おまけ


覚醒したフリッピー&ランピーの小話ですが、覚→軍要素含みますので注意。
第三者視点です。



 ランピーに囁かれた後、黙って俯いていたフリッピーは、ゆっくりと顔を上げた。先程の怯えた顔ではなく、狂気を滲ませた表情で、彼はニイと笑った。
「よォ、クソ鹿。好き勝手言ってくれたなァ」
 腹の底に響くような低い声が聞こえると、ランピーは焦ったように目を丸くさせた。何度も何度も殺されたランピーには、"彼"の恐ろしさが体に染み付いているのだろう。
「ひっ、怖いフリッピーじゃん! あ、ぼ、ぼくは急用があるから……」
 慌てて逃げ出そうとするランピーだったが、いつの間にかフリッピーにしっかりと腕を掴まれているのに気づき、指先が食い込む痛みに顔を歪めた。
「まぁまぁ、そう急ぎなさんな。テメェにはたっぷりお返ししてやるからよォ」
 ニタニタと笑いながらフリッピーが詰め寄ると、ランピーは泣きそうな顔で口を開ける。
「ただ本当のこと言っただけじゃん! なんでぼくがこんな目に……」
「テメェの戯れ言で、アイツは死にたがってんだ。
 代わりにオレがテメェに報復してやらねェと、カワイソウだろ?」
 ギロリとした金色の目がランピーを見据え、その視線にランピーは思わず体をぶるっと震わせた。
「いやいや、おかしいじゃん。
 フリッピーのことはフリッピーにしか助けられないから、
 だれにも救えないんだよって言っただけで……」
 ランピーは言い訳じみた言葉を呟いたが、フリッピーは意外にも嬉しそうに目を細めた。犬歯が赤い口からちろりと見え隠れする。
「バカ鹿にしては、よォくわかってんじゃねェか。
 そうさ、アイツを救えるのは俺だけ。俺だけがアイツの救世主だ」
 愉快そうにからからと笑うフリッピーだったが、さっきまで怯えていたランピーはフリッピーの言葉に眉を顰め、尖らせた口から反論をこぼした。
「んー、違うよ。君じゃないフリッピーのことだよ。
 悩み苦しんでるフリッピー自身が、フリッピーを救うんだ」
「……は?」
 金色の目が、月のように真ん丸と輝き、フリッピーの下瞼はぴくぴくと痙攣する。
「むしろ君は、彼にとっては悪者だね。
 救世主は、君じゃなくて、君の中に眠っているフリッピーただ一人だよ」
 先程見ていた映画の役者のように、ランピーは知識を彼に語った。分からない彼に優しく諭すように。
「……ああ、テメェの言いたいことは、よォくわかったよ」
 怒りが滲んで歪んだ唇から、絞り出したような声でフリッピーは言った。ランピーはそんな様子に気付かず、にへにへと笑っている。
「良かった。なら……あ」
 頭上に振り上げられたリモコンが、ランピーの視界に入り、やっとランピーはこの後に降りかかる自分の運命に気付いた。
「どんだけテメェがぐちゃぐちゃに死にてェかがなァ!!」
 フリッピーの怒号が聞こえ、耳障りな悲鳴と水音が長く響き渡った。息絶えて地に伏すランピーを見下げながら、フリッピーは息を荒げて肩で呼吸をしていた。

「んなこと言われなくても、わかってんだよ……」

 誰にも見せたことのない、落胆した表情で呟き、"Fliqpy"は目を閉じた。
 眠っている"Flippy"を起こすために。