬉しくて、戸惑ってるんだと、思う。……わたしは、人間として生きる覚悟を決めていたつもりだった。…だけど、二人に帰って来いって言われて、…帰りたいって思った。人の姿に、慣れちゃってはいるんだけどさ。
母狼:貴女はこれから、ずっと……
はぐれ人狼:でもね!…見て。こんなふうにすれば…
父狼・母狼:!
はぐれ人狼:耳と尻尾を生やして、顔だって狼に見えるような変化もできるんだ。こうすれば…人にも、狼みたいにも見えるでしょ?
母狼:──…!
父狼:……お前は、人として、狼として、どちらで生きたいんだ。
はぐれ人狼:どっちも、かな。わたし、「一人」の「狼」として生きていきたい。
父狼:…わかった。お前の意思を尊重しよう。それでいいよな。
母狼:ええ。この子が帰ってきてくれるなら、それ以上は何も望まないわ。
はぐれ人狼:よかった。人の街もね、案外捨てたもんじゃないよ。父さんと母さんが知らないこと、これからいっぱい教えてあげるね。
母狼:まったくこの子ったら……。
はぐれ人狼:リカルド、ありがとう。わたしのために話してくれて。
人狼:……別に、アンタのためにしたわけじゃない。あのままだったら寝覚めが悪かったからな。
はぐれ人狼:ははっ。相変わらず、素直じゃないなあ。
人狼:放っとけ。
少女:イヴ、よかったわ。これでもとの場所に帰ることができるのね。
はぐれ人狼:うん、オルガ、ありがとう。ふたりに話すきっかけをくれて。
少女:ううん。
はぐれ人狼:最高だね。オルガ達みたいな
少女:え?
人狼:
はぐれ人狼:今までほかに見えるって人を知らないから、わたしの目がイイのかな。でも、気のせいじゃないと思う。ふたりでいるところを見るとね、お互いの
父狼:おい、いつまで待たせるんだ。
母狼:帰るわよ。
はぐれ人狼:あ、うん。ごめん、もう行かなきゃ。オルガ、リカルド。ありがとう。またね。
少女:ええ。元気でね。
人狼:──イヴ。
はぐれ人狼:……ん?
人狼:あんまり、食べすぎるなよ。
はぐれ人狼:あはは、わかってる。…リカルドこそ、オルガを食べたりしないでね。
少女:えっ?
人狼:何言ってるんだ。早く行けよ。
はぐれ人狼:はあい。それじゃあまたね、二人とも。
(間)
少女N:隣を見上げると、ひとおおかみさんはいつの間にか狼の姿ではなくなっていた。
少女:ひとおおかみさん……私のことを食べたいと思ってるの?
人狼:んなわけないだろ。アイツの言葉を真に受けるなよ。
少女:私は貴方に……
人狼:……え?
少女:ううん。何でもない。
人狼:……どうした?
少女:何でもないわ。私たちも、戻りましょう。
人狼:……ああ。
少女N:貴方に食べられるなら、どんなに幸せなことだろう。この命を終えるなら、ほかでもない貴方の腕に、抱かれるように眠りたい。こんなこと、彼に言えるはずがなかった。もし告げてしまったなら、貴方はどんな顔をするだろう。困るだろうか。呆れるだろうか。私を、食べてくれるだろうか。…それとも、一緒に生きようと、言ってくれるだろうか?
◆◆◆
少女N:その晩、夕食を済ませたあと、私たちは食堂の椅子に腰掛けていた。燭台に刺さったロウソクの灯りが、室内をぼんやりと照らし出している。大窓からは広く高い紺色の夜空が見えて、遥か彼方には散り散りに星が煌めいていた。
人狼:まるで、自分自身を見てるみたいだった。
少女:イヴのこと?
人狼:ああ。……人狼の生態系については、前に話した通りなんだが。
少女:ええ。
人狼:アイツら……イヴの親が言っていたことは別に間違いじゃない。人狼は森で生まれて、森で暮らす。それが、一般的な生き方だからだ。だが……たまに俺やイヴのように、人間として街で暮らした時間の方が長い、そういう個体もいる。満月の夜の衝動さえ薄れたが、今だって、俺はたまに森に出かけることもある。
少女:そうみたいね。貴方が深夜に抜け出すことは、最近は少なくなったみたいだけど。
人狼:…知ってたのか。
少女:ええ、知ってたわ。
人狼:教会に住むようになってから頻度は減ってきてるんだ。……大目に見てくれ。
少女:ええ、もちろん。
人狼:……助かる。俺は親をなくしてから、独りだったが……あの子には、帰る場所がある。人の姿であっても、狼の姿であっても、迎えてくれる親がいる。同じ場所に帰れるということは、人狼にとって何よりも安心することなんだ。だから、……オルガには、感謝してる。
少女:……。
人狼:アンタが俺に居場所を与えてくれた。そのことを、今でもありがたく思ってるよ。
少女:どういたしまして。貴方まで森に帰りたいって言い始めたらどうしようかと思った。
人狼:言うわけないだろ。
少女:言うわけない?
人狼:だって……
少女:……。だって?
人狼:……何でもない。そういえば、アイツが女だってこと、オルガは知ってたのか?
少女:ええ、途中から。
人狼:途中から?
少女:食堂で、イヴが私を支えてくれたときに。
人狼:……結構序盤だな。
少女:あのとき、ひとおおかみさん、何か言いかけてなかった?
