ナンセンス・センテンス


「貴方が爆発四散した際は、私が全ていただいてもいいですか」
 モールさんからそんなことを言われた俺は、返事の前に飲んでいた水を吹き出してしまった。ゲホゲホと噎せながらモールさんを見やると、あまりにも平然とした顔。幻聴か、聞き間違いか悩んだほどだ。
「え……は……あ?」
「散り散りになった貴方をひとつひとつ保管しようかと思いまして」
 幻聴でも聞き間違いでもなかった。
「……あの、別に俺は爆発四散する予定は特にないんですが」
「ええ。もし、することになった場合のために事前に承諾をいただきたく」
 言われてもするか、んなこと。
 ……いや、される可能性があるのがこの世界だ。縦にも横にも切断されたり、押し潰されたり、ゾンビになったりすることはある。改めて考えると危険な世界だな、と俺はひとりごつ。
「散り散りな貴方をそばに置きたいので、貴方のすべてが欲しいんです」
「それはなかなかポエマーなことで」
 本気なのか冗談なのかわからず、肩をすくめて茶化してみたが、目の見えないモールさんには、この表現は伝わっていないだろう。
「あー、ちなみになんですが……、保管ってどうするんですか」
 回答を待ち続けるモールさんに直面できず、ちょっとした疑問を呟くと。モールさんは「待ってました」と言わんばかりに、ずいずいと前のめりになる。目が見えない分、距離の取り方が本当に下手だ。
「そうですね、まず貴方の部品を集めます。ハンディさんの頭、脳、耳、目、鼻、唇……唇だけ綺麗に残るのは難しいかもしれませんが。あとは腕と胴体と、太もも、ふくらはぎ、足、あぁ内臓もでしたね。心臓は必ず欲しいと思っています」
 ああ、これは思ったより……だいぶ本気そうだ。
「それら全てを集めて、部品ごとにガラスケースに入れて飾ります。勿論、ネームプレートも飾りますよ。ハンディさんの頭、ハンディさんの腕……といった風に」
 何がもちろんなのかはわからないが、モールさんは博物館みたいに俺の部品を展示する気のようだった。ガラスケースに囲まれているモールさんを少し想像してみたが……この人のことだ。転んでガラスが割れて大惨事になりそうな予感しかしない。頭の上に浮かんだ、血みどろモールさんの想像を取っ払うように俺は首を横に振った。
「ところで、モールさん」
「はい」
「目の見えないアンタが俺の部品を拾って飾るなんて、無理な気がするんですが」
 俺の言葉がモールさんに届いた瞬間、沈黙の時が流れた。目の前にあるサングラスの奥の瞳が、数回ぱちぱちと揺れ動く。
「……あぁ」
 モールさんの小さく開いた口からこぼれた感嘆が、長い沈黙を破り――
「確かに、そうでしたね」
 とだけモールさんは呟くと、その場からすくっと立ち上がったのだった。

(このあと、モールさんは何事もなかったかのように、新しい紅茶を淹れ始めた)