※学パロ



ああ。早く帰りたいのにどうしてこんなことになっているんだっけ。
学校を出て少ししてから忘れ物をしていることに気付いた。いつもならまぁいっかで済ませるところだけど、最悪なことに明日提出の課題を忘れていたのだ。これはまずいとわたしは学校へ引き返した。まだ学校からそんなに離れてなくてよかった〜なんて思っていたのも数十分前。
教室内にはまだ数人誰かが残っていて、何やら楽しげな声が聞こえてきていた。ほうほう、放課後トークですか、いいですねぇ。どうやら男子ばかりらしい、ギャハハという笑い声に下ネタでも話してんのかな、と女子らしからぬ考えを抱いてしまった。
そう、全てはあと数歩で教室だというまさに計ったかのような絶妙なタイミングで事件が起きた。


「みょうじって結構いいよなぁ」


ピタリと。それはもうピタリと足が止まった。
……みょうじ?みょうじって…わたし?えーっと…ああでもそういや、学年でもう一人いたな!そうかそうか、みょうじくんのことか。何がいいんだろう?頭?運動神経?それにしても自分の名前を出されるってのはドキッとするもんだな〜…。


「あー分かる。確かに結構いい。」
「だろ?まぁ別に好きってわけじゃねーんだけど、告られたら余裕で付き合うわ。」
「いい奴だしなぁみょうじ。顔もまぁまぁ可愛い方だし。」
「ああやべ、何か気になってきたー!彼氏とかいんのかな?」


……わたしだ〜!!!みょうじくん男だよそんなわけない〜!!わたしだ〜!絶対にわたしだ〜!!
あまりの驚きと恥ずかしさに顔が熱くなってきた。絶対今わたし顔赤い。え、マジで。マジで。そんなふうに思われてたのわたし…。や、マイナスなイメージじゃないしむしろ、か、可愛いとかいい奴とか…異性からそう言われるなんてとても光栄なことなのかもしれない。ちょっとにやけそう。
忘れ物したのはこの為か、神様が仕組んでくれたのか…!とほんの少し調子に乗ってみる。がしかし、教室内に男子がいる限りわたしは忘れ物を回収することができない。イコール帰れない。
そりゃないぜ神様…。
なんて思いながらも、ちゃっかり上機嫌なわたし。いや〜だって嬉しいし。
顔を赤くしてニヤニヤしているわたしは多分ただの不審者に見えるだろう。それでも教室内の会話に耳を傾け続けるわたしは何というか。…そんなもんでしょう?可愛いなんて…可愛いなんて…まぁまぁって言われたけど。そんでも悪い気しない!うん!


「なぁ、沖田もそう思うだろ?」


ニヤニヤニヤニヤとしていたところで突然聞こえたその名に一層胸が高鳴った。お、沖田くん…?!
まさか沖田くんがいるとは思わなかった。クラス、いや学年…いや、学校屈指のイケメンである沖田くんは、わたしがひそかに思いを寄せている相手である。一目惚れから始まって、あまり話したことはないけどあの物腰の柔らかさと眩しい笑顔に何度惚れ直したか分からない。
そんな沖田くんはもちろんモテる。これでもかってくらいモテる。それなのにどこか飄々としていて恋愛ごとになんて興味がなさそうな沖田くんにアピールをしようなんて一度も思ったことがない。ほら、結果分かりきってるようなもんだし…。
だけどわたしは、正直期待した。今の話を聞いていて期待するなと言う方が無理な話だ。もしかしたら沖田くんも、って。沖田くんもわたしのこと、そういうふうに思ってくれてるんじゃないかって。馬鹿みたいに、期待してしまった。


「あー…みょうじ?」


…のが、間違いだった。


「あれはねェだろ」


ドクン、と。今度は嫌な音を立てる心臓につい胸を押さえた。
…え、ちょ、待っ。
聞こえてきた言葉に目の前が真っ暗になるのを感じて、わたしはやっと気付いた。…あれ、わたし今、間接的にフラれた…?ってことになるよね。え、待ってよ。
もちろんそれが言葉になることはない。「は?マジで?!」と驚きの声をあげたクラスメートの一人に何でこいつが沖田くんじゃないんだろうとか意味の分からないことを考えてしまった。


「みょうじだろ?あれはねェな」
「やっぱ顔がいい奴は言うことが違うわ…」
「はァ?だってお前ら、考えてもみろィ。確かに顔は悪くねェが問題は中身でさァ。」
「中身?いい奴じゃん普通に」
「どこが。まずめちゃくちゃガサツだろィみょうじ。こないだ教室のドア足で開けてんの見たぜィ俺。」
「そんくらいならまだ許せるだろ…」
「それだけじゃねェ。掃除も適当で下手くそだし、調理実習んときなんか料理できねェ女子代表みたいな感じ?そりゃもうひどかったんでィ。あと、結構頭悪ィ。油断してるときはすげェ大口開けて笑う。」
「……マジか」


うわうわうわうわ。何かもう…泣きそうなんですけど。
思いを寄せている相手にここまで悪口を言われると悟りを開けそうなレベルでショックだ。ショックというよりか鈍器で頭を殴られたみたいな衝撃。まぁ殴られたことないんだけど、そんな感じ。
…そりゃまぁ沖田くんに好かれてる〜とか可愛いと思ってくれてる〜とかそんな厚かましい図々しいことは言わないよ。期待したのは本当だけど、それはわたしが馬鹿だったなで終わる。でも…でも。
じんわりと目に温かいものが浮かんできた。教室の壁を背にしてその場に座り込む。…上げて落とすことないじゃんか。ショックも倍になるわ。
こうやって少しでもマシな方に気持ちを持っていっておかないとどうにかなってしまいそうだった。恥ずかしさと苦しさでここにいたくないのに動けない。叫びたい。さっきとは別の意味で顔熱いしああもう消えたい。


