あなたが好きな色のスカートをはいて、初めて出会った公園のベンチへ腰掛ける。話があるって、なんだろう。最近は仕事が忙しくて以前よりちゃんと会えない時間が増えている自覚はある。でもようやくひと段落ついたし、この会えない時間があなたの大切さを思い出させてくれたから、今日くらいは柄じゃないけど、抱きしめてほしいと伝えてみようかな。





数週間ぶりに見たカラ松は、いつもみたいにお気に入りのサングラスも、キラキラしたズボンも履いていなくて。「急に呼び出してすまない」ああ、何か違和感。開かれた口からは、聞き馴染んだハニーという呼称ではなく、ぎこちなく私の名前がつむがれる。ねえ、どうしちゃったの。まるで月9のワンシーンの様な空気を醸して、これじゃあ、嫌な予感しかしない。


「オレたち、もう終わりにしないか」

告げられると同時に青いスカートが揺れた。素直になれない私のかわりに、怯えてくれたのだろうか。





数日が経ち、少しずつ受け入れたくない現実が整理されてきた。ざっくりと言ってしまえば、カラ松は私の親友を好きになってしまったらしい。付き合い始めてしばらくした頃、私は自慢の親友を何気ない気持ちで彼に紹介した。好きな人に、好きな子を知ってもらいたい。私に似ず感情表現が豊かな彼女は、持ち前の明るさで彼ともすぐ打ち解けた。3人で飲みに行く機会が増えた。関係がうまくいかなかったとき、彼と私の間に入って歩み寄る架け橋をしてくれたこともあった。そんな親友に、カラ松は少しずつ心惹かれていったそうだ。私と付き合っていながら。彼女が彼の兄を慕っていることも、分かっていながら。

望みのない思いと分かっていたのならば、黙っていれば良かったのに。心の底では彼女を思っていても、今まで通り私を隣に置いてくれれば良かったのに。大方真面目で馬鹿正直な彼は自分の心に嘘をつけなかったんだろう。でもね、それは優しさでも何でもないこと、あなたは分かってるのかな。





あの日カラ松が私の名前を呼んだ声が、いつか2人で訪れた水族館の大きな水槽に放たれた魚の大群のように、まだ頭の中をぐるぐると回る。
彼の話によれば、悪いのは自分で決して私じゃないとか、じゃあ、どうしてなの。

あの子みたいに笑えれば、あの子みたいに泣けたなら、甘え上手になれてたら、今も側にいられたのだろうか。
今更になって私の肩はみっともなく震えていて、何やってるの、早く抱きしめにきてよ。


あなたが好きな色のスカートはあの日からまだ怯えたままで、相変わらず素直になれない私はさよならの一言をまだ口に出せないままでいる。

頼りない星と遠すぎるネオンが足元を照らしていて、この出来の悪い物語の終わりを彩っていた。



fish


( #back number より )




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