寒い冬、白い息が笑い声と一緒にぽこぽこと浮かんで弾けた。みんなが寝静まった頃、女子たちで集まってバレンタインのチョコを作ろうと約束したのだ。暖房の効き切っていない合同スペースは少し寒くて、ひと足早く集まったなまえちゃんと私はおしくらまんじゅうをするように寒い寒いと肩を寄せ合う。明日はバレンタインだ。なんとなく、頭に浮かぶもじゃもじゃ頭を思い出してから恥ずかしくなってぶんぶんと頭を大きく振った。
「お茶子?」
「う、ううん、なんでもない!あっ、なまえちゃんは、何作るん?」
「うーん、キャラメル作ろうかなって思ってる。あと、ブラウニーかなあ」
「キャラメルって作れるんやあ…!私は生チョコにしようかなって」
「いいねえ」
なまえちゃんは、何か少し考えたように笑った。その横顔が誰のことを考えているのか、なんとなくわかって微笑ましくなる。はっきりとなまえちゃんの口から聞いたことはなかったけれど、なんとなく周りは察し始めていたりした。ボウルと、ゴムベラと…と呟きながらテキパキと材料を準備するなまえちゃんの背中を見てふと思う。学生生活って、とても長いものだと思っていたけれど、こういう時間はあとどれくらいあるのだろうか。もちろん、遊びに来ているわけではないのは重々承知しているし、雄英に入学を決めたプロヒーローになるという目的もブレてはいない。将来のことはわからない。けれど、苦しいことも辛いことも乗り越えた未来に、こういう何でもない日々を笑い合える日が来るのではないかとなんとなく思うのだ。なまえちゃんは雄英に入学して初めて言葉を交わした相手だった。同級生なのに、なんだか考え方はちょっぴり大人で、あっさりしているところもあって、それなのに笑うと無邪気で可愛くて。数少ない女子たちの中でもなまえちゃんの纏う空気感はとりわけ透明で、眩しい。春の陽だまりみたいにあったかくて、夏の朝みたいに爽やかで、秋の穏やかな空気感にも似ていて、冬のツンと冷たい緊張感も持っている女の子だ、と思う。何年後か、お酒を飲み交わしたりすることが来るのかな。それまで、ずっとずっと笑い合える仲間で、いられるかな。
「なまえちゃん、私たち、ずっと友達でいられるかなあ」
「ずっと友達に決まってるよ」
何言ってるの、となまえちゃんは振り返ってあっけらかんと笑う。なまえちゃんには不思議なパワーがあるのだろうか。普段、不確定な未来のことをあまりはっきりと口に出さないなまえちゃんがあまりにも真っ直ぐな瞳でそういうのだから、絶対絶対、大丈夫だと思える。そのうちみんなが集まってきて、キッチンが笑い声で賑やかになる。なんとなくアンニュイになった気持ちも今だけは顔を隠していてね。各々準備に取り掛かりはじめると、なまえちゃんの方から甘くて優しいにおいがして、なんだか口元が緩むのだった。
back.