Act,2
「綺麗…」
「…ほんとだね」
世界中の宝石を詰め込んだような眩い光はふたりの未来、包まれる拍手は祝福の音。とろけるような新婦の笑顔といつもより少しばかりか表情のやわらかい新郎に、名前の口は恍惚のため息が溢れて止まることを忘れてしまったみたいだった。かつての高校時代のクラスメイトに惜しみない祝福の拍手を送り続る。
「それにしても、爆豪くんたち本当お似合いだねえ」
「かっちゃんには絶対あの子しかいないって僕も思うよ」
「高校の頃からずっと付き合ってたんだもんなあ、…いいなあ、ウェディングドレス。ほんと、きれい、」
高校の頃から付き合っていた爆豪たちが遂に結婚することになった。彼らが付き合い始めて、何度も何度も地球は回って、季節を繰り返した。その季節を何度もふたりは過ごしてここまで来たのかと思うと感慨深い。爆豪は大人になって少し丸くなったのは皆がよく分かっているけれど、それでもあんなに、人を愛おしいという顔をするなんて。爆殺王!だの爆殺卿!だの、物騒なことを言ってたのが懐かしい。お嫁さんになった目じりを下げて笑うあの子は彼と同じ苗字になった。繊細で上品な幸せの象徴の純白のレースに視線を奪われ、またひとつ恍惚のため息がぽこりとひとつ、名前から溢れた。それを掬うように笑う隣の席の出久。可愛らしい子兎みたいだった出久は、あっという間に名前と同じくらいだった背を飛び越えて、そのすらりと長い足でスーツを着こなす素敵な大人になった。時々そのまあるい目の奥に子どものようなあどけなさを残したまま。深い森のようにしっとりと美しい瞳が星屑のような照明の光を吸い込んでいた。

「名前ー!」
「おめでとう!ほんと、綺麗だよ…!」
「ありがとうね。これ、名前にあげる」
二次会でのことだった。それは、祝福すべく皆で新婦を取り囲んだ時のことである。あげる、と名前に手渡されたのは、ナチュラルながら、どこか大人びた花や緑をブルーグレーのリボンで束ねたクラッチブーケ。こんなに素敵なブーケをわたしが貰ってもいいんだろうかと名前の顔に困惑と喜びが入り混じる。
「素敵すぎる…!嬉しい!…でも、どうして?」
「次は名前、かもね!」
一緒に集まっていた高校時代のクラスメイトたちから何故だか生暖かい視線を感じ、恥ずかしいやら訳がわからないやらで、その真意はわからないまま。けれど懐かしい。高校生の時もこうやってふざけ合って笑い合ったことは脳裏に簡単に思い出せた。やめてよー!とブーケで顔を隠すとその隙間から、爆豪の周りに集まる男の子たちの中に出久の横顔が見えた。ちょっとだけ凛々しくなったその横顔が名前の方を見たような気がした。

ほろ酔いの足で帰り道、境界ブロックの上を歩いた。ああ楽しかった。転けないでねと後ろから包み込むようなやんわりとした声色が追いかけてくる。帰り道が同じだから送っていくよと名前に声を掛けたのは出久だった。夜の風がパーティードレスの裾を揺らして空気を包む。
「きれいだったねえ」
「うん、そうだね。名前ちゃん、ブーケ貰ったんだ?」
「そう!次は名前、とか言ってね?わたしに彼氏が居ないのわかっててひどいよねえ!花嫁のブーケの効果あるといいけど」
「案外、わからないものだよ」
「え?」
頼りない街灯の明かりにブーケをかざす。名前は苦笑して振り返って驚いた。そんな真剣になることでもない。何でもない話だったのに、出久があまりにも真剣な顔をしていたから。相変わらず深い森のようにやわらかく優しい目が真っ直ぐに名前の心ごと射抜く。そのまま歩み寄る出久くゆっくりと名前の手を取り、ちいさく深呼吸をして微笑んだ。
「名前ちゃん、僕と、結婚を前提にお付き合いしてくれませんか」
「!!」
「ずっと、ずっと好きだったんだ」
言葉にならない驚きが喉につっかえて出てこない。握られた手から身体中に温かさが広がってゆく。戸惑いとじわじわと胸の内に広がるあたたかさに名前は目を白黒させた。
「あ!でっ、でも、そんなすぐに決められないよね…!」
「あ、あの、」
「ごめん…そんな、いきなり、け、けっこん、だなんて」
名前の表情に、ハッとしたように出久が慌てふためいて手を離す。さっきまでの落ち着きは夜の黒に弾けて姿を隠してしまったようだ。けれど、名前は離れてしまった手が寂しいと気づく。指先は出久のあたたかさを覚えている。出久のその深い森に迷子になったっていい。身体より先に心が動いたのかもしれない。気づけば、わたわたと落ち着かない出久の指先をギュッと握っていた。街灯の頼りない明かりが花嫁に向けられたスポットライトを彷彿とさせる。味気ない街灯の明かりが、一気にロマンチックになる。
「あの!よろしく、お願いします…!」
「ほ、ほ、ほんと?!」
「ふつつか者ですが…!」
「ふふ、」
ふたりだけのスポットライトの下で出久の頬っぺたが真っ赤に染まる。さっきまでの大人びた出久はどこへ行ってしまったのやら、あたふたとする姿が可愛くて名前は盛大に吹き出してしまった。花嫁のブーケの効果があったようだ。どうやらわたしの地球が回り始めたらしい。
Act,2

