壱
桜舞う四月の新学期――ここ弐年参組も新クラスとして特有に空気をまといながらホームルームが行われていた――はずだった。
「な……な……なんでこんなことにぃぃ〜」
「すごい、アホ毛が机に刺さってるよ」
「……ほんとだ」
教卓の下で怯えるように頭を抱えている新任教師を見て、雪は見当違いな感想を述べていた。それに反応する佐野も佐野である。
遡ること一時間と少し前――
「ちょっと雪、いい加減起きなさい」
「ん〜あと五分〜……」
「それ何回目だと思ってるんですか」
学園長室のそのまた一室。ベッドの上のミノムシはもぞもぞと動いたかと思ったらまた静かになる。これを繰り返されることかれこれもう三十分。父は痺れを切らしてバサッと布団を捲った。
「んぎゃーー!返してよ〜!」
「駄目です」
剝ぎ取られた布団の下には胎児のようなに丸まった娘がひえぇぇと言いながら身を縮こませていた。涙目で父を睨んでいるが子猫の威嚇にすら及ばない。
「私今から職員会議なのでもう出ますよ」
「んん〜」
「……」
チャンスと言わんばかりにうつぶせ寝をし始めた雪を見た父は沈黙した。能面の下の表情は誰も分からない。むくむくと大きくなっているオーラに雪は気が付いていない。肝の座った娘。しかし、この場ではそれが良い方向に働くかと言われれば、そうでもない。
「雪」
「ん〜……なあにー……」
父はぬらりと娘に近寄った。妖術は使っていない、一歩寄っただけだ。音もなく雪の横に立つ。長い腕が雪に伸びる。正しくは、雪の横腹に。
「!?っ、はっ、わはははっ!ちょ、パ、パッ、やめてぇっ、アハハ!」
ジタバタと足を動かしながら涙目で笑っている。父の手を引き剝がそうとするがその腕力に細っこい雪の腕が敵う筈がなかった。息も絶え絶えになってきた娘を見て漸く父の手が離れた。肩で息をする雪はしっかり目が覚めたことであろう。
「はぁ……はぁ」
「まだやりましょうか?」
「も、もういいっ!!」
「