深淵
彼の部屋は、すでに熱気に満ちていた。
乱れたシーツの上で、二人は行為の真っ只中にいた。
あの日、ホテルで彼女に弄ばれた情けなさや、一人きりの夜に感じた虚無感を振り払うかのように、彼はいつも以上に激しく、そして余裕なく彼女を攻め立てていた。
彼の指が、彼女の一番敏感な場所に吸い付くように触れる。
まるでこの瞬間のために、すべてを蓄えていたかのように、迷いなく、そしてためらいなく、彼はその場所を徹底的に弄び始めた。
「ん…っ…ぁ…っ、やめ、て…ん、もっと…」
彼女の唇から、甘く、そして壊れるような嬌声が漏れる。
それは拒絶の言葉でありながら、さらなる快楽を求める悲鳴でもあった。
彼の指が、その場所を激しく突き動かすたびに、彼女の身体は弓なりに反り、ベッドシーツを強く握りしめた。
彼の親指の腹が、彼女の秘めたる一点を執拗に、そして意地悪く何度も擦り上げる。
その横で、中指と薬指が深く、そして躊躇なく侵入し、内壁の襞をなぞり、彼女の奥深くへと踏み込んでいく。
指の動きは、まるで熟練の奏者が楽器を操るように、時には緩やかに、時には速く、そして激しく、彼女の快感を自在に操った。
奥から外へ、外から奥へ、粘液で濡れた道筋を滑らかに、しかし確実にかき混ぜる。
くちゅ、くちゅ、と、粘度の高い水音が、二人の行為の激しさを物語るように部屋に響き渡る。
時折、指が深部を刺激するたびに、「ちゅっ」と、より生々しい水音が混じり、部屋の熱気をさらに高めていく。
「はっ…んんっ…ぁぁ…いや…そこ…っ…もっと…」
彼女の呼吸は完全に乱れ、喉の奥から絞り出すような喘ぎ声が止まらない。
高まる快感に耐えきれず、彼女の口からは、悲鳴とも歓喜ともつかない、途切れ途切れの声が漏れ続けた。
それは、獣が獲物を求めるような切なげなうめき声であり、同時に、理性では抑えきれない悦びの叫びでもあった。
瞳は潤み、焦点が定まらない。
普段の凜とした彼女の姿はそこにはなく、ただひたすら、彼の掌の中で、快楽に喘ぎ、身を捩っていた。
彼の指が深部を撫でるたびに、彼女の全身に電撃が走り、激しい痙攣が襲う。
彼の唇が、彼女の耳元に寄せられた。
「…俺から、逃げられるとでも思ったか?」
その挑発的な囁きは、彼の復讐ともいえる支配欲を満たすように、彼女の耳の奥深くへと響き渡った。
そして、彼女の顔が快楽に歪み、完全に思考停止したのを見たとき、彼は満足げに微笑んだ。
その顔は、あの日の一人の夜に感じた虚無感を、完全に払拭したような、自信に満ちた表情だった。
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