なまえ、今日はどっか行くぞ、今日っつーか、今から?ちょっとだけ肌寒いような日曜日の朝、わたしの部屋で当たり前のようにわたしのベッドでくつろいでいた元親は体も起こさないで、そして何故か疑問系で言う。今から?って元親が言ってるのに疑問系っておかしな感じだ。ていうか、珍しいなあ、日曜日の朝に元親が外に出たがるなんて。ううん、まず日曜日の朝にアクティブな発言をすること自体珍しい。2、3回まばたきをしてからイエスの返事を返す。元親とはやけに長い付き合いだなあとお気に入りのカーディガンを羽織りながら思う。元親の少し猫背な背中もずっと変わらない優しい銀髪も、なんだか見慣れてしまった気がする。それでもわたし、このひとと居たいんだなあって思えることが心地いいと感じているのも事実。沈黙の呼吸すら愛せるようになったわたしたちはいくらか大人になったのかもしれない。





「窓開けてもいーい?」
「おう」


片手でハンドルをきる元親を横目に車の窓を開ければ、風がびゅうんと髪をさらって行く。はじめはやんちゃでそそっかしい運転だった彼のハンドルを握る手のひらもずいぶんと安心して頼れるようになった。さっき寄ったコンビニで買った缶コーヒーがじんわりと手のひらであったかい。冬ももう終わりなのにまだまだ風はどうやら冷たいらしく、缶コーヒーのあったかさがやけに染みる。


「珍しいねえ、」
「あ?何がだよ?」
「元親から外に出ようとするの」


おー、まあな。間延びした返事が帰ってくると同時に片手でハンドルをきる。やわらかなその銀髪によく似た目を細めて微笑む元親は少しだけ大人になったようだ。


「なまえ、海にすっか」
「え?海?良いよ」


水遊びするにはちょっぴり寒いと思うから、たぶん浜辺で話したりするのかなあ。年寄りくさいのがまた元親らしいかもと思わず口元がほころんだ。あ、わたしも好きだからお互い様かなあ。


「小さい頃から元親ってば海好きだよねえ」
「そうだな、なんでだろうな?」
「わたしに言われても!」


小さい頃から海が好きで、転びそうになりながらよく自転車2人乗りして海まで行ったっけ。それで、少ないお小遣いでアイス買って笑って。ほんとにどこに行ったって元親と一緒だっていう宝物や思い出があったりして、隣で心地よさげに微笑む元親もそう思ってくれてたらいいなあと思う。無言の時間だって、愛おしい、心地いい。海に行くまでの道のり、街角の駄菓子屋、やけに変わるのが早い青信号、ガーデニングが綺麗な家、緩やかな坂道。色んなところにわたしの宝物があったりして、これからもそれを全力で守っていくんだよね。緩やかに速度を落として黄色、そして赤信号でストップ。「お、」元親が片手でごそごそとリュックの中身をあさる。何してるの、元親。おー、ちょっと待てっ、て。


「これよ、海行くまでに返事、考えといてくれねえか」
「へ、!!」


端っこがしわくちゃになった紙を半ば押し付けられる。なに、それ。大事なことは目を見て言ってよ。こんなの、ずるい。


「結婚するぞ」


あー、でも、もう少し大人になったら、な?元親はずるい。この赤信号は長いってこともわたしが断らないってことも、ほんとは全部知ってたんでしょう?「なまえ」やわらかい声に元親に顔を向けたらやさしく口付けられる。もう、ほんとに、ずるいよ。照れくさそうに、けれども悪戯成功というふうに笑って、やさしく頭を撫でる元親の大きくて強くて、強面のくせに優しいこれからも沢山のものを守る手をわたしは一生離さない。信号が、青信号に変わる。元親、この坂道を越えたら、もう海だよ。水平線に透き通るような澄んだ青がきらきらと輝いていた。


きみとぼく、
きっとずっと
隣り合わせ、
なのです !


手を繋いだまま何処までだって2人旅 170412
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