私とカラ松は昔からの腐れ縁だ。思えば昔は松野家の六つ子内でも頭のいい方でふつうの人間だったが、中学で演劇部に引っ張られたあたりから少々おかしくなっていった気がする。中2あたりで尾崎と出会ってしまったのが運のツキだった。どんどんと他人とは違う方向へ歩んでいく彼を見て、中学時代の友達はまだ素の彼を知っているから笑っていたが、高校から知り合った人にとってもはや松野カラ松はそういう人間にしか見えないのである。関わろうとする人間は明らかに減った。近づけば中身はふつうなことは分かるのだが、いかんせん彼が意識せずに作ったそのキャラが、近づこうとする他人の意思を失せさせる。男子はまだ笑うが、女子は完全に引いていた。つまり、松野カラ松には彼女だの恋だのという青春は学生時代に訪れなかったのである。同じ顔の六つ子の中でも割と整った顔やスタイルを持ちながら、彼は自分自身でその利点を潰していた。そしたらそのままニートになんかなって、カラ松girlsがどうのとかほざいているが、彼はまた自分でマイナス点を跳ね上げた。だから、昔っから黙ってカラ松を好きな私は、安心しきっていたのである。勝手に。





「カラ松に、彼女ができた…」

チョロ松が飲んでいたビールジョッキを置いて言い放った言葉に、私は耳を疑った。


「……は?え、チョロ松飲みすぎじゃないの」
「いやまじで」
なんなら今ずっとウチにいるから、と頭を抱えてカウンターにうつぶせる。


なんで?なにがおきた?彼がいつも吊り橋でイッタい格好してカラ松girs(笑)を待ってるのは知っている。一時期あせった時もあったが、見てみれば周りの女子どころか男子まで引いている始末だったから、まああれもほっとけばいいかと思っていた。


「なんか、その女やばいんだよね。見た目もだけどさ、人としてやばい」どうやらカラ松と付き合うくらいの女だから、チョロ松はわりと女を悪く評価するやつだけど、それを抜きにしても変な女らしいことは確かだ。

「でも」ため息をつきながら心底はきだされる。



「何より一番やばいのは、カラ松の方だよ」






言われてみれば全く吊り橋で見なくなった彼と、思わぬ再開を果たしたのは家の近くのコンビニだった。

「カラ松…」
「あぁ、なまえか。久しぶりだな」

数週間ぶりに見た彼の顔はちょっとやつれているようにも見える。手にはハーゲンダッツ。おまえはニートのくせによくそんな高級アイスが買えるな。それにしても、様子が変だ。


「悪いが急いでるんだ」そのままレジへと向かう彼の後をついていく。例の彼女か?

「そんな急いでどうしたの」
「家で彼女を待たせていて」
ビンゴォ〜、と私の頭の中でカラ松が指を鳴らす。

「あんたさ、チョロ松が心配してたよ。その彼女、なんかだいじょぶなわけ?」失礼はお構いなしで直球で言い放つ。「あぁ、確かにフラワーはちょっと変わってるが」フラワァ〜?もうつっこむのも面倒くさい。



「でも彼女には、俺がいないとだめだから」






高校を卒業する時、就職もしないし大学にも行かないという彼に思わず失言をしたことがある。

「今までずっと一緒だったじゃん、離れてもいいの」

彼は少し驚いたが困ったように笑って言ったのだ。


「でも、なまえは俺がいなくても大丈夫だろう?」





「おい、どうしたんだ!」カラ松がアイスをぶら下げていない方の手を掴んでずかずかと歩く。


思えば不毛な恋の駆け引きをひとりで繰り返してきた。あのとき素直に大丈夫じゃないと伝えていれば未来は変わっていたのかもしれないが、そんなことは誰も知る由もない。かまわない、今日からでも世界史をひっくり返せばいい。


私は昔からカラ松が好きだった。それをチョロ松曰く出会って1ヶ月足らずの女に取られてたまるか。そもそも彼はチューペットが好きなのだ、ハーゲンダッツのために使いっ走りにするような、こんなやつれた顔をさせるような女に、彼の良さが分かるわけない。

そんなやつが、俺がいないとだめだと言わしめたのだ。私がずっと欲しかったその言葉を、横からあっさりと奪っていったのだ。


うっとうしいことは終わらせよう。私に掴まれている手に結ばれた赤い糸の先にどんな女がいるか知らないが、そんなのは関係ない。ちょん切ってみせるわ。



(恋は)百年戦争


( #相対性理論 より )




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