メルティ•キャンディ
※人食・嘔吐描写あり。
この前たくさん買ったおかしがなくなっちゃったから、ぼくはランピーのお店に行くことにした。お金もちゃんと持って。
でも行く間に、おいしそうなにおいがして、まっすぐ行かなきゃいけない角をまがって、より道した。そしたら、そこにスニッフルズがいて、あま〜いにおいのするビンを持ってた。黄色くて、とろっとろの……ハチミツ! ビンにはたーくさん入ってたから、ぼくはスニッフルズにお願いをした。
「ハチミツ、ハチミツちょうだいぃ!」
でもスニッフルズはイヤな顔をした。
「アリをつかまえるためのハチミツだから、ダメ」
でもアリってすっごく小さいから、そんなにいっぱいなくてもいいよねって思って、スニッフルズにもっとお願いをした。
そしたら、ビンのフタがぽろって取れて、あま〜いハチミツがこぼれちゃったんだ。ぼくのせいじゃないよ、ビンをちゃんとしめなかったスニッフルズのせいだよ。
食べものをムダにしちゃいけないってスニッフルズはいつも言ってるから、ぼくはこぼれたハチミツをキャンディみたいになめたんだ。そしたら、とーってもおいしくって! たくさんなめてたんだ。
そしたらね、目の前に細長いビスケットみたいなのがあって、思わずガブッてかじってみた。それがね、すっっっごくおいしかったんだ!
いつも食べてるおかしとはちがう。あまくてあまくて、おさとうたっぷりのおかし。あまあまなチョコレートみたいだった。
スニッフルズったらね、アリのおかしをたくさん持ってたらしくて、それにハチミツがかかっちゃってたみたい。
ぼくがもぐもぐ食べてたらスニッフルズがおこってたけど、何言ってるかわかんないし、ハチミツがけのチョコレートなんて、もうおいしくって、どんどん食べちゃった。ばきばき、ごりごりって。
いつも食べてるのよりちょっとカタかったけど、まわりのチョコレートがおいしくって、ぜんぜん気にならなかった。
いっばい食べたら、おなかがいっぱいになって、服もハチミツとチョコレートでどろどろになっちゃった。さっきスニッフルズはおこっていたし、ちゃんとごめんねって言わなきゃ。
でもぼくがいくら探しても、ちかくにスニッフルズはいなかった。
よっぽどおこってたのか、白い服とかメガネもわすれてさ。ハチミツとチョコレートがついちゃったから、いらなくなったのかなぁ。
でもスニッフルズの大事なものだし、ぼくはスニッフルズに返そうと思って、かきあつめた。それで、どこにいるかな〜ってさがしたの。そしたら、トゥーシーをみつけたんだ。
「トゥーシー!」
ぼくがそうよんだら、トゥーシーってばすごいびっくりしちゃって。近くに行こうと走ったんだけど、トゥーシーは大きい声で「来るな!」って。
なんだかすごいブルブルしてて、ぼくはヘンなのって思いながら、トゥーシーにこう言った。
「なんでそんなふるえてるの」
ってね。そしたらトゥーシーはよく見たら泣いてて、木にかくれてたんだ。かくれんぼでもしてたのかな。
「おまえが!」
ぼくも、かくれんぼしたいなって思ってたら、トゥーシーは急にぼくを指さしたんだ。あー、だめなんだ! 人に指をさしたらダメってスニッフルズ言ってたよ。
「おまえが……おまえが、スニッフルズを食べたんだ!」
スニッフルズ?
急に名前が出てきてびっくりしちゃった。トゥーシーってば、バカだなぁ。ぼくが食べたのはチョコレートで、スニッフルズじゃな……
「ハチミツをかぶったスニッフルズを、チョコレートだと言って食べただろ!」
どくん。トゥーシーの言葉に、むねが苦しくなる。しんぞうがどくんどくん言ってる。
だってあれはチョコレートだよ。あんなにあまくて、カタくて、やわらかくて、おいしかったのに。スニッフルズなわけがないよ。
ぼくはそう思ったけど、スニッフルズがいなくなって見つからないのを思い出した。スニッフルズがどこかにいれば、トゥーシーがウソをついているのがわかるのに。
「う、うぅ……」
なみだが出そうになって、ぼくはうずくまる。そしたら、おなかがギュルギュルってなって、気持ち悪くなっちゃった。
「う、うえぇぇ……!」
思わずびちゃびちゃって吐いたら、近くにいたトゥーシーが「ウワァァァ!!」ってさけんで、にげていくのが見えた。ひどい、ひどいよぉ。ぼくだって、吐きたいわけじゃないのに。心配くらいしてくれてもいいじゃんか。
ぼくはぽろぽろと泣いちゃって、吐いたものをチラって見たの。そしたら。そしたら。
「……スニッフルズ?」
丸くて、白いものがコロンって、出てきた。見おぼえのある、まぁるいやつ。すこしどろどろだけど、スニッフルズみたいな目玉だった。
「すにっふるず……」
ぼくが、おかしだと思っていたのは、スニッフルズだったの? あのビスケットはスニッフルズのホネで、やわらかいチョコレートはスニッフルズの中身?
あんなにおいしかったのに。あんなにあまかったのに。あれはぜーんぶ、スニッフルズ? そっか、そうだったんだ。
おこってたスニッフルズの声を、顔を思い出す。かすみがかってた声がきこえてくる。
『やめろ、ナッティー!
痛い、痛い、いたい、やめ……』
「あはは、はは。食べちゃったんだ。ぼく、スニッフルズを」
バカなのはトゥーシーじゃなくて、ぼくだった。スニッフルズを食べて、ごめんねっていっぱい思ってるのに。
スニッフルズってあんなにおいしかったんだって、ヨダレがだらだら出てくる。
止まらない止まらないよ、おかしいよぉ。ごめんねぇスニッフルズ。いたかったよね、苦しかったよね。ごめんね、ごめんね、ごめんねぇ。
でもね、スニッフルズ。きみはとぉっても、おいしかったよ!
「あはっ、はは、あははははぁ!」
食べちゃった、食べちゃった! 友だちのスニッフルズを食べちゃった! とってもおいしいスニッフルズを食べちゃった! あまくてチョコレートみたいなスニッフルズ、だぁいすきだよ!
「ヒヒッ、あ、あぁチョコレートだあぁ!」
(甘味狂いの栗鼠は、自身の胃液で溶けた蟻食の目玉をもう一度美味しそうに飲み込んだ。今度はしっかりと味わうために)