人狼:いや。近づきすぎなんじゃないかと思ったんだが、……俺が言及するのもおかしいだろ。
少女:ああ、心配してくれてたのね。
人狼:杞憂だったみたいだけどな。
少女:ひとおおかみさんは、いつイヴが女の子だって気づいたの?
人狼:……さっき、アイツが自分のことを「わたし」って言ったとき。まさかと思った。
少女:でも、貴方たち。一緒にお風呂に入ってなかった?
人狼:ああ、
少女:あら、何か落ちたわよ。
人狼:ああ、それ、さっきイヴに渡されたんだ。俺たちの絵を描いたって。
少女:へえ。彼女が。開けてみましょう。……わぁ。すごくキレイ。
人狼:なんか書いてあるぞ。P……Phl…
少女:あの子、器用だと思ってはいたけど。絵も描けるのね。
人狼:こんな特技まで持ってやがったとはな。……でも俺とオルガを描いたって言っていた。渡す手紙を間違えたのか?
少女:ううん…裏にはオルガ、リカルドへって書いてあるわ。……でも、これもキレイで素敵な絵じゃない。せっかくだし、明日食堂にでも飾りましょう。
人狼:ああ。じゃあ、明日は早起きするよ。
少女:ひとおおかみさんが?どうして?
人狼:え?額縁とかフレームとか、必要だろ。オルガが朝礼を終えるまでに買いに行ってくる。
少女:あ、ああ…。…ありがとう。
人狼:……オルガ。
少女:……何?
人狼:アンタはいつも、何事も一人で済ませようとする。俺が居ることにまだ慣れないか。
少女:……。
人狼:どうしたらいい?
少女:え?
人狼:どうしたら俺は、アンタの傍にいられる?
少女:何言ってるの。いつも傍にいてくれるじゃない。
人狼:違う。そういう話じゃなくて。
少女:ひとおおかみさんの優しさは、わかってるわよ。
人狼:いや、わかってない。
少女:わかってない?
人狼:ああ、わかってない。俺は優しいわけじゃない。
少女:……どういうこと?ひとおおかみさんは優しいわよ。とっても。
人狼:違う。……アンタが、俺をそうさせてるんだ。
少女:私が?
人狼:ほら、わかってないだろ。
少女:でも、…知ってるわ。
人狼:何を。
少女:ひとおおかみさんといたら、…安心する、ってこと。
人狼:ッ…
少女:ひとおおかみさんがいてくれて、助かってる。私だって感謝してるの。……どうやら、ひとおおかみさんは知らなかったみたいだけど。
人狼:……知るわけないだろ。そんな風に思ってたのか。
少女:ええ。前とは、何かが違う気がするの。うまく言えないけど…。でもそれは、確かにひとおおかみさんが居てくれてるお陰なの。…だから、これからも、頼りにしてもいい?
人狼:……
少女:何も…言ってくれないのね。
人狼:……。「沈黙」は肯定の証、だろ。
少女:そうね。…よかった。
人狼N:俺にはまだ、彼女の
(間)
少女N:翌日、朝礼を終えると、買い物を済ませたひとおおかみさんが、戻ってきていた。イヴの絵はスタンド付きの額縁に入れられて、食堂のテーブルの上に飾られることになった。
少女:その位置で見える?
人狼:ああ。
少女:ふふっ。
人狼:? 何だ。
少女:ひとおおかみさん、嬉しそう。
人狼:な……!……。アイツ、最後まで生意気なヤツだな。
少女:素直に寂しいって言えばいいのに。
人狼:……そうだな、寂しいよ。遠くに行っても、元気でいてくれてることを願う。
少女:ふふっ。貴方もようやく
人狼:どういう意味だよ。
少女:意外にひとおおかみさんはお人好しってこと。つくづく、人は見かけによらないものよね。
人狼:そうだな、目に見えるものがすべてじゃない。だが、見えないものを証明するのは難しい。だから「そこに在る」と、信じる者に見えるのである。
少女:……え?
人狼:アンタの受け売り。この前、夕礼で言ってただろ。
少女:あら…しっかり覚えててくれてるのね。説教のしがいがあるってものだわ。
人狼:お陰様で。明日はどんな話が聞けるんだろうな。
少女:…もしかして、楽しみにしてくれてるの?私の話。
人狼:当然だろ。
少女:……当然?
人狼:ああ。知らなかったか?
少女:そんなの、知るわけないじゃない。ただ聞いてくれてるものだとばっかり……
人狼:そうか。…アンタの説教、楽しみにしててもいいだろ?
少女:……ふふっ。「沈黙」で返してもいい?
人狼:駄目だ。…黙られたら、俺がアンタと話せないだろ。
少女N:彼の言葉に小さく笑うと、彼も遅れて小さく笑った。私の影を撫でていく彼との些細な日常は、陽だまりみたいに暖かい。貴方と過ごすこの日々に、望みを抱いていいのなら。終わることなくどこまでも、ずっと続けていけばいい。
はぐれ人狼N:彼女が描いた一枚の絵は、飾り気のない一輪の花。この先も枯れることなく咲き続けていく、純白の、素朴で可憐な
(終話)
融和性アルカディア外伝 - フロックスのたより
少女:
人狼:
はぐれ人狼:
店主:
父狼:
母狼: