PSYCHO-PASS WOMAN(フィンクス)



「あのー。おなかがへりました。フィンクス」


彼を見つけた。
時刻は昼をとっくに過ぎていたが午後に起きてお腹が減っていた。場所は彼の潜伏先の古びた廃墟。どうもこういうところがお好きらしい。瓦礫と埃と塵。こんな所に一日でも過ごしてみろ、粉塵が肺に溜まるだろうが、と思っていたが彼が好きなら文句はないというものだ。闘ったことはないけれど、まだその時じゃないと自身を焦らしていたのは自己都合だ。

いつものジャージ、パーカー。目つきの悪さが際立つがそれがより凶悪になった。怒っているらしい。



「知るか、ンなこと」


ほらやっぱり不機嫌だ。眉ないけど眉がすごいムキムキってなってる。


「ご飯食べにいきましょーよ」
「一人で行け」
「私サンドイッチ食べたいです。ほらあっつあつのたまご挟んだやつ」
「残念だな俺はラーメンの気分だ」
「じゃあラーメンでいいですから」
「いやそもそもてめぇとは飯なんぞ行かねえ」
「なんでそんな冷たいんです」
「俺ん中ではてめぇが団長と闘った時からだな」
「あーもう、そんな古いことどうして掘り下げるんですかぁ」
「古いことってそれ一週間前だけど」
「ああん、古い古い。日にちにして七日前、時間にして168時間前、分にして10080分前ですよ。人の気持ちは移ろうものですその間にも」
「いいからてめぇ一人で行け馬鹿女」
「いけず」
「死ね 。つーか出て行けよ。なんでここがわかったんだよ」
「愛の力です!」
「余計死ね」


照れているのかフィンクスは唾をペッと吐き出した。ああ、もったいない。フィンクスのDNA!


「フィンクスは団長さんと私が敵だから私が嫌いなんですか?」
「はっ、言ってろ。てめぇは団長の敵ですらなかったじゃねえか」
「確かに、惨敗でしたー」


いやーいけるかなと思ったんですけどね、でも殺されなかったのはどうしてですかね、温情てやつですか、蜘蛛さんも優しい一面があるんですね、私感動しちゃって。


なまえはそうまごまごと話したがそんな事は俺はどうだって良かった。こいつとは腐れ縁だがこうやってちょくちょく俺の元に現れてはサイコを発揮する。この間もそうだった。蜘蛛の集会に予告もなく突然現れたなまえは俺にではなく団長に殺意を向け、そして闘い始めた。そして言わずもがな敗者はなまえだった。


「じゃあ、団長さんに連絡して刃向けてごめんなさいってゆるしてもらったらご飯行ってくれます?」
「は?」
「あ、もしもし。団長さん?」



言うが早いかなまえはスチャッとケータイを取り出しどこかへ電話をかけたと思ったらまさかの団長だった。

ってちょっと待てや、いやいやいやいやなんで団長と連絡先交換してんだよテメーはよ!コミュネットワーク普及にも程が有る。これがバーチャル世代ってやつ?え、一週間前に殺し合いしてた相手だよね?


『何だ』
「突然ですけど、一週間前に私が団長さんに喧嘩しかけたことゆるしてもらいたいんです。じゃないとフィンクスさんごはん行かないって言うから」
『そうか。俺が許す、飯に行け』
「ああ良かった、ありがとう、団長さん」


ピッ。電話を切り、ふう、と呼吸を整えた後になまえは笑顔を見せた。


「ハイ。ゆるしてもらいました」


ハイじゃねーよ。てめぇも大概だけど団長も何なんだよ。
なまえは俺に腕を絡ませると、よっしゃじゃあ行こうよ、と彼女面よろしく笑った。っつーかよ、関係ねえよ馬鹿。


「それでも行かねえから俺」
「えーなんで!なんでなんでなんで!団長さんに許してもらったんだからもういいでしょ!もー!」
「うるせーな」
「あ、もしかして拗ねてるんですか?もしかして団長さんと私が仲良しなことにムムっと来ちゃってるとか?」
「ちげーよ、わかんねえ女だな、」


なあ、俺がキレてんのはそこじゃねえよ。勘違いしてんじゃねえ。てめぇが団長と殺ってる時、睨みつけてたのはてめぇじゃなく団長だ。殺し合いをどうして俺じゃなく団長とやりあうんだ。


「他の奴と闘るんじゃねえよ」


嫉妬したんだよ、団長によ。たとえそこに愛だの恋だの感情なぞ無くても、てめぇの興味が団長に示されたことに俺は許せなかったってこった。団長がお前を殺さなかったのは俺がそれだけはさせねーと殺気を向けてたからだ。団長、呆れてたな。だからこれが俺の精一杯だ。ここまで言わせてわかんねえんなら本当に死ね馬鹿女。


「………………フィンクス」


なまえはポカーンと口をあんぐり開けていた。ああ、白い歯が小さくて可愛い。廃墟に舞う埃が口ん中に入るぞ。お前、実はアレルギーだったろ確か。



「そう言ってくれればよかったのに」
「お前サイコ野郎だから言ってもわかんねえだろ」
「そうかもしれないけど言葉じゃないと足らないこともあるんです」
「ほお、そりゃ知らなかったぜ」
「言葉じゃ伝わらないものももちろんありますけど」
「何だそりゃ」
「それをこれからいいですか?」
「いつでも来いよ」
「よかった」


そしてなまえは満面の笑顔で輝くナイフを出した。オレはそれに呼応するように腕を振り回す。じゃあ、さて、戦闘だ。

まずは一回喧嘩しようか。恋人よろしく、なんで俺じゃなく団長と殺り合ったんだよ、論点はそこだ。そしたら飯でもなんでも付き合ってやるよ。いけ好かねえサンドイッチとやらでもまあ付き合ってやるよ。




やさしいから好きです。
おとこらしいから好きです。
わらったかおが好きです。
たんじゅんなところが好きです。
こわいかおも好きです。
なかまおもいのところも好きです。
すねるところも好きです。
ゆるせないところはありません。だからあなたには弱い私。きっと負けてしまうわ。
それでも気持ちをぶつけあえるならこんなすてきな喧嘩はないですよね。




「はー、負けちゃいました」
「当たり前だろ。……しかたねーからサンドイッチに付き合ってやるよ」
「え!」
「たまにはそういうのも、悪くねえ」
「でも私サンドイッチはちょっと……。動いたら塩っけがほしくて。ラーメンが食べたくなったのでラーメンでいいですか?」
「やっぱりお前死ね」
「ひどいー」
「どっちがだよ馬鹿」





フィンクス熱い