なまえちゃんとは何度か飲みにも行ったし、柄でもないけどショッピングモールで買い物や映画を観に行ったりもした。2人きりでだ。もう最近じゃ俺の頭の中で3つの数字が一緒に回り始めてるし、今までは何でもなかった日常がぎらぎらと金色に輝いてすらいる。
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「遅くなっちゃったし、送ってくよ」
ありがとう、いつもごめんねと赤い顔で笑う彼女を送り届けるのはもはや特別なことではなく、もう駅から15分に位置するマンションの場所も覚えていた。すっかり見慣れた道を歩いていると、見慣れない人だかりが目に入る。
「うそ、ストリートライブだ」どこか嬉しそうな声で彼女はその人だかりを見つめた。
「こんなとこでやってるやついるんだ〜」「2ヶ月に1回くらいしかやらないんだよ。でもこの前2週間前にやってたから、今日めずらしいと思う」私あの人の歌けっこー好きなの、という彼女と一緒にその輪の中に入っていく。
日頃から音楽なんて聞かない俺はこいつの良さとか正直わからないけど、少し頭を揺らしながら聞いている彼女を見る限り良い歌なんだろう。俺がテンションあがるのは、確定音くらいかな。普段めったに聞けない音楽が流れてくるとそりゃあもう有頂天…、そこまで考えて思考が止まる。
あれ?このストリートライブも滅多に聞けないって言ってなかった?2ヶ月にいっぺんのが、しかも時期外れに今たまたま?これひょっとして、アツイ?悲しきかなパチンコ脳、我ながらあほくさいと思いつつちょっとだけ運が向いている気になってしまう自分は最高に幸せもんなんだろう。
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珍しいライブも聞けて浮き足立つ彼女と再び岐路に立つ。ぱっと前に目をやるとバイクが近くまで来ていて、思わず彼女の腕を引き寄せる。「あっぶね」「わ、びっくりした…」車いねーんだからわざわざ歩道側に寄るなよなーと文句つけながら、次の瞬間にバイクが来たよりも身体がはねた。
え、俺の手は今だれに握られてます?
「おそ松、いつもありがとうね〜」そう赤い顔で笑うなまえちゃんの手は確かに俺の手を握っていて、待って、ストップ、さっきのアツイとかいうレベルじゃない、これ激アツ。ここで勝負に出なきゃ、男じゃなくない?
「あの、さ」そのまま手を握り返せば振りほどかれることもなく、さらに期待値は上がる。「ん?」「ちょっと話したいことがあって」もうマンションの玄関は見えてきたけどそんなことは構やしない。ああ、手汗やばいかも。でも大丈夫、この1ヶ月ちょいで2人で出かけて回転数は稼いだし、そこにある街灯は金色に見えるし、頭の中にはさっきのストリートミュージシャンの曲が流れて、なまえちゃんによって握られた手はレバーを引いている状態、あとは俺がボタンを押せば良いだけ。いける、確定演出!
「おれ、なまえちゃんが好き」
その瞬間に彼女の顔がぼっと赤くなる。光った!ありがとう!神様ありがとう!
「…ごめんなさい」「へ」
「おそ松のことは、好きなんだけど、あの、そういう意味じゃないというか」
そこから勘違いさせてたらごめんなさい、とかなんか色々謝られた気がしたけどもう耳に入ってこなかった。気づけば手はとっくに離されてて、申し訳なさそうにマンションの玄関へ消えていく。
あー、そうだよなー。女なんて近頃のパチンコと一緒だ。散々向こうから盛り上げといてその気にさせといて、いざとなったらしっぺ返しだ。昔はパチンコですらもっとシンプルだったよ?負けが確定してるなら、過剰演出で煽ってきたりしないでほしい。期待させられた分ダメージがひどい。そもそも機械的に数字で確率が決まってるパチンコですら勝てないのに、なぜ理屈も運も通用しない人間相手に勝てると思ったんだろう。だから俺、負けてばっかなんだな。
もうしばらくパチンコもオンナもいいや。明日はかわいいお馬さんになぐさめてもらおう。
ギャンブラーの悲しき性
( 夢松タグお題より。書いててすっごく楽しかった…!おそらくパチンコやったことない人にはなんのこっちゃって感じです。ちなみにおそ松にいさんはよっぽど意識しないかぎり歩道側あるくような気配りできなさそう )
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