「あと極めつけにすっげェ食う。みょうじは大食いでィ。な、お前らの言う女子らしさの欠片もねーだろィ?」
「確かに…」


いいじゃん食べたって!!胃がでかいんだよ健康なんだよそれが普通なんだよ仕方ないでしょ…!!
ショックが先行していたはずの脳内も大分落ち着きを取り戻してきたせいか、沸々と怒りがわき上がってきた。好きな相手とはいえ、まだそんなに話したこともない沖田くんにここまで言われる筋合いなくない…?!ってまぁここで盗み聞きしてたわたしが言えることじゃないのかもしれないけど!
「そっか〜何かショックだわ〜」「ありがとな沖田、騙されるとこだったわ」じゃねーよ!!さっきまでわたしのこと褒めちぎってたくせに!!
震える手のひらを握りしめる。何で今ここにいるのかという本来の目的を忘れかけていることにも気付かず、わたしは教室内へ突撃してやろうと勢いよく立ち上がった。こうなったら、全部聞いてたぞって思い知らせてやる…!!
沖田くんが言っていたことが全部本当であまりにも図星だったから、余計と腹が立ったのだ。はいはいごめんなさいね女子じゃなくて。
半ば投げやりになっている思考。…あー。こんな形での失恋は、さすがに嫌だったな。


「おう、やめとけやめとけィ。お前らにはもっと他にいい女子がいまさァ。」
「…つーかよ沖田」
「何でィ」
「お前って…そんな細けぇこと分かるほどみょうじと仲いいっけ?」
「…………いや?」
「何だその間」
「別に。普通に見てりゃ分かるだろィ。」
「いやいや実際俺らそんなこと知らなかったし」
「……おい、何が言いたいんでィテメーら……。変な勘繰りはやめろよ。」


ほんとにやめろよ。これ以上わたしの傷を抉らないでくれ。って言ってる暇があんなら課題なんか諦めてさっさと帰ればいいのかもしれないけど、もうここまで来たら後には引けなかった。最早意地だ。
所詮男子ってこんなもんなんだろうな〜なんて大した恋愛もしたことがないくせにそう思った。そうでも考えておかないとやっぱり自分が持たない。ほんっと何で今日に限って忘れ物なんか…!!前言撤回、やってくれたな神様この野郎。
この世には自業自得という四字熟語があることも忘れて、わたしは眉間にしわを寄せたまま耳を澄ました。やっぱ顔に力入れてないと泣きそうだ。


「もしかしてさぁ沖田、…みょうじのこと、好きなん?」
「それ俺も思った!どうなんだよ沖田!」
「みょうじのこと好きなんだろ?だからそんだけ知ってるし、わざと悪いとこ言ったんじゃねーの?」
「あ〜、俺らが好きになんの阻止する為に?」
「ほら吐け。親友だろ。」
「…こういうときだけ調子いいこと言ってんじゃねェぞハゲ」


…ん?ん?
何だか少し怪しくなってきた雲行きに、わたしの胸はまたトクトクと落ち着いた音を刻み始めた。…や、駄目駄目。それで一回わたし撃沈してんだから。二度目はさすがにきついから。というかあそこまで言われてまだ好きだとか思えるほどわたしもマゾじゃないし。
必死で言い訳を考えるも無意味、やっぱり心のどこかで期待してしまっている自分がいてげんなりした。
沖田くんがわたしのこと好きなわけないじゃん。同じクラスなんだからそりゃ目につくって。あんだけ嫌なとこばっかあげてんのに、ありえないって。そう言い聞かせるのも何だか馬鹿みたいだ。
………はぁもう、大人しく課題は諦めて帰ろう。最初からそうすればよかったんだ。
はぁ、とついため息を吐いた。わりと盛大に。はっとして聞こえてしまったんじゃないかと口を覆ったけど、どうやらそんなことはなかったらしい。せ、セーフ…。
鞄を背負い直して、とぼとぼと歩き出した。明日からどんな顔して沖田くんに会えばいいのかちょっと分かんない。
今日は素直に泣いて枕濡らしてから寝よう。失恋を癒すには新しい恋とか言うし、…紹介してもらおっかな〜。確かこないだ妙ちゃんがいい人いるとか言ってたような気ぃするし…。もう二度とあんなこと言われないように、女子力マジ磨いてやるし。
ふんっ、とわたしは早歩きで学校を出た。学校出た瞬間、初めて涙も出た。


「うわ沖田!!何だその顔!」
「ぎゃはははは!あっけぇ!顔赤っ!!」
「何だよお前、図星かよ?!」
「沖田、みょうじのこと好きなのかよ!うわ〜知らんかった〜。マジかぁ、マジかぁ!」
「つかガキかよ!!小学生でももっとマシな恋愛すんじゃねーの?取られたくないから悪口とか。」
「…うるせェ」
「ま、ガサツってのは本当なんだろうけどさ。ん?じゃあ逆に何で沖田はみょうじのこと好きなわけ?」
「うるせェ」
「そう言うなよ、親友だろ」
「さっきからその親友推しマジでうぜェんだけど……つーか、あれでィあれ。」
「あれ?」
「……みょうじのいいとこなんか、俺だけが知ってりゃ十分でさァ。お前らはさっさと散れそして死ね。」
「…………ブッ、ぎゃははははは…!」
「あと1秒待ってやるその間に笑うのやめろさもなくば殴る」
「い゛ってェ!!!!」



花も恥じらう春を見よ
(title by 獣)
20